りんは僕より強い。
 僕は知るのを恐れた。
 恐れて色んなものを見ないふりしていた。
 事実を受け入れたふりして、何も知ろうとしなかった。
 『人間』より、『鬼の子』より、僕は弱かった。
 りんは、そんな僕に呆れることなく、ずっと隣にいてくれた。

 あの話をしたときから、りんは少し穏やかな目になっていた。
「りんは、僕のことは聞かないの?」
 いつぞやと逆の事を聞いてみても、哀しげに微笑むだけだった。
 微笑んだ後に、
「ごめんね」
 と呟く。
 僕は、りんが話してくれたことを信じたくなかった。
 消えてしまうということが、恐ろしくてたまらなかった。
 りんは、僕のことならきっと大丈夫だろうと、言ってくれたけれど、僕が怖がっていたのはそういう意味じゃない。
 きっと、りんもわかっている。
 分かっていて、そういう言い方をしたんだと思う。
 二人で手をつないで、季節を越えるたびに、りんの震えはひどくなった。
「はなしてもいいよ?」
 その度に、りんは言ったけど、僕はより強く握り返した。
「いやだ」
 そう言うと、りんは決まって泣いた。
「りん」
 そう呼ぶと、りんはひたすら泣いた。
 強いりん。
 僕はずるい。
「りん」
 りんは泣く。
 初めて会ったときのような、無表情じゃなくて、眉をしかめて、必死にこらえて泣いていた。
 僕はりんに泣き止んでほしかった。
 雪の降る日には、二人で走り回った。
 きらきら光る白い綿の上を、ただ手を繋いで走った。
「きれいね」
 りんは、そう微笑んだ。
 花の咲き誇る季節には、ぴょこぴょこと跳ねるように一日中歩いた。
 溢れるかえる色の中で、あの青い花を髪に飾った。
「ありがとう」
 りんは、そう微笑んだ。
 雨が降り続いたときには、時折見せる青空に映る虹を指差した。
 七色の橋が空を飾る。
「すごいね」
 りんは、そう微笑んだ。
 鈴虫がなく夜には、満天の星空を見上げて耳を澄ました。
 まるで、星が歌っているようだった。
「こわいね」
 りんは、そう微笑んだ。
 二人の手は繋がったまま、互いに強く握り返すだけで、放そうとしなかった。
「どうして?」
 りんには、それが精一杯だとわかっていた。
 もう、よく目も見えてないだろうし、耳もあまり聞こえてない。
「だって、手が震えているわ」
 きっと声を出すのも懸命だっただろう。
 呟くように返されて、僕は泣きそうになる。
「僕も…怖い」
 りんの声を掻き消すような鈴虫の鳴き声。星は眩しいばかりに輝いていて、目が眩みそうになる。
 僕もりんも、小さく見えて、今にも消えてしまいそうで。
 不安になる。
「怖いよ」
 そう繰り返すと、ぼんやりとした目に夜空を映すりんが、僕の肩に頭を乗せて身を任せてきた。
「そうね…こわい…けど、ぼくはこの瞬間がうれしくもある。もちろん悲しいけど、もっと一緒に居たいけど…」
 りんの手の力が徐々に抜けていく。震えも小さくなっていった。
「楽しかったよ」
 僕はわがままだ。
 りんに泣かないでと言っておいて。
 嗚咽を押し殺すのに必死で、震える声を押し殺して、手の力をより強くした。
「大丈夫」
 よく回らない頭で、そんな頓珍漢のことを言った。
「大丈夫だよ」
 自分に言い聞かせるように、繰り返した。
 りんは、もう瞼を持ち上げる力もあまりなくなっているようで、閉じようとするのを必死でこらえていた。
「会えてうれしかった。『鬼の子』とか『神の子』とかじゃなくて、そのままのぼくを受け入れてくれた。ぼくを『りん』でいさせてくれた。ただ…君の名前も知りたかったな」
 りんは、そう微笑んだ。
「また…会えるなら…今度は教えて…?」
 囁く様な声なのに、妙に頭に響いてくる。
 鈴虫もそよ風も星も、うるさく感じた。
「いいよ。また…会おう」
 僕の肩にかかる力は強くなっていく。
「約束」
 りんは笑った。
 忘れない。忘れられない。
 たとえ、りんが消えてしまっても、僕の中に居続ける。
 僕の中に生き続ける。


