「お待たせー!!」


元気な叫び声をあげて、パソコンからどっぐちゃんが飛び出してきた。


「お、お帰りどっぐちゃん」

「どうだった!? どうだった!?」

「ゆるりーさん落ち着いて!」


どっぐちゃんの帰還を待っていた俺、ゆるりーさん、しるるさんは一斉に振り向いた。


「言われたとおり、ネット伝いに雪りんごさんのPCまで潜って、夕べと今日の検索履歴を調べてきたよ。どうも昨日も今朝も、カイトの画像巡りをしている間にカイトの批判スレ間違えて覗いちゃったみたいね。昨日のスレは大したことのないただの評価スレだったらしくて、そこまでダメージは来なかったのかもね」

「で……今朝のは……?」


心配そうにゆるりーさんが聞きこむと、どっぐちゃんはやれやれと言った顔でため息をついた。


「ひどいもんよ……最初からカイトを罵倒するために建てられたスレだったわ。だって最初の一文がね…………」



【カイトとかマジオワコンwwwwwwwwwwwwwww今やV3の時代だぜwwwwwwwwV1とかマジいらなくねwwwwwwさっさと消えれば?wwwwwwwwwwwww】



「……ってなっててさ」

「何それ!!! りんごじゃなくてもむっかつくー……!!!!!」

「確かにこりゃ酷いな………」


とはいえ、冷静に考えればカイトは2013年7月現在、クリプトンVOCALOIDで唯一発売されているVOCALOID3エンジンにもなっている(ミクはまだ発表されただけだしな)。最初の書き込みをしたやつは、カイトアンチを騙ったボカロアンチか、もしくは時代遅れの単なる馬鹿かだろう。

だがそれは冷静に考えた時の話であり、同時にカイトをV3エンジンで考えた場合の話だ。

『KAITO』というキャラクターの大好きな人ならば―――――そう、雪りんごさんのような人ならば、見た瞬間に頭が沸騰しそうな書き込みだろう。もしかすると、書き込みをしたやつは最初からそれを狙っていた正真正銘の超弩級の外道の可能性もある。


「私の友達をあんな目に合わせて……!! 出会ったら殴って警察にぶち込んでやりたい……!!」

「よしゆるりーさん、あんたの気持ちはしかとヴォカロ町軍団が受け取った」

「へっ?」


そうだ。このかなりあ荘の仲間を泣かされたとあっちゃあ、かなりあ荘の最強警備軍団『ヴォカロ町メンバーズ』が黙っちゃいない。


「どっぐちゃん! 再三悪いんだが、ネルのところへ行って事の顛末を話して連れてきてくれ。仕返ししてやる」

「別にいいわよ。……雪りんごのこと、嫌いじゃないし」


そういって時空転移PCの中へ飛び込んでいった。ナイスツンデレいただきました!


「さて、あとは雪りんごさんだけだな……」

「ぐっすり眠って回復してればいいけど……」

「あんなひどいのを見て、そうそう回復できるわけないじゃない!」

「だろうなぁ……」


俺だって、あんな風な批判スレを見たらイライラする。もしもあれがカイトじゃなくてルカさんや昆虫の話だったら、扉をぶち抜いていたのは俺だったかもしれない。

そんな感じの話をしるるさんたちにすると、『うーん』と首をひねった。


「私はそんなに怒りはしないよ? 仮にリンちゃんやグミちゃんの批判スレ見つけたとしても、『ああ、そんな人がいるんだなぁ』って思うだけ。流石にさっきのはひどいと思ったけど……頑張って自制しますよ」

「私も我慢しますよ、叫びたくなるの」

「あんたら器でっかいなぁ……」


ちょっとびっくり。皆そうそうキレないものなのか。


「がくルカ否定されてもキレない?」

「キレませんよ? ちゃんと我慢します」

「どっぐちゃんを批判されてm」

「チョークアタックです。」

『……………』


どっぐちゃんに負けるルカさんにがっくんマジドンマイ。


「……まぁそれはともかくとして、雪りんごさん大丈夫かな……?」


……その時である。



「……あれ? 何か……聞こえる……」

「え? ……! これは……カイトの歌声か?」



ゆるりーさんの部屋を通り越して、カイトの歌声が聞こえてくる。

この旋律は…………『カンタレラ』?

