「あー楽しかった!」
久しぶりに休みがとれたある日の帰り道、私は友達と話していた。
「いやあカラオケなんて数年ぶりだったからすっごい楽しかった!」
「それはよかった」
「でもルカちゃん、あんな歌も歌うんだね?なんだか意外だなあ」
「そう?割といろいろ聞くからさ」
彼女が言っているのはおそらく、私が選んだジャンルであろう。
今日はそういう気分だったから洋楽を中心に選んだのだが、それが彼女には意外らしかった。
「でもさすがルカちゃん。うすうす気づいてたけど英語上手いよね」
「でも歌うのと喋るのとじゃかなり違うわよ。実際に昔、英語の勉強はすごく苦労した覚えがあるから」
「あり?そうだったんだ。でも新しい一面が見れて嬉しいな」
そう言ってにこりと笑う彼女。
私もつられて笑うが、次の言葉で動きが固まった。
「…お兄ちゃんも知ってたのかな、ルカちゃんのこういうとこ」
ふと上を見上げる彼女。
上では無機質に塗り固められた空の檻が私たちを囲んでいる。
「本当なら知ってるべきなんだろうけど、あのお兄ちゃんのことだもん。勉強以外のことには疎いからきっと気づいてなかったよね」
「…かもしれないね。何せ、私の気持ちに気づかないんだもの。こっちから告白しなきゃずっとあのままだったから」
「あは、随分わかりやすかったのにね?あれに気づかないなんて逆にちょっと褒めたくなるぐらいだよ」
「そうね」
片思いは実り、私は彼と共に過ごした。
手料理を振舞ってあげたり、街へ買い物に出かけたり、彼に勉強を教えてもらったり。
お揃いのストラップをもらったこともあったっけ。
うん覚えてる、私は全部覚えてる。
「医学部だったよね。私はそっちに行ってないからよくわからけど、いつも難しい医学書読んでたね。あれ私にはちんぷんかんぷんだったなー」
「そうそう、私一回書きかけの論文見せてもらったけどもう何がなんやら。同じ兄妹なのに、私にはそっちの血は流れてなかったみたいで」
「あ、やっぱり?へえーグミちゃんもそう思ってたんだ」
「むしろ理解できたらベランダでふてくされてなんかなかったよ」
くすくすと笑い声が漏れる。
「それがあんなことになって…あんまり突然だったから大泣きで見送ったっけ」
「何も言わずに行っちゃったもんね。さすがの私も怒っちゃうわよあんなの…今頃、向こうで白衣を翻して頑張ってるのかしら」
「便りのひとつも欲しいよ。…ねえルカちゃん、誰のせいでお兄ちゃんはあっちに行っちゃったのかな」
「そんなの、今じゃわからないわよ」
――日が暮れ始めたところでちょっと話をしすぎたことに気づき、私とグミちゃんは別れて帰路に着いた。
彼女は何も知らない。彼が向こうへ行った理由を。
―――私は信じたかった。
そうするのをやめさせたのは彼だ。
お互い少しだけすれ違っていた。
家の鍵を鞄から取り出す。
そこにはお揃いのストラップと二つの鍵。
ひとつは彼の部屋の合鍵。
つまんでユラユラ揺れるそれは私の古い記憶を呼び覚ましていた。
誰も知らない。
あの日、紅に染まる白衣と床に広がる紫。
彼は―――私が殺した。
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ご意見・ご感想
しるる
その他
茶猫さんがいう桜のやつ、私が学ばせていただいたやつでございますね
これが落