「泣かないで」
 大丈夫だから。
 このきらきら光って流れるものは、星じゃないでしょ?
 だって、こんなに温かい。
「ごめんなさい」
 残して消えてしまう。
 君が優しいから、それを利用してしまった。
 何も還してあげれないのに。
「ありがとう」
 手をはなさないでくれて。
 本当の気持ちをいつも分かってくれて。
 それでも、ぼくを許してくれて。

 ずっと、わすれないよ。

 きっと、何度生まれ変わっても、それが辛い運命に繋がっていたとしても。


 ぼくはきみをわすれない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

鬼の子-その6-

死の淵から帰ってきました(笑
いや、これはマジです。

りん編の終わりです。
その3の冒頭の文章を見てくださると、ちょっとスッキリする様な感じがします。
そして、またもやいきなりの展開ですorz
後で、もう少し長くするかもしれません。

偉大な原曲様に沿っていけてるか、不安になってきました。
わけ分からない人は素晴らしい本家様を聞きに行きましょう!!笑
本家様=http://piapro.jp/content/371rlchbw857ki6g

ご意見、ご感想、頂けるとありがたいです。
分かりにくい部分は善処していきます。
今回は特に皆様のご意見を聞きたい所存にございます。

ちなみに、リクエストでもOKです

閲覧数:278

投稿日:2009/02/01 18:43:37

文字数:1,925文字

カテゴリ:小説

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  • 痛覚

    痛覚

    ご意見・ご感想

    火天使様、はじめまして!!

    分かりづらい文章で申し訳ないですorz
    それでも、切ないと感じてくださって嬉しいです!!
    これからも、何かを感じていただけるような作品になるように頑張ります。

    ユーザーブックマークありがとうございます(*^^*)

    2009/02/03 00:02:54

  • 痛覚

    痛覚

    ご意見・ご感想

    fumu様!!
    御本家様がいらっしゃいました!!
    こちらこそ、本当にいつもお世話になっておりますm(__)m
    恐れ多くも、正真正銘、fumu様の作品のお話です。
    なので内容にどんどん突っ込みいれて大丈夫ですよ!!
    文章を書かせていただく度に、作品の深さに驚きを感じております。
    歌を聞きながら、楽しみつつ頭を悩ませつつ書かせていただいてます(笑

    これからも頑張りますので、よろしくお願いします!!

    2009/02/02 23:44:28

  • fumu

    fumu

    ご意見・ご感想

    (´;ω;`)ぶわっ
    またとても切ない話がgg
    本当に元になったのが自分の曲だって信じられないですねー・・・凄いです><
    原作者が内容についてあんまり言うのもアレなので基本的にコメントは避けますが、ちゃんと読ませて頂いておりますよー(´▽`)
    いつも素敵な作品を有り難う御座いますー!

    2009/02/02 22:53:09

  • 痛覚

    痛覚

    ご意見・ご感想

    逆さ蝶様、早速ご感想ありがとうございますm(__)m

    りん、消えちゃいました…;;
    書いていても、頭がぐるぐるするくらい悩みました。
    ただ泣けるだけじゃない心情を書けていたら何よりです。
    うーん…複雑です。

    れん君は絶対りんちゃんを忘れません。
    それがどういう形になろうと。
    そう、願っています。

    ユーザーブックマークありがとうございます!!
    これからも頑張ります!!

    2009/02/01 22:01:39

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