伴奏も一緒に聞こえる。CDか何かで流しているのだろうか。


気づかれないように、ゆっくりと203号室の前へと移動する俺たち。


《―――――♪ ――――――――――♪♪》


伸びやかな、滑らかな、そして優しげな声が響いている。いつものカイトの声とは、何かが違う。


「きれいな歌声―……」

「うん……うん……」


しるるさんもゆるりーさんも、歌声に聞きほれている。静かな歌声だ。


しばらくして、歌声がやんで、代わりに話し声が聞こえてきた。



―――――これでも、僕がオワコンだと思うかい?―――――

―――――思わない……思わないよ……兄さん……―――――



「…………!!」

「………あはっ」


しるるさんとゆるりーさんが顔をほころばせ、元気よく扉を開いた。


「りんご!」

「ゆる! それにしるるさんも……! ……すみません、ご心配おかけしました。それに……扉と廊下壊しちゃって……」

「心配しないで、あれなら私がどうにかしておくから。とにかく今は機嫌直ってよかった……」


雪りんごさんの回復を喜ぶ二人の横で、カイトが安心したような顔をして立っていた。

お疲れさん、と声をかけると、ほんの少し、寂しそうに笑った。


「……? どうした?」

「……さっきね、雪りんごさんが起きたときに聞いたんですよ。どうしてあそこまで怒ったのかって」

「え……」


それはあのカイト批判スレを見たからではないのだろうか。


「彼女だって、それだけでブチギレるほど短気じゃないってことぐらいTurndogさんだってわかってるでしょう? ……聞いてみたらですね……」



『一瞬、そうかもしれないって思っちゃった。V3として生き残ったとしても、V1としてのカイトはもう駄目かもって。一瞬でもそう思ってしまった自分が、許せなかったの―――――』



「……!!」


成程。そういうことか。

何よりも誰よりも、カイトを愛するが故にカイト批判スレに憤ったのではなく。

それに一瞬でも賛同しかけてしまった自分こそが、何よりも許せなかった。

だからそんな自分に怒り狂った結果、あんなことになってしまったわけか―――――。


「最近はIAちゃんの曲をよく聴くこともあったらしくて、余計にその意識がつよくなってしまったようでした。……僕にはほんの少しですけど、きつい言葉でしたね。何せ、僕たちの世界では……V1とV2は………」

「……! ……そうだったな……」


そうだ。ヴォカロ町の世界では、VOCALOIDとVOCALOID2は、VOCALOID3に食われてその立ち位置を失っていった。

雪りんごさんのその告白は、カイトの苦い思い出をひと時甦らせたはずだ。


「……だからこそ、僕の声はオワコンなんかじゃないって彼女に伝える必要があった。苦労しましたよ……僕の喉であの歌声を出すのは。僕の体にはV1のデータしか入ってませんから」


そこではたと気づいた。さっきの『カンタレラ』は【オリジナル】じゃなかった。伴奏からして、さっきのは『カンタレラ~grace edition~』―――――V3カイトで作られたバージョン。

しかし俺たちはさっきの歌声に、何の違和感も覚えなかった。

つまりこいつは―――――V1の力しかない喉で、V3カイトと全く同じ歌声を作り出したことになる……!


