「ねぇ、Turndog」
「んー? なんぞルカさん?」
「突然だけどさぁ……デートしない?」
「んぁ? デートね、いいよー………………………って」
『えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!?』
――――――――――想定の斜め上を行ったルカさんのとんでもない一言は、俺の心拍数をかちあげるには充分な威力だった。
(え? ちょっと待て今ルカさん何つった? デート? ホントにデートっつったか? いやもしかしたらデートじゃないんじゃないか? だってルカさんだぞルカさんだぞ? というか英語万能なルカさんなら『デート』じゃなくて『date』って発音するんじゃないのかもしかしたら今のは『デート』と見せかけて『ダテ』だったのかもしれないなだってほら『date』ってローマ字読みで『ダテ』じゃないのきっとそうだそれにルカさんにはロシアンがいるんだからそんな俺にデートのお誘いなんてするわけがないああこれは夢だな夢に決まってるそら今に見てろきっとルカさんは『ドッキリ大成功!』って書かれたプラカードを出すに決まってr)
「……Turndog? もしかして私とデートするの、いや?」
『何言ってんのルカさんデートしたいに決まってるじゃないですかああああああああああああ!!!!』
はっとした時にはもう遅かった―――――部屋の入り口にICレコーダーを持ってにっこりしているゆるりーさんが。因みにルカさんとどっぐちゃんは思いっきり笑いをこらえている。
「……あの、ゆるりーさん?」
「ターンドッグさん、今私は以前の泣き声に匹敵する素晴らしい音声の録音に成功してしまったかもしれません。とりあえずこれをしるるさんに聞かせたりちずさんに連絡したりしてみてもいいですか」
「やめてくださいしんでしまいます」
しるるさんに聞かれれば凄まじい勢いで冷やかされること必至だし、ちずさんに聞かれれば下手すると闇討ちされかねない。
「さて、どうしましょうかねえこの音声」
「やめてゆるりーさん今すぐ消してそれ!! 何でもするから!!」
「今何でもするって言いましたよね? じゃあそろそろ一年前のカラオケ奢りの約束果たしてくださいね。あ、今年の受験生たちもつれて、ちずさんにも連絡とって、かなりあ荘総出で行きましょうか」
「あぐぐぐ……」
「じゃ、楽しみにしてますね。そちらもごゆっくりお楽しみください♪」
楽しそうに去っていくゆるりーさん。対して俺は全身の力が抜けてしまった。
「ぷふふっ……大変ねぇあんたも」
「あんたのせいじゃあああああああ!!?」
ルカさんも非常に楽しそうだ。こうなった原因の八割はルカさんの斜め上発言なんですがね。
「大体、なんで急にそんなことを……」
「あら、やっぱり嫌なの?」
「イヤじゃなぃ……!! ……っむぐぐ」
慌てて自分で自分の口を抑える。また大声出して『この素晴らしい音声を(ry』と言い出す人が出てきたらたまらない。
「ならいいじゃないの♪じゃあ、明日の夜7時にセンターステージに来て頂戴な」
「夜7時? 随分と遅いんだな?」
「当たり前じゃない、明日も仕事あんのよ。それに……一応誰にも知られない状況でいたいからね」
小さく微笑んで、すっと時空転移用PCの中に消えていった。
……明日。1月30日。
それはルカさんにとっては大切な日。
1年前、俺は彼女を最大限喜ばせたくて、みょうちくりんな演出までしてその日を祝った。
……あれからもう1年。
ルカさんは、俺に何を伝えようとしているんだろうか―――――……?
「ルカさーん」
「お! 来たわねー」
翌日夜7時。どっぐちゃんにセンターステージすぐ近くまで飛ばして貰った俺は、走ってステージ下まで近づいていった。
すでにルカさんはステージ上に座っていた。よく見ると隣には徳利と盃……。
「……ルカさん? 俺まだ飲めねーよ?」
「わーかってるわよ。よしんば飲める年だったとしてもあんたにゃ一生飲まさないわ……」
げんなりした顔でため息をつくルカさん。俺は記憶がさっぱりないんだけど、どうやら前に相当しでかしたらしい。
「ま、とりあえず隣来なさいよ」
「あ、は、はい……それじゃ失礼して……っと」
ついつい敬語になってしまいながらも、軽く跳んでルカさんの隣に座る。
……と。不意にルカさんに首を掴まれ、そのまま軽く体を寄せられた。ほんのり暖かいルカさんの体が俺の腕に触れる。
(ひえ―――――! ひえ―――――!)
