一通り挨拶を終えてから、レンは誰かを忘れているような気がして首をかしげた。
 誰かを忘れているような気はするのだが、その『誰か』が誰なのか、思い出せそうで思い出せない…。それから、後ろでレンの肩を叩くものに気がついた。
「カイト…。あっ、カイトだ。そうだ、そうだ。あぁ、すっきりした。リン、これがカイト。俺のお目付け役兼執事」
「あ、よろしくっ」
 忘れられていたカイトは半ば涙目になっていて、何故かリンが自分に対してだけタメ口だったことにさらにショックを受けた様子だった。そんなカイトを、アカイトが慰める。
「…気にすんな」
「うん…。そうだね…」
 ふと、リンがキカイトのほうを見た。一体何を見ているのか、誰もいないはずの壁のほうをじっと見つめて動こうとしない。何かを見ているというよりは寧ろ、何かを見るまいとしているように思えた。
 落ち込むカイトをどうにか励まそうと、レンが困ってリンから目を放している隙に、リンはキカイトのほうによっていった。近づいてきたリンに気がついたキカイトは、少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を作ってリンを見た。
「どうしたました?」
「あ、いや、別になんでもないです。ただ、何を見てるのかなーと…」
 笑顔の中に時折見せる冷めた表情に、リンは少したじろきながらいった。
「そうですか。いえ、何を見ているわけでもないんですよ。私のことはおきになさらず」
 そう言って、キカイトがにっこりと人懐こそうな笑顔を作って見せると、リンはホッとしたことがわかるように表情豊かに笑った。そのとき、アカイトがキカイトの肩に腕を回し、
「よっしゃ、飯でも食いにいくかっ!」
「…そうですね、そろそろお腹も減ってきた頃ですし。…それでは、私はこの辺で。行きましょう」
「おうっ」
 先ほどのキカイトの作った笑顔よりも人懐こそうなアカイトの笑顔は、まるで子猫か子犬のようだった。そんなアカイトと一緒にいるキカイトの笑顔も自然になっていた。
「きっといいコンビなんだろうなぁ…」

「――アカイト、ありがとう御座いました」
 廊下の中、アカイトとキカイト以外、誰もいない。しんと静まり返った空間だった。
「何が?」
「さっき、あのタイミングで声をかけてくれたのは、私を助けてくれるためでしょう」
「…まあ、あの子、手、差し出しかけてたからな。変にお前が拒絶しないように、だよ」
「ありがとうございました」
「別に、礼を言われるようなことじゃねぇよ。お前の拒絶反応のすさまじさは、俺が一番よく知ってる」
 そういって、アカイトが笑うと、キカイトはぴたり、と歩くのをやめた。
 不思議そうにアカイトがたずねる。
「どうした?」
「…いえ、何でも。ちょっとだけ考え事を。行きましょう」
「あ、ああ。何、食う?」
「そうですねぇ…」
 そういうと、また二人は並んで歩き出した。
 その後ろ姿はどことなく似ていた。


 それから、城の中の者たちに挨拶をしてまわり、その日は終わった。
 寝なれない、不思議なカタチのベッドにリンは少し戸惑い、ここに寝ていいのかと少し困ってしまった。しかし、レンはやっと普通の状態に戻ったと思って、内心ほっとしていた。
「それじゃ、お休み。向かいの部屋には夜中でも誰か彼かいるから、何かあったらそっちに」
「うん。ありがとう。おやすみ」


「絶好の遠足日和っ!!」
「遠足には行かないから」
「えーっ!!」
 さっさと身支度を済ませてレンが部屋を出て行く。それを追いかけて、リンが朝っぱらから五月蝿くレンに話しかける。鬱陶しそうにレンが対応すると、リンはさらに不満そうにああだこうだと言ってくるようになった。
「こっちに戻ってきたのは、遠足に行くためじゃないの。会談を無難に終えるためで――」
「レン、お腹減ったぁ」
「聞けよ」
 自由奔放なリンの態度に、レンは呆れながら苛立ちを覚えた。
「レン、会談、がんばって!」
「大丈夫、父さんが会談してるのを何度も見てる」
「そっか、それなら安心だね!」
「絶対失敗なんかしない」
「頑張って!!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

遠い君 13

こんばんは、リオンです。
いや、なんでもないんですけどね。
スイマセン。
それじゃあ、また明日!

閲覧数:271

投稿日:2009/12/14 22:29:12

文字数:1,694文字

カテゴリ:小説

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