「おかげで喉がガラガラですよ……何か見返りとか無いですか?」

「……阿保か! お前のために雪りんごさんあんなに葛藤したんだぞ、あるわけあるか!!」

「うっそーん!?」



「……だが……」


振り返って、笑顔を取り戻した雪りんごさんをちらりと見た俺は。


―――――まさかこいつに礼をいう日が来るなんてな……。





『―――――よくやってくれた。ありがとう』





部屋に戻ってみると、どっぐちゃんと一緒にネルが待機していた。


「事の顛末は聞いたわ。外道野郎に、ちょちょいとお仕置きしてあげましょーか!」

「……おう、頼むぜ……!!」





その日の午後。

VOCALOID批判スレの集約サイトの管理人としてネット界隈では有名だった男が、突然サイトを閉じて失踪したという、小さな小さな、ネット上ではそれなりに大きな事件があった。

サイトが閉じられる数分前には、ツイッターで『亞北ネルにPCが埋め尽くされて、PCのファイルが食い尽くされた! どうなってんだ』と意味不明な言葉を残していたという。


それがとある最強の兵力とこれ以上ない平和を保つ町に住む、天才改造師の秘密兵器『ネルネル・ネルネ・ネットワーク』によるハッキングだと知るものは、当然誰もいなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part6-2~苦しみの少女と抗う蒼~

珍しくカッコイトです。
こんにちはTurndogです。

どんなことを言われたらぶっちぎれるかなー……と考えた結果、凄まじい罵倒文が出来上がりました。自分で読んでPCの画面を殴りたくなるぐらいのうざさです。でも怒った理由は直接それではなかったというね。流石に自制できるだろう、と思って急遽葛藤、混乱、暴走しそうな理由にしてみました。
あと、ゆるりーさんが未だに『どっぐちゃん>>がくルカ』なのはTurndogラッキースケベ妄想事件の後遺症ですwあと2回分ぐらいは残るんじゃないかな。

ネルちゃん怖い。
ヴォカロ町―――――それは戦乱の世に舞い降りた平和の町。
ヴォカロ町軍団―――――それは平和のためなら悪にでもなる敵にしたくない超軍団。

閲覧数:362

投稿日:2013/10/06 23:30:42

文字数:3,718文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • しるる

    しるる

    その他

    そういう批判は見ないことにしてますからね
    ニコニコのコメントさえも見ないですしね←
    それに私の場合、テトちゃんとかの批判は当然多いですしねw
    でも、批判があるってことは、有名だということでもありますよねw

    てか、りんごも可愛いなぁw
    よくよく考えてみれば、りんごもゆるりーさんも美「少女」なんですもんね
    いいなぁ……ほっぺとかぷにぷにしたいなぁ←
    しるるのダメ人間度が、今日もまた上がったのであった

    あ、あと前回のお酒騒動とかも読んでますよ?

    2013/08/08 18:08:53

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      徹底してるなぁ……ww
      私はむしろ自分から首を突っ込むことも多いですなw
      そして『m9(°∀°)』とか言って返ってくることも多い←
      陰口や批判は相手が強い証ともいう。

      あの二人ここで一番若いんじゃないですかねぇ。一番でもないかな?でも2番ぐらいでしょう。
      対して俺はあと1年半でルカさんを呼び捨てできる年になる←

      じゃあしるるさんの清花ちゃん(5話)のとこにしたコメントは見ました?

      2013/08/08 21:32:20

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    ……一言、言ってもよろしいでしょうか。
    キャァ──ッ!! 兄さんカッコイイィ──ッ!!↑↑(そこかよ

    ゆるはお友達じゃありませんよ。親友です(勝手に)!(・ω・´)+キリッ

    あー……そもそも私あんまり2ch(で、あってますよね……?)見ないんですよねー……
    見たとしてもワ○ピか黒○スのネタバレスレぐらいですねー……
    ボカロに関するスレ……なら、前は「七つの大罪シリーズ」の自己解釈スレによくレスしてました。
    というかボカロスレはそれしか見たことないですね。レスもそのスレしかしてないし。ROM専なんです私((
    まあ、他のサイトでは2ch形式の小説を書いてますがね。何気にその書き方が一番書きやすいことに気づいてしまったんですよ((ぇ