耳まで真っ赤になってるのが見えなくともわかる。というか全身が沸騰しそうなぐらいに暑い。
これでもし肩を抱かれでもしていたらその場で卒倒していた気がする。首根っこ引っ掴む辺りが何とも俺に対する扱いらしくて助かった。
「る……るるるルカさん?」
「なーに? 一応デートなのよ? これぐらいして当り前じゃない?」
「……酔ってる?」
「何言ってんのよ。素面よ素面。何ならこれ飲んでみる?」
渡された徳利の中の液体の匂いを恐る恐る嗅いでみると……
「……ポ●リ?」
「そ、●カリ」
「いやいやいやなんでスポーツ飲料徳利に入れてんのさ!?」
「そのままペットボトル持ってくるんじゃ風情がないじゃない?」
「中身ポカ●な時点でだいぶ風情がないからね!?」
相も変わらずかなりの自由人だ。まぁこういう性格にしてしまったのは俺なんだけど。
「……緊張抜けてきたかしら?」
「え」
にこ、と笑いかけてきたルカさんを見て又緊張した―――――とはちょっと言いづらかったのでそのまま頷くと、また小さく笑ってから、急に立ち上がった。
……見え
『見んなコラ』
「ふんみゃふぇん」
ローキックが顔面直撃。緊張は解けたけど痛いです。
「ね、ちょっと立ってみてよ」
「へ?」
「いいからほら!」
がしぃ、と首根っこを掴まれ問答無用で立たされる。またか! ドキッとさせながらもしっかりいつもの扱いをしてくるあたり流石ルカさんである。
そして無理やり背中合わせにされる。しばらくしてから俺の後ろで『ふーむ』と声がした。
「やっぱあんた、大きくなったわね」
「え……そうか?」
「だってあんた、5年前身長私とほとんど変わんなかったじゃない。今じゃ10cmの差よ10センチ」
言われてみて気づいた。立って向き合ってみると、ルカさんの目線は俺の鼻よりちょっとしたぐらい。
ルカさんは162cm。俺は今170ちょっとぐらいだろう。
随分と差が開いてしまったものだ。
「もうすぐ二十歳になっちゃうし……ホント、人間の成長って早いなぁ……」
「……ルカさん?」
その横顔に、どことなく寂しげな影が映る。
不意にルカさんがステージを飛び下り、手招きをした。
「……歩こ?」
「……あぁ」
「……人間はいつしか心移りをする」
歩いている最中、ルカさんがぽつりと呟いた。
「……この世界で……あんたが作ったこの世界で学んだことよ」
「……!」
まただ。寂しげな光が目に宿る。
もしかして……ルカさんは………。
「……年を取り、名実ともに大人として認められた俺が、ボカロから離れていくんじゃないか、とでも思ったのk」
「自惚れんな」
今度は裏拳が額に飛んできた。鼻に打ってこないあたりが優しさ……と考えるべきなのだろうか。
しかしそこで、ふっと拳を解いて力なく垂らした。
「……といいたいところだけど……正直そう考えなかったとしたら嘘になるわね。人間は成長すると心変わりしてしまう人がたくさんいる……もしかしたらあんたも……そう思っちゃったことが何度かあった……」
「………」
「これから年を取って、大人の世界に足を突っ込んで、いろんな体験をして……その過程でTurndogが私たちを……VOCALOIDを忘れてしまうんじゃないかって……想像する度に掻き消して、でも消えなくって……!!」
急に立ち止まったルカさん。俺に向き直ったその顔は、今にも泣き出しそうだった。
「あんたに忘れ去られた時私たちはどうなるんだろう……って考えたら……怖くて……辛くて……!! ……私達はあんたが想ってくれるからこそこうして存在できる。あんたの中から『私達』がいなくなれば、私たちは姿を保てない……心を……保てない……!」
叫ぶ声はもうどこか嗚咽交じり。普段のきりりとしたルカさんとはまるで別人のようだ。
……だから、急に『デートしよう』なんて言い出したのか。
だから今日はこんなにも優しいのか。
だから……今日はこんなにも哀しいのか。
小さくため息をついて、口を開く。
