―――――猫又ロシアン。彼はもう一人の『繋ぐ者』だ。


嘗ては普通の猫だった彼は、惚れた女を追いかけるため、猫神に懇願して猫又へと姿を変えた。そして同時に不死の呪をかけられ、かれこれ300年間どんな重傷を負っても彼は死ぬことなく旅を続けている。現在では惚れた雌猫又を負うことよりも、ヴォカロ町で荒れた心を休めるほうが楽しいようだが。


どっぐちゃんが常にかなりあ荘で待機し、ルカさんたちをいつでも呼び出すことができるのに対し、ロシアンは常にヴォカロ町の世界を放浪していて、気が向いたときにいきなりゲートを開けてやってくるのだ。



たとえばこんな風に―――――





《―――――ボン!!》





「おわぁ!!?」



突然の爆音に振り向くと、空間に穴が開いていた。

穴の周りは碧い焔で縁取られている。ああ、やっぱあいつか。

予想を裏切らず、穴から出てきたのは一匹の猫―――――いや、猫又だ。

ロシアンブルーの猫又だ。細い尻尾を二本ゆらゆらと揺らすその周りには、碧い焔がまとわりついている。

鮮やかな碧眼で、額には三日月の模様。


こいつの名はロシアン。ヴォカロ町の世界を放浪する、ロシアンブルーの猫又だ。


『よう、Turndog』

「おおう……いつも言ってんだろ、驚かすなと……」

『これぐらいで驚く貴様の精神が軟弱なのだ。……しかしまぁ相変わらずひどい部屋だ。何だあれは。棚か?』

「……いや、冷蔵庫」

『どう見ても壊れているようだが? ネルに頼んだらどうだ』

「ここ数日忙しいみたいでさ……連絡取れねえんだよ」


もちろん、それ以外にも理由はある。

先日大家のしるるさんにもらった壊れた冷蔵庫―――――しるるさんは『ターンドッグさんとこには器用なネルちゃんいるんだから大丈夫でしょ?』と言っていた。確かにそうだ。

ヴォカロ町のネルは天才的修理師だ。だが同時に変人的改造師でもある。その才能も変人的ながら、感性も変人的だ。『修理お願い』と言ってカメラを渡せば、なぜかフラッシュ部分が粒子砲になって返ってくる。写真一つ撮るだけで大惨事だ。

カメラならまだ使わなければ何とかなる。だが冷蔵庫はそうもいかない。常時使っているのだから、みょうちくりんな機能を付けられてはたまったものではない。


『だがしかし、いくらネルとはいえ生活に必要なものぐらいまともに直してくれるのではないか?』

「どーだかなぁ……」


腕は信用してもいいが感性は絶対に信用できない。俺の中でのネルはそんな子だ。



と、そこに。



「あれ? ロシアン来てたんだ~。珍しいねー!」

『……出たな、どっぐ……』


全力でウザったそうな眼をロシアンが向ける先には、どっぐちゃんの姿が。


「おう、どっぐちゃん。どこ行ってたんだ?」

「かなりあ荘の強度点検! しるるさんに頼まれてさ!」

「どんだけうちの面子有効活用してんのしるるさんっ!!?」


こないだはルカさんを警備員代わりに使ってるとか言ってたし。フリーダムすぎやしませんか。


『そんなことはともかくだ!!』


突然ロシアンが立ち上がりどっぐちゃんを睨みつけた。


『おいどっぐ! 貴様ヴォカロ町で吾輩の悪口を広めているだろう!! ふざけた遊びをしやがって!!』

「いーじゃない、少しぐらい。それに微々たるもんよ~? 『昔のロシアンは女たらし』とか、『本気のロシアンはナウなヤング』とか」

『ふざけるなっ!! 今日こそ引導を渡してくれるわ!! 『焔槍』――――――――――』



『どっぐあっぱー―――――――――っっ!!!』



攻撃を仕掛けようとしたロシアンが―――――どっぐちゃんの一撃で天井に突き刺さった。

ロシアンの気性を知っているものなら、こんなことしてどっぐちゃん大丈夫かと心配になるかもしれない。しかしロシアンは、ある性質上どっぐちゃんに致命傷を与えることはできないのだ。



