「俺はもっとモテていいと思うんだ」

至極真面目な表情で言われたその言葉に、私は一瞬片割れのバグを疑った。




<青少年の健全な主張>




「よく考えてみろよ、リン」

私の困惑なんてよそに、レンは真剣に続ける。

「クリプトンとしては今現在女声タイプ四人に対し男声タイプ二人、単純計算すれば俺は二人から引っ張り凧になるのは間違いない」

そもそも単純計算した時点で間違ってる、そう突っ込みたくなって私は眉根を寄せた。それはレンも男だし、そんな夢があってもおかしくないんだろうけど。

「そして一人の美少年、つまり俺を巡って争う二人の美少女!俺の為に争わないでー、なんて言いつつ美味しいところは全部俺のものに!」
「…」

訂正、これを普通だと言ったら世の「普通」に対する冒涜だ。
さてどう文句をつけてやろう、私は半眼でレンを睨みながら頭の中でいくつかの台詞を考えた。

「まあ一人はリンとして、後は誰が良いかなー。対照的って点ではルカかなー」
「はい!?」
「大丈夫大丈夫、タイプ違うから飽きは来ないだろうし」
「そりゃ私に飽きるわけないよ…じゃなくて何で私なの!?」

考えていたことを放棄して思わず叫ぶ。
だって、なんなのこの子!?ありえない。
言っておくけど、私とレンは良く似ている…外見が。一部の鏡音とは違って双子じゃないから倫理的問題は無いだろうけど、その感性は良くわからない。
自分に良く似た女の子にモテたいってどういう事?まさかのナルシストなの?

「え?わかんない?」
「全然わからんわ」

私は不機嫌に答える。わからないから聞いてるの、惚けている訳じゃない。
いや、正確には分からないというか分かりたくない。
明らかにこのままではマセレン、しかも残念な感じのマセレンまっしぐらな片割れに、ブレーキをかけてやりたいけど同時にあんまり関わりたくない場合私はどうすればいいんでしょうか神様仏様マスター様。

軽く苛立ちながらレンを半眼で見据える。それをどう都合よく解釈したのか、レンは嬉しそうに私の両肩を掴んだ。

「俺とリンはペアだろ?」
「それは、うん」
「ずっと一緒に生きてきた」
「そうだね…え、何そういう理由?」

もしそうなら拍子抜けしそう。まさか、今までずっと一緒だったからこれからも、とかいうかわいらしい理由なのか。それならまあ可愛いげがないでもないかな。

―――と、なんとか納得しようとしていたのにレンはあっさりと首を横に振った。

「いや」
「じゃあ何?」

話がどう展開していくか分からなくて私は首を傾げた。でもなんだろう、微妙に嫌な予感がする。
僅かに胸騒ぎを覚えながら言葉を待つ私にレンは真剣な表情のまま主張した。

「つまりさ、一緒に育ったって事はお互いの事を一番良く知ってるって事だよ」
「必ずしもそうだとは思わないけど、確かに私達はそうかもね」


「だろ?って事は好きなコトやイイ所も良く分かってるって事だ!」
「ばっ、ばかあああああああ!!」


なんだそれ、酷いにも程がある。少しでもまともな理由かと思った私が馬鹿だった!
それはこのレンだもん、ろくな理由な訳ないんだよ当然!その位余裕で気付かないといけなかったのに。
なんでなんですかマスター!なんでうちのレンはいつもマセレンなんですか!?いや、マセレンというかダメレンかな。人(ボーカロイドだけど)として駄目だから。

私の思いなんて知らず、レンは言ったらまずいような事を解説し続ける。

「つまり誰より相性がいいんだよ!」
「だが断る、全力で!チェンジお願いしますチェンジ!」
「なんで嫌がるんだよ、見ろこのイケレン具合!」
「顔と中身は必ずしも一致する訳じゃないの!私にも選ぶ権利欲しいわ!」
「じゃあ誰が良いんだ!アイスかナスかメガネか、どれだって言うんだよ!」
「うっ……!」

相手の言葉に対して言葉を被せるような言い合いの途中でつい詰まってしまう。だって残念なことに、うちのマスターの使う成人男性トリオは皆変人なのだ。正直レンと大差ない。
嫁ぎ先が悪かったKAITOってタグがあるけど、多分うちのマスターは嫁ぎ先としては非常に残念な部類に入るんだと思う。…男声タイプにとっては。
イケレンって都市伝説だよね。その上、うちではカッコイイ兄さんは絶滅しちゃった。あの殿に仕えたいとは間違っても思わないし、あの先生が担任だったら鬱になりそうだ。
マスター、マスター、もう少しましなキャラ設定は出来なかったんでしょうかね。これはひどい。