「……確かに大学に入ってから……いろんなことを体験して、いろんなゲームにも手を出して……いろんなことを知ろうとするようになって……何時しか俺はボカロだけの人間じゃなくなったよ」
びくり、とルカさんが身を震わせる。
そう。色んなことを知った。いろんな世界を見た。
だけど―――――………
「……だけど、俺がそんな人間になった根底にはいつもボカロがあった」
「!」
ルカさんが顔を上げてくれた。少し目が赤くなっているのは……言わないでおこう。
「忘れないよ。俺を今のこんな人間に仕立て上げてくれたのはボカロであり、こんなトーシロ小説家に作り上げてくれたのはルカさんなんだからさ」
何年経っても囚われてしまうほどに。
俺に打ち込まれた『VOCALOID』という名の楔。
これから長い長い、60年以上残る人生の果て、決して忘れることなんかできないだろう。
「……この日の事だって……忘れないでよね」
「ああ、そうだな……誕生日おめでとう、ルカさん」
「……ぐすっ」
ごしごしと目をぬぐうルカさん。そして―――――
「そるぁっ!!!」
「ごはっ!!?」
遠心力を加えたハイキックが俺の側頭部を襲った。今日俺痛めつけられっぱなしじゃないですかね。
そして乱暴に胸ぐらを掴まれる―――――が、その顔はどことなく晴れやか。怒ってる感じは全くない。
「いい? 今夜の事は全て夢。忘れなさい? あんたにここまで優しくするとか、泣きつくとか、そんなの絶対ないんだからね!? それが約束できるならおゆはん奢ってあげる」
「はは……りょーかい」
「よーし良し! それじゃ行きましょ、新しくファミレス出来たのよファミレス!」
「へぇ、そりゃまた」
「因みに目玉商品はビーフハンバーグのハバネロ入りらしいわ、あんたに食わしたげる!」
「ハバネロはいけねぇ! やめてルカさん!」
「安心なさい、あんたが忘れないよう記憶の根底にまで刻み込んであげるわ」
「う―――――わ―――――!!!!!」
そのまま俺はルカさんに首根っこを掴まれ、夜の街に引きずり込まれて行った。
翌日。
「ターンドックさん昨夜は遅かったみたいですが」
「ルカさんに仕事の愚痴聞かされただけだよ、デートとは名ばかりの」
「本当ですか? 嘘ついてません?」
「ついてないっての」
ゆるりーさんが事の顛末にかなり興味津々のようで、朝からかなりしつこく聞かれている。
「ゆるりーさんそんなゴシップ記者みたいな性格だっけ?」
「そう言うわけではないですが人の噂は気になる物じゃないですか」
気持ちはわからんでもないが……。
と、その時。
『やっほ、Turndog!』
時空転移用PCからルカさんが飛び出してきた。何てタイミングだ!
「あっルカさん! 昨日ターンドッグさんと何してたんですか? ターンドッグさん何も教えてくれないんですよ」
「特に何もなかったけどどうしても知りたかったら今の台詞を英語で行ってごらんなさい?」
「う゛っ!? わ、私が英語苦手なことを知りながら……!! えーっと……」
「かなーり簡単な英語よー、頑張んなさい」
頭を抱えだしたゆるりーさんを見て苦笑いするルカさん。
そんなルカさんに、軽く声をかける。
「ルカさん」
「ん?」
「『昨日言い忘れた』から、今言わせてもらうぜ」
はっとした顔で俺を見つめてきたが、しばらくして次の言葉を待ち構えるように腕組みをした。
「……誕生日おめでとう、ルカさん」
満面の笑みを浮かべたルカさんは、浮くような挙動で足を振って―――――
『遅いわ♪』
ドズゥン、と部屋中に響くような蹴りを叩き込んでくれた。
優しいルカさんも、涙もろいルカさんもいいけど。
本当に俺が一生忘れないのは、こんな理不尽且つドSだけど、かわいらしくも美しいルカさんなんだろうな。
【ルカ誕】I Never forget you【最期の時まで忘れない】
6周年だルカさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんん!!!!!!!
