ヴォカロ町は、この世界では至極平和な町だ。
騒動と言えば、時々起こる他愛ない事件(全部ルカさんが締め上げて終了)ぐらいなものだ。
とはいえ、一歩外に出ればそこは『憲法第九条を失った日本国』―――――危険なこと極まりない。
そしてこの世界の『創造者』たる俺が死ねば、この世界の『時』は止まってしまう。
そこで最低限の自己防衛が可能なように、このヴォカロ町の世界に入り込む時、俺の体には―――――
「……よっと」
通常の数万倍の筋力が宿る仕組みになっている。
「相変わらずすっごいねー……あの大岩を軽々持ち上げるなんて!」
「まぁ、この世界限定だけどな」
俺の左腕の上には、数tはありそうな大岩が乗っている。崖上でぐらぐら揺れていたのを、『いっそ降ろしたほうがいい』というどっぐちゃんの提案で持って降りてきたのだ。
これぐらいの力がないと、自らの身を守れないほど外の世界は危ないということだ。
「……つっても、あいつにゃ叶わないけどな」
「……うん、確かに」
そういって俺たちが見たのは―――――どっぐちゃんだ。
どっぐちゃんはもともと、俺の精神体が分裂したものが性転換したり様々なプログラムを呑み込んだりして出来上がった存在。
つまり根幹は俺と全く同じ存在なのだ。
このためヴォカロ町の世界は、どっぐちゃんと俺を『同一の存在』と考えてしまう。
したがって、どっぐちゃんにも『俺と同じ作用』が働く―――――
その結果―――――どうなるか?
「せい!!」
《ババババババババババババババババババババババババババンッ!!!!》
当然―――――こうなる。
今のは岩が砕けた音などではない。どっぐちゃんが振った腕が―――――天空高くまで衝撃波を放ったのだ。
つまり今の音は空気の壁が突き破られた音―――――どっぐちゃんの腕の振りは、この世界では音速を遥かに超える。
「ふわあ~……凄すぎない?」
「うん、まぁ……」
元からダンプを投げ飛ばせる腕力だ。数万倍まで増幅されれば山の一つや二つは簡単に吹き飛ばせるだろーな。
「あれ? Turndogさん?」
「あー!! ほんとだTurndogさん!! 珍しいねーこっち来るの!」
不意に元気な少年少女の声が響く。
振り向けば、リンとレンが全力疾走で飛び込んできていた。
『とぅあ―――――!!』
「ぐほあ!!!」
フライングダブルチョップ×2が俺の胸部に炸裂!!
こいつら手加減というもんを知らんのか。しかもミクと同じフライングダブルチョップって。この暴力家族め。
「ててててて……お前らなぁ……!!」
『だいじょぶだいじょぶ、加減したからさ!!』
一言一句違わずハモんのかよ。すっげえなおい。
そして更にそこに―――――
「あらー? 用事が早く済んだからさっさと帰ってきてみれば、Turndogじゃない!こっち来るなんて珍しいわね」
「メイコ姐!」
赤い衣装に身を包むグラマーな美女()。めーちゃんことメイコだ。
「よっ、めーちゃん!」
「やっほい、どうしたのよ突然?」
「ちょっとミクに遊んでくれとか言われて引きずり出されてな」
「ははっ、最近ミク暇してるからねえ」
「だってみんな遊んでくれないんだもーん!」
駄々をこねるミクをからからと笑いながらなだめるメイコ。ヴォカロ町町長を務める彼女は、どんな時でも町民や家族に対し大きく、そして優しく接する。
ヴォカロ町に住む人間とボーカロイドの中では、ルカさんやネルと並んで俺と対等の立場で話せる数少ない人物(?)だ。
「……お。どっぐちゃんもいたのね」
「まーね……!」
どっぐちゃんとメイコの視線が合った瞬間、一気に空気が張り詰めた。
やっぱりこうなるのな―――――俺はそう思った。
メイコとどっぐちゃんは決して仲は悪くない。むしろ良いと言ってもいいくらい―――――なのだが、何せ怪力を持つ者同士、いやが上にもライバル心が沸いてしまうのだ。
「今日こそ決着着けてやるんだから……!!」
「へーぇ、確かこれまでの戦績はあたしの150戦150勝0敗1分けだった気がするけど?」
「うぐぐ……きょ、今日こそは勝つもんっ!! 行くぞ――――――――――っっ!!」
「かかってきんさいっ!!!!」
構えをとるメイコ―――――だがどっぐちゃんはその瞬間にはメイコの眼前まで迫っていた!!