とかなんとか私は半ば現実逃避を始めたのに、何故かレンは話を打ち切る気配がない。

「でも時には新たな刺激が欲しい、そんな時につまみ食いするにはもう一人必要で」

馬鹿レン、空気を読んでよ。その前に私の表情を読んでよ。私達、お互いの事を良く知ってるんだったよね?じゃあ私の表情の意味も分かるよね。いや、分かって。寧ろ分かれ。
というか常識的に考えてそんな話はするものじゃないでしょ!?
何が悲しくて二股論議を聞かなくちゃいけないんだろう。なにかの罰ゲームだって言われた方がまだ分かるよ。しかも、こんな日に限って皆用事で家を空けてるし。
ああ誰か助けて、この大馬鹿の口にガムテープ貼ってください、なんて願ってみた所で救いの手が差し延べられることもない。いっそ自分で貼ってあげようかな、なんて考えてしまう位だった。

ふとレンの熱弁が止まった。

なんだろう、と怪訝に思いながら彼を見て、―――ぎょっとする。

え、何その目つき。何でこっち見てるの?何でそんな凝視してるの?
いや、まさか、まさかね。違うよね、いくら暴走しているとはいえそんな方向に行っちゃったりしないよね、そうだよね、違うよね、ち、ちが、…違うって言ええぇぇぇ!



じりっ、とレンがにじり寄る。
じりっ、と私が後ずさる。



怖くなるほど真剣な目で、レンが呟く。

「とりあえずまず一人…既成事実だけでも…!」



なんで、どうしてうちのレンはこうなの。
マスター、恨みます。



「いや、あのね、まさかと思うけど…全年齢に推奨できる行動をとってよ?私達、14だよ?」
「うんオッケー、俺ら人間じゃないし」
「何もオッケーじゃない!何する気!?」
「何って、とりあえずやることやっちゃおうかなー、と。マスターなかなかそういう方に持って行ってくれないし」
「い、いやぁ―――っ!?やめて来ないで変態、犯罪者!通報するから!」
「出来るもんならどうぞー」
「あっネット接続切りやがった!ま、マスター!マスターぁ!…聞こえないフリしてるし!」
「残念、マスター公認でした。それじゃいただきます!」


「………ふ、ふざけるなああぁぁ――――!!」







レン、百歩譲ってレンの主張が正しいとするよ。
だからといってこのやり口は、明らかに間違ってる。

とりあえず後で覚悟よろしく。
女声タイプのボーカロイド全員に、この経緯を告げ口してやる。しかも泣きながら。


女をナメたらどうなるか、思い知れ!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

青少年の健全な主張

L「おい作者、なぜこんな役回りにしたし」
R「なぜこんな展開にしたし」

かっとしてやった。それがマイクオリティ。

閲覧数:1,327

投稿日:2010/06/16 09:08:34

文字数:2,918文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • Raito :受験につき更新自粛><

    丁度一年前なんですねこの作品…しみじみ(←何が言いたい!)

    ピアプロの作品の中でもギリギリの線を行ってますね(笑)夜中一人で自宅のパソコンで読んだ僕は正解ですね。
    いや、違う意味で一人でこの作品を笑いながら読んでいるのは危ないかな…

    とにかく翔破さんGJ!!

    2011/06/17 03:55:25

    • 翔破

      翔破

      コメントありがとうございます!そうなんですよね、気付けばもう一年以上ピアプロに居座っているのです…時間が経つのって早いなあ。
      私は割とぎりぎりの作品を書くのが好きなので、気に入って頂けたなら嬉しいです!そしてその状況だと、読んでいるときに周囲の状況にはご注意ください。知り合い・家族に見られると後々残念な目で見られる可能性が…。
      今後もこんな感じのものを書いていく予定であります!お暇な時にでもご覧くださいませ!

      2011/06/17 22:58:54

  • Aki-rA

    Aki-rA

    ご意見・ご感想

    勘弁して下さい!
    職場の休憩室で吹いちゃって周りから変な目で見られちゃったじゃないですか(;_;)
    それにしても男声タイプ残念過ぎる‥

    2010/11/10 12:54:32

    • 翔破

      翔破

      ちょwなんて所で何て物読んでるんですかw
      私もコメント読んだ瞬間に思わず吹いて、友人に引かれました。
      …周りの目には注意が必要ですね!

      ちなみに、男声タイプのキャラ付けの酷さは私の中で最早デフォルトです。
      え?彼ら、いじられ役ですよね?

      2010/11/10 16:44:42

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