どっぐちゃんの特技は二つある。一つはパワーリフティング。片腕で荷を積んだダンプカーを軽々持ち上げるほどの腕力を持っている。

そしてもう一つが―――――ロシアンを遠慮なく殴れること。どっぐちゃんとロシアンは共に二つの世界を自力で行き来できる『繋ぐ者』だが、本来の『繋ぐ者』は『Turndogの世界』で誕生したどっぐちゃん唯一人で、元よりヴォカロ町の世界の住人であるロシアンはどっぐちゃんの力の影響を受けて二つの世界を行き来する力を手に入れただけなのだ。

つまり仮にロシアンがどっぐちゃんに致命傷を与えた場合、ロシアンは二つの世界を行き来できなくなるばかりか、最悪の場合こちらの世界に閉じ込められ戻れなくなってしまう可能性もある。よってロシアンは抵抗できない⇒どっぐちゃんはやりたい放題というわけだ。



「とは言ったもんの、ちょっとやりたい放題すぎやしねえか?」

「ん……まぁ、ね。でもロシアン頑丈だし、いいじゃない」


どっぐちゃんの言ったとおり、ダンプをも粉砕するようなアッパーを喰らったというのに、天井から抜け出してきたロシアンは無傷のようだ。つーかこの天井誰が弁償すると思ってんだこの犬猫どもめ。


『ちっ……嫌な気分だ全く。吾輩は帰るぞ! さらばだ!!』

「あっ、おい!!」


止める間もなく、ロシアンは空間に風穴を開けて帰って行ってしまった。忙しいやつだ。さて、仕事仕事―――――


「……ところでさ、いつまでその冷蔵庫と手回しラジオほっとくの?」

「う……」


どっぐちゃんよお前もその話題かっ。


「しるるさんだって、大抵のことを頼めるのをいいことにTurndogにそれ押し付けたわけじゃない、Turndogと、ネルさんの腕を信じたからこそ託したんじゃないの?」

「う……ん……」


わかってる。『作った』俺が信じ切れていないネルの事を、しるるさんは全面的に信用してくれてる。

どっぐちゃんやルカさんがしるるさんのお願いを聞いているのも、しるるさんが皆の事を信用しているから。


「……俺もちゃんと、ネルと向き合ったほうがいいのかなぁ……」

「……ま、あんた次第だけどね……。じゃああたし、ちょっとヴォカロ町まで出かけてくるわ」


そう言って、どっぐちゃんは時空転移用PCの中に突っ込んでいった。


一人残された俺は、じっと月を眺めていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!Part2-1~ロシアンとどっぐちゃん~

ロシアン登場!どっぐちゃんとの意外な関係性が明らかに。
こんにちはTurndogです。

どっぐちゃんの意外すぎる特技!!
ダンプ粉砕できる『どっぐあっぱー』、並の建物なら多分消し飛ばせます。
それだけにその威力を叩き込まれて無傷のロシアンももちろんだけど、その勢いで吹っ飛んできたロシアンが突き刺さっても壊れないかなりあ荘の2階の天井は頑丈すぎると思いますww
多分木造は木造でも檜でできてるんだと思う。意外と高級アパートだww

閲覧数:119

投稿日:2013/06/20 23:20:32

文字数:2,650文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

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    犬と猫だから、気が合わないんだねw

    そ・れ・よ・り・も(黒)
    天井になーにしてくれてるのかなー(真っ黒)
    上の階にも人がいるんだよー(ドス黒)
    ふっふっふー(漆黒)

    2013/06/21 04:05:51

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      え、えーとあのその請求書はどっぐちゃんにでも……あっ、どっぐちゃん逃げるな!!
      いやちょまいやあああああああ(((

      2013/06/21 11:30:48

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