「はあああああああっ!!!」
「ふん!!」
ゴン!! と鉄と鉄がぶつかるような音がして、メイコとどっぐちゃんの拳がぶつかり合う。
体重が軽いはずのどっぐちゃんだが、吹っ飛ばされずに残している。全速力の突進常節の威力が、メイコの威力に勝っているのだ。
「はぁ!!!」
「らああああっ!!!」
続いて至近距離からの蹴り! どっぐちゃんは空中に浮いてのキックであることに加え、元々の一撃の威力は頭身の大きいメイコのほうがはるかに大きいが―――――
「えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ―――――――いっっ!!!!」
その体勢から全身の筋肉にねじりを与え、どっぐちゃんの回転蹴りがメイコの体勢を崩す。
スタイリッシュパンチラすらも気にしない。焦げ茶色のワンピを荒ぶらせ、高速の連続蹴りがメイコに決まる。
「ははっ……面白いじゃん!!」
「なめんなよ……っ!!」
余裕綽々としたメイコと、若干押しながらも必死などっぐちゃん。
だが共にその両腕両足に秘められしは、大地を砕き海を割る怪力―――――!!
「ふえええぇぇぇ……!!」
「めーちゃんもすごいが、どっぐちゃんもすごいぜ……!! あのめーちゃんと対等に渡り合ってやがる!!」
どっぐちゃんの戦いを初めて目にしたリンとレンは目を丸くして見守っている。
その隣で、俺は呆れ顔をしていた。
「ったく……はらはらさせやがる……」
「確かに……ねぇ。ふふ……!」
ミクも若干呆れ顔だ。だが、その顔はどこか楽しそうだ。
「……ミク? なんだか楽しそうだな」
「ん? あはは、そーかもね♪」
「いやこれを楽しんでみてられるってどーなん―――――」
「ねえ、Turndogさん。歌と戦いって、なんだか似てると思わない?」
「……はい?」
いきなり何を言い出しやがる。
歌と戦いが似ている? どういうことだろう。
「……歌と戦い。何一つとして似ていないように見えて、本質的なところは同じ。『相手に自分を伝える』ということは変わらない。その手段が、音と声か、殴り合いと武器かの違いなんだと思うの。今メイコ姐とどっぐちゃんは、全身全霊で殴り合って、『自分のほうが強い』って思いをお互いぶつけ合ってる。ああやって想いを伝えられるって、すごくいいなぁって。私は歌で誰かのために想うことはできても、それ以外の能がないから……」
しみじみと語るミク。どこか寂しげな横顔。
その哀愁を背負ったミクは、今まで俺が見たことのないミクで。
今まで見てきたどんな寂しげなミクの絵よりも、ずっと悲しげな、寂しげなミクだった。
そのミクが語ったことは―――――俺にとっては『初めての音』だった。
「……ミク」
「……!」
「お前には誰にも真似できない、誰にも負けない心があるさ。仲間も、敵も、全てを思いやれる心。だけど仲間を守るためならば、全力で戦える心。菩薩と明王を宿した心は、お前だけのものだ。それこそが、お前の一番の能だよ」
呆気にとられていたミクだが、次第にその顔がほころんでいく。
「……ありがと、Turndogさん」
「……………」
―――――最も俺にいわせりゃ、お前ほど才能だらけの奴はいないんだけどな、ミク。
歌えて。戦えて。そして誰かを想う気持ちはだれよりも強い。
他の皆に聞いたら絶対笑うぜ―――――『ミクほど才に恵まれた子はいない』ってな。
ま、言えないけどな、とてもじゃないが。
「あ!! これは決まるっ!!」
突然リンが大声を上げる。
振り向くと、空中に飛ばされたどっぐちゃんに向けてメイコが腕を振り上げていた。
左腕を照準代わりに伸ばし、右腕を後ろに引いて力を溜めるあの体勢は―――――
メイコの最強拳、狩人拳《イェーガーナックル》―――――!!!
「イェェェェェェェエエエエガァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
咆哮と共に―――――全体重をかけた右拳がどっぐちゃんを直撃!!
