日を重ねるごとにわからなくなる。
年月が流れるほどに理解ができなくなる。
こんな感情が存在する、その理由に。
--------
彼女に出会って、考え方が変わった。
同年代の人間とまとめられて、「いいから先生の言うことを聞きなさい」と馬鹿げた常識と知識を詰め込まれた、あの学校という空間が大嫌いだった。
あんなもの、理不尽な偏見を持った大人が、自分達の命令を反射的に聞くように『教育』を刷り込む、ただのコンクリートの場所だと思っていた。
純粋無垢な子供の意思も尊重してやらず、少しずつ時間を掛けて子供達の個性を潰していく――そのことを、誰一人として気づかない。
一般で言う「正義」という考えを持った人間を、工場で生産していくその流れ作業を、たった一人狭い場所でどこか他人事のように眺めていた。
ずっと昔、物心というものがついたころからそんな歪んだ価値観だった。
なのに学校という忌々しい空間での仕事を選んだのは、俺のような化け物が現れないようにするための監視というのもあった。
あとは最も人を洗脳しやすいこの場所で、世の中が腐っていく様を一番近くで眺めるとか。
…どちらにしても異常だな。あまり気にしないほうがいいかもしれない。
そして、人間関係のつながりというものさえ俺には理解不能に思えていた。
“何の縁も無いはずの他人を強く思い続けるなんて馬鹿らしい”
そう思っていたのだ。
だけど。
俺は彼女に惹かれた。
今まで誰に対しても無関心だったのに、彼女には「ずっと傍に居て欲しい」と思ってしまった。
こんな人間、離れて暮らしたほうがいいに決まっているのに。
突き放したほうが彼女のためになるのに、俺は彼女の前で欺き続けた。
あたかも普通の人間のように振舞った。
嫌われたくないとでも思ったのだろうか?
それどころか、俺の唯一の理解者になってほしいとさえ思っていた。
どうしてそんな人間らしい感情が持てたのだろうか。
理解者など存在するはずがないというのに。
彼女もまた、俺の傍に居続けた。
俺の表面しか知らないから離れようとしないのだろうか。
なんにせよ、このままでは彼女は壊れてしまう。
どこかで必ず関わりを絶たなければならない。
そうわかってはいても実行には移せない。
幾度も彼女を腕に抱いて、自分のものにしようとした。
勿論思いとどまるのだが。
どうして。
どうして俺はこんなに狂ってしまっているんだろう。
少しでも光を知っていたのなら、彼女を幸せにしてやることができたのに。
収まっていたはずの「時々、誰かを手に掛けたくなるような衝動」が再発しだす頃には、世の中が更に醜く歪んだように見えた。
世界は何も変わりはしない。
政治家の汚職、企業の不祥事、報道機関の印象操作、権力による事実の隠蔽。
昔からそんなもので溢れてしまっているのに、今更何が黒く染まるというのか?
歪んでいるのは明らかに自分のほうなのに。
黒き事実から逃れようと、俺は衝動が蘇る度何かにそれをぶつけていた。
がなる雑音しか聞こえないラジオ。
愚かな独我論を貫き続ける啓発本。
目に映るほとんどのものが煩わしくて、破壊衝動を都合のいいように振りかざした。
気づけば自室はいくつかの物が修復不可能なまでに壊れ、部屋と比例して自らの心も荒れ果てているのだと知らされた。
そんなある日のことだった。
俺はとある事故に巻き込まれた。
こちらに突っ込んでくる『物体』を認識した瞬間、「煩わしい」と感じてしまった。
病の発作と衝動が重なったのはその時だった。
本来ならば衝動の矛先は彼女に向けられていただろう。
それが「彼女だけでも助けなければ」と咄嗟に彼女を突き飛ばした。
普段ならばありえない話だった。
いつまた衝動が殺意に変わり、他人に向かうか分からない状況で、「誰かを助けよう」なんてこの俺が思うなんて。
その衝動を―――まさか、自分自身に向ける日が来るなんて。
ずっと今まで消えたくてしょうがなかった。
気持ち悪い自分が、当たり前のように存在していることが嫌だった。
誰にも道化だと気づかれないように、なるべく自然な形で死にたかった。
煩わしかったのは、社会や心優しき人達の中に溶け込めない俺自身じゃないか。
なあ、そうだろう?
これでよかったじゃないか。
自殺じゃ躊躇う、死にたくても死に切れない悪夢から解放されるんだから。
もしも「俺が普通の人間のような価値観なら」。
もしも「彼女の隣で、普通に笑って過ごすことができたなら」。
もしも、「彼女に異常と気づかれずに消えることができたなら」。
この日、俺が抱いた幻想は、どこまでも「幻想」でしかなかった。
幻想はどこまでもその牙を隠し、やがて自分を構成する全てを崩壊させる呪いへと姿を変えることになる。
終焉への賽は投げられた―――
Memoria --『Fantasia』--
【Fantasia】イタリア語で『幻想曲』。ファンタジア。
自由な形式のロマン的器楽曲。
副旋律が主旋律を模倣して追いかける形で、同形式のフーガの一般化と共にあまり使われなくなる。
こんにちはゆるりーです。
最早誰も得をしないゆるりーさんのこのシリーズ。
ちずさん、見てますかー?こんなんになりましたー。
ゆっくりゆっくり書いていきます。
次回は小夜曲。
「Both sides」のがっくん視点も書きたい←
いやあどうやったらこんな風になるんでしょうね(書いた本人が混乱中)
First 『Preludio』 :http://piapro.jp/t/UARx
Second『Traumerei』:http://piapro.jp/t/r3WP
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