-失踪-
結局、殆ど眠れないまま、レンは登校しなければならなくなった。
朝見た限りではランも特に可笑しな様子もなし、レンを意識しているようにも見えず、いたって普通だ。少しばかりの不安を感じながらも、レンはリンに連れられて学校へと向かっていた。
途中、見覚えのある大きなツインテールが一人せわしなく動き回っているのが見え、リンがそれに駆け寄ると、相手は少し動きを止めて何かを迷っているようだった。
「ミクちゃん?」
そう声をかけてみるが、ミクは応えようかためらっているように見えた。そこで、レンが一つだけ、気になったことを口にした。
「使い魔は?あの死神のアンとかいう――」
「…」
しばらく何かを考えていたようだが、意を決したように顔を勢いよく上げると、思いがけない頼みをしてきた。
「アンが…いなくなってしまったの!お願い、アンを探して!!」
そういったミクの顔はふざけているようには見えず、真剣そのものの状態で、本当に使い魔を心配しているのだろうということが見て取れる。
先ほど何かを躊躇っていたのは、自分が命令して手にかけようとした相手にこう話すのは、プライドが許さず、ましてや断られでもしたら、と考えたのだろう。
するとリンが胸を張って、
「いいよ」
といった。その横からレンが口を出す。
「交換条件」
「何?」
「アンタはリンと仲良くしてやる!俺たちはアンタの使い魔を探す!…どうだ?」
少し照れくさそうに言ったレンに、渋々頷いてミクはその交換条件をのむことにしたらしく、リンに手を差し出して握手を催促した。その手をしっかりと握って、リンは嬉しそうに笑って見せた。
「交換条件、のんであげる。だから、アンを探してよ!」
「わかってる。レン、がんばろうねッ」
「…ふぅ」
面倒なことばかりだな、とレンは心の中で呟いて肩を落とした。
帰りのミーティングで、先生が『クラス対抗歌唱コンクール』について、話していた。二人は少人数戦に出場するので、熱心に聴くのだがどうもレンの考えていることはそれとは別のことらしい。ちらちらと隣の席に座っている転入生を見てはメモ帳に何かを書き込んでいるようだ。
「…と、こうなります。男女、出席番号順に並んで・・・。いいですか?」
「はーい」
生徒たちのやる気のない声を聞いてとくに怒るわけでもなく、先生は日直に号令をかけるようにいう。まあ先生だって何かしら用があるのだろうし、彼らの先生はこれでもお年頃、二十歳前半の新任であるから、そういうことがあっても仕方がないといえるのだが、新任教師というものは大概もっとやる気に満ち溢れているようにも思えて、どうもこの先生はやる気が足りない、とレンは感じていた。それはさておき、これで今日の授業が終わったわけだが、レンもリンもまっすぐに館に帰るつもりはサラサラなかった。
「レン、アンちゃんを探そう」
「悪い、ちょっと用事。それが済んだらすぐに行くから」
「…わかった。ちゃんと来てよ?」
「ああ」
そういってわかれると、レンは昨日レオンがいた公園へと直行した。そこには昨日と同じように立って、そこらへんにいた鳥にえさをやっているらしく周りには鳥が大量に集まっていたが、レンが来たことに気がつくのは早かった。
またニコニコと手招きをする姿を見て、レンは昨日は感じなかった不快感を覚え、それを隠すようにできるだけ平静を装ってレオンに近づいた。
「やあ」
笑顔で挨拶をするレオンは、レンの怒りなど微塵(みじん)も感じていないのだろうか。
一気に間合いをつめて長身なレオンの襟をぐいと引っ張り上げ、顔を近づけると、隠していた怒りをあらわにした。
「お前、昨日、ランにあったといったな?ランに何をしたのか、言え」
「何のこと?」
「しらばっくれるな」
「…ただ、記憶をなくしているようだったから、記憶をよみがえらせただけさ」
「…記憶を?」
その言葉に、レンは首を傾げるしかなかった。