吹っ飛んできたどっぐちゃんが―――――
「ごぶふぉびゅっ!!!!?」
―――――俺を巻き込んで岩壁に激突した。
俺の記憶はそこで途切れた―――――――――――――――
意識が戻った時、そこには泣き腫らした顔のどっぐちゃんとミク、そして顔面蒼白のメイコの姿が。
まだ体の自由があまり利かない……が、何とか起き上がることはできる。どうやらかなりあ荘に戻ってきたようだ。
「た……Turndog? だいじょぶ?」
「ん……まぁな……いたたたた……」
「ご、ごめんね? ちょっと周りが見えてなくて……」
床をぶち抜かんばかりの勢いで土下座し頭を打ち付けるメイコ。あの、反省の誠意は十分伝わったのでごっつんごっつん頭を床にぶっつけるのはやめていただけないでしょうか。また弁償させられます。
そんな床をぶっ壊す勢いで土下座するメイコの隣では、どっぐちゃんが目を真っ赤にはらして俺のことを睨みつけていた。
「えと、あのどっぐちゃん?」
「………せて……」
「……え?」
聞き返そうとすると、今度は涙をボロボロこぼしながらポカポカ殴り掛かってきた。……この子の力だとこれだけでも結構致命傷になりかねんのだが。
「……バカ……!! 心配させんじゃないわよ……!!! このデブ!! 天パ!! 昆虫馬鹿!! 変態!! 奇人変人!! 粗大ゴミ!! そんなんだからいつまでたってもモテないし彼女作っても逃げられるのよ……!!」
えらく罵倒されてる気もするけど……
……だけど、本気で心配してくれてた証だ。どっぐちゃんがひたすら俺のことを罵倒するときは、いつだって照れ隠しなんだから。
「……ごめんな。もう大丈夫だからな。心配してくれてありがとな」
「……うっさい……!! 次泣かせたら……本気で宇宙までぶっ飛ばすから!! ……うっく……あううう……」
しがみついて未だに殴ろうとするどっぐちゃんを優しく抱きしめながら、ミクのほうに顔を向ける。
「……大丈夫? リンとレンはライブがあってこっちまで来られなかったんだ。代わりに『Sweet』で治療してみたの。どこか痛くない……?」
「ん……んー……ん! ダイジョブだよ。まだ少しだるさは残るけど、痛みはとれたみたいだ。ありがとな、ミク」
「そっか……! よかったぁ……!!」
ぱぁっと明るい笑顔を浮かべた。
思わずドキッとするこの笑顔。どんな人の心も一発で鷲掴みにする笑顔。
人を楽しませ、感動させ、考えさせ、そして喜ばせる言葉。
そしてどんな人をも魅了する笑顔。
その存在自体が、『未来』を生み出し、今まで体験したことのない『初めての音』を届けてくれる。
だから彼女は―――――『初音ミク』。
ミク。お前は才に恵まれているよ。
『初音ミク』という才にな―――――。
「ねぇ!! ちょうどいいからさ、ラーメン作ったげるよ!! あたしの大得意なネギラーメン!!」
「あっ、だったら鰹節も入れる!! 絶対入れるんだから!!」
「じゃああたしも手伝うから、魚醤ネギラーメン作ろっか!!」
「お、おいおい……」
「うまく出来たら、お隣さんにも分けてあげよーよ!! ゆるりーさんと雪りんごさん、それに大家のしるるさんにも! 喜ぶよーきっと!!」
明るく笑うミクの声は、俺の混乱も迷いも全部吹っ飛ばしていく。
……しょうがねえな。
「くくっ、じゃあ良いの期待してんぜ!! いつでもみんな呼べるようにしとくからな!!」
「オッケ――――!!」
はしゃぎながら猛スピードでネギのみじん切りを始めるミク。鰹節を取り出して、高速で削り始めるどっぐちゃん。魚醤を作るべく、どっぐちゃんが抱えていた二本目を軽やかに取り上げるメイコ。
明るい声が、俺の部屋に響く。
ヴォカロ町の光が、かなりあ荘にも明るさをもたらしていく。
いつまでも、こんな日々が続くといいな。
dogとどっぐとヴォカロ町! Part3-2~メイコVSどっぐちゃん!!~
結局バトったwww
こんにちはTurndogです。
現実世界()の人間があんな凄まじい世界に突っ込んでいったときに、元のままの体じゃたまったもんじゃないですからね。
ちょっと筋力アップしてみました。あ、皆さんもどうです?w
そしてこれがホントのどっぐ☆ふぁいとっ!!!
……ごめんなさい言ってみたかっただけですw
どっぐちゃんも強い!!だがめーちゃんはこの世界観の元祖怪力キャラとして負けられないのだ!!
♪獲物を屠る∠(°Д°)/めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああんん!!!!
あ、魚醤ネギラーメンは美味しく仕上がりました。
とりあえずしるるさんにゆるりーさんに雪りんごさんの分あるけど、他にも欲しい人いる?まだまだあるよ?www
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しるる
その他
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けど、あんまり怪力すぎると、かわいさを感じなくなってくるような……
犬耳があれば、大抵カバーできるけどさ←
しるるは魚醤ネギラーメンを食べた
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2013/07/02 21:43:55
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ほら、昔から言うでしょ?『カワイイは正義』と。
そして正義とは力なんです。
つまり可愛いは力なんです!!(二行目どうした
2013/07/03 15:35:02