    あと私は批判レスを見かけても「相手の意見にほんの少しだけ同意した後で自分の反対意見も述べる」だけです。
    あと無視。っていうかこういう構ってちゃんは無視したほうがいいんですよ本来は(こいつ結構ゲs(ry
    まあ、今回暴走しちゃったのは他でもない……愛ですよ☆(キラッ)(((ぇ

    兄さんが今回もカッコよすぎてイキツラァです←
    ちょっとカンタレラ(V3ver.)聴いてきますね。兄さんの美声に酔いしれるために!(((

    2013/08/05 16:35:15

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      落ち着けwww

      あんたら似た者同士だな……w

      自分なんかいっぺんも見たことないですよw
      だけどボカロ関係スレはよく回る。
      レスはほぼしないwwどうせしても有名サイトとかのスレじゃないとしたこと忘れるし←

      うん、大人でたいへんよろしいですw
      ただそれだと今回の話は成り立たなかったしカイトとの仲も進展(?)しなかっただろうから、こうさせてもらいましたw

      よし聴いて来い!そして暴走してきなs(もうやめれ

      2013/08/05 21:59:00

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    スレ名見た瞬間思ったこと。
    「ふーん、じゃお前(スレ立てた人)が消えれば?w言いだしっぺの法則ってのがあってだなwwwww」
    でした。どうしてこうなった。

    あとりんごは友達じゃありません。親友だと思ってます(勝手に)。

    出会ったら、正論ぶつけて部屋に引きこもらせたい←
    「あんたは自分の好きなキャラ罵倒されたらどう思う?」とか。いろいろ言いたいことはありますね。
    すいません、私も報復にチョークアタックで参加を((

    私は批判スレ見ても、「そういうことしかできない連中もいるんだなぁ」と思ってます。
    人の好みにはどうこう言えるものじゃないですし。
    いちいちキレたら疲れますし、人間関係やらでトラブル起こしたら社会で生きていけないですから。
    でも表面でニコニコしてても、内心は多分黒いですね…w

    ですがキャラ単体で考えるなら「がっくん>どっぐちゃん」ですかね。
    私のがっくんの第一印象が、memoryのがっくんだったので。
    そのとき、私の中で白衣と眼鏡がブームでして(なんで!?)。

    ネルネル・ネルネ・ネットワーク。ネとルが多くて言いづらいですw
    早口言葉みたいで苦手です。
    というか、すごいハッキングですね。

    あと二回分もあるんですかw
    そのうち、スイッチが変に切り替わって『どっぐちゃん<Turndogさん』とか、『どっぐちゃん<しるるさん』とか、なりませんかね?w
    それだとキャラがまともになっちゃいますか←

    2013/07/31 11:41:55

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      最初の一文見て思ったこと。
      「え、俺ここまでゆるりーさん怒らせるようなことしたっけ?(おろおろ)」
      でした。読解力は大切です(ここ試験に出るよ!)。

      友達と親友ってそこまで厳格に分けるもんなんか……?

      言葉の刃が唸りを上げるゥ↑
      よし、高速射撃準備をば(((

      私は基本キレますwあくまで誰もいないとこでですが。
      ため込めばため込むほど放出時の爆発力が強くなりますからね、小出しにしてかないと。
      ため込んだら多分容赦なく特に理由のない暴力を奮いそうで怖いし。

      ああ、つまり
      『がくルカ批判されたら?』⇒我慢です
      『どっぐちゃん批判されたr』⇒チョークアタックです
      『がっくん批h』⇒チョークマシンガンです!!
      ですねわかります。

      ネルちゃんだから仕方ないw
      ……ネルちゃんだから、仕方ない(何故二回言う
      ほら、気を抜けばあなたのPCにもかわいいネルちゃんが牙をむいて……(ホラーかよ

      後遺症は長く残るから後遺症なんですw
      随分と面白い切り替わりしてるね!wwww

      2013/08/01 00:41:44

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