レオンが話したことは、こうだった。
彼には人の記憶を呼び覚ます能力があり、今まではその能力を使って生活をしてきたが、稀に触れただけで相手に空白の時間があることを感じてしまうことがあり、それを話す相手もおらず、話して異質だと避けられるのを恐れて転校してきたのだというが、ランにあったときに偶然その能力が発動してしまい、恐る恐るそれを打ち明けてみるとそのランも記憶を見ることができるから、とさして驚くそぶりも見せなかったので、記憶が欲しいか、と聞いてみると、怖いけど欲しい、とかえしてきた。だから記憶をよみがえらせてやったが、途中でどうしても彼女の心の奥底で鍵をかけられたようによみがえらせたくない記憶があるらしく、その記憶をよみがえらせることは断念したが、もしかしたら記憶をよみがえらせようとした衝撃によって、記憶をつなぎとめていた鍵となるものが壊れそうになっているのではないか。その場合、鍵となるものは物体ではなく思い出したくない記憶の思い出したくない理由が鍵となり、それが完全に壊れるまでは普通の状態で異常はないが、意識をなくしているとき――例えば眠っているときや、気を失っているとき等に異常が見られ、異常な行動を示す場合があるらしいが、その記憶はないらしく本人はただ眠っているような気分らしい。異常な行動を受けた、あるいは見たものからいつもと違う他人行儀な行動などを示されて、それが引き金となり鍵が完全に壊れ、意識があってもその相手に対してなど異常な行動を起こすらしい。
「…お前…!ランが…アイツが記憶を失った理由も知らないで、そんなことをするな!!お前じゃわからないようなことがあったんだ!それを、お前は人助けのつもりか?大きなお世話だ、今後一切ランには関わるな!!」
「…」
言ってからレンは自分が言い過ぎたことに気づき、すぐに詫びたがレオンは困ったように笑って、
「じゃあ、また明日、学校で」
とだけ言って帰っていった。
帰っていく方向はやはり、学校側へと戻っていく道だった。
「あっ、ちょっと」
そう言って呼び止め、忘れかけていたアンのことをダメモトで一応聞いてみることにしたのだ。
「アンっていうやつ、しらないか?死神なんだけど、知り合いの使い魔なんだ」
「知り合いにアンっていう死神はいるけど、きっと違う人だよ」
「…どうして」
「髪の色が黒じゃなくて金髪だから」
そう言って、レオンは帰っていってしまった。
「――これで疑問は六つ目、か」
そういうとスクールバックからメモ帳を取り出し、六つ目の点の横に疑問点を一つ書き足した。
『何故、アンが金髪だとわかったのか』
と。
「ばーか。知ってるに決まっているじゃないか。知っているからこそ、思い出させたんだって」
そう言ってレオンは昨日と同じように月を見ながら大福を口に押し込んでいた。唯一つ違うのは、月が満月ではなく少し欠け始めた形になっていた、ということだけだった。
鏡の悪魔Ⅲ 3
こん…ばんは…リオンです…。
えーと…書くことがありません。
そういえば、レオンって皆さんの中でやっぱり『おじさんキャラ』なんでしょうかね?流石におじさんが同級生ってまずいだろ、とか、小説のキャラクターに不細工ってどうよ?とか思って金髪色黒にしてみたんですけど、イラストを見てるとどうもオジサン要素が強いみたいで…。
明日からしばらく投稿ができませんので、その辺はご理解を。
復帰は未定ですが、復帰してからも別の親戚の家に行く予定がありまして、その親戚の家はネットがつながるんですが、どうも遠いもので行くので疲れて投稿どころではなくなりそうです。その辺もご理解を。
では、できるだけ…そうですね、土曜日くらいに復帰でしょうか?早ければ金曜日に復帰を目指しますが、多分土曜日になると思います。
では、また今度!
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