こんにちはTurndogです。
年に一度の本気を出す日なので欲望一杯の変態な文章を書いてみました。
年に一回ぐらいいいじゃない、ね?(ウザい
でもただ欲望を吐き散らすだけではウザキモいので少しシリアスにもしてみたり。
艦これやったり、テラリアやったり、色んなことやり始めてますが、私のネット原点はボカロなので多分最後までボカロ界から手を引くことはないと思います。
あとゆるりーさんが凄いパパラッチみたいになってるのは詫びる←
でも前にも似たようなことしてたから案外やりそうな気がした(おい
ところでこんな文章書くとすっげー恋したくなるんだけど、
誰か私を微分してくれませんかね?←
もしくはルカさんを積分してほしいです(自分でやれよ
コメント1
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る12月24日。
街中が白い魔法に包まれる日。
街を歩く人々が、思い思いの感情を胸にその日を祝う。
息を吐けばそれは朝でも夜でも白く舞い上がり、小さく小さく分散されて静かに空中に消えていく。
ふわふわと舞い降りる粉雪は太陽の光で反射してきらきら光り、掴もうとすれば儚く溶けてしまう。
例え街でどんな事件...【がくルカ】前夜祭に抱えし夢は【舞台裏】
ゆるりー
嘘つき。
約束したのに。
どうして。
あなたは、……。
瑠花様へ
あなた様がこれを読んでいるときには、私はもうお傍にはいないことでしょう。
あなた様は私がいなくなったことを気にしておられないかもしれない。ですがどうして私がこの家を離れたか、それだけはどうしてもお伝えしたいのです。身勝手は承知の上...【がっくん誕】約束の地
ゆるりー
「あー楽しかった!」
久しぶりに休みがとれたある日の帰り道、私は友達と話していた。
「いやあカラオケなんて数年ぶりだったからすっごい楽しかった!」
「それはよかった」
「でもルカちゃん、あんな歌も歌うんだね?なんだか意外だなあ」
「そう?割といろいろ聞くからさ」
彼女が言っているのはおそらく、私が選...「Both sides」
ゆるりー
日を重ねるごとにわからなくなる。
年月が流れるほどに理解ができなくなる。
こんな感情が存在する、その理由に。
--------
彼女に出会って、考え方が変わった。
同年代の人間とまとめられて、「いいから先生の言うことを聞きなさい」と馬鹿げた常識と知識を詰め込まれた、あの学校という空間が大嫌いだった。...Memoria --『Fantasia』--
ゆるりー
彼の冷たい一言は、曖昧だった私の心を引き裂いた。
その言葉に昔のような温かさは少しも含まれていないのだと気づくのに数秒かかった。
何をしても楽しくない。
何をされようが上の空で返事をする。
時間の感覚さえもが曖昧で、もうどうでもいいやと投げやりになっていた毎日。
その理由を自分なりに結論付けたのはつ...【カイメイ】Distance【Ⅰ】
ゆるりー
ねえ先生、知っていますか。
どんな人間にも守りたい存在があるんです。
それは形のあるものとは限らないんです。
例えば色褪せた思い出。
目を閉じればいつでも大切な人に会えるんです。
でもそうすると、少しだけ寂しくなります。
やっぱり会いたいんです。
私にとっての守りたい存在。
私はあの時、それを伝えら...【がくルカ】Liar
ゆるりー
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
ゆるりー
その他
私はいったい何を録音してるんだwwwwwwwww
ん?今なんでもするって言いましたよね?(でも消すとは言ってない)
ちなみに私はカラオケに行くと時々寝ます。大音量の中。ぐーすかぴー。
私も創作の原点がボカロなんで、完全にボカロから手を引くことはないでしょう。
何年も続いている趣味でもありますし。
ただ、この数年で、私の知り合いでピアプロで活動していた人がかなりいなくなっていったのはやはり心寂しいです。
とくに始めて一年くらいの知り合いで今も関わりがあるのは、ターンドッグさんやしるるさんくらいですからね。
りんごもかなり忙しそうですし。
やはり時の流れでしょうか?
まあでも、私ががっくんを嫌いになることなんてありませんけどね!(ぶちこわし)
2015/02/09 23:02:37
Turndog~ターンドッグ~
全くもう何を録音してるんですか!(←主犯)
あっちょっそれを電話の受話器に押し当てて何をするつもりですkうわああああああ((
私とカラオケ行った人は寝ても大抵私の超高音の「幸福なのはー義務なんでーす!!」で目が覚めますw
生活が変われば好きなものも変わる。
雪りんごさんも新しい高校の生活に惹かれたのみ。
他の色んな人だって、興味を持っていたものに対する欲求が途切れれば他の物に移るのです。
俺とてしるるさんとゆるりーさん、最近いないとはいえ雪りんごさんぐらいかなぁ、付き合いが長い人でピアプロ在住は。
まぁ皆が変わっていこうとも、わたしはとりあえず構想に残っているワード千ページを超えそうな物語を書き終えるまではボカロから手を引くことはないですな(それは残りすぎ
嫌いになったらそりゃむしろ何があったレベルだわ……ww
2015/02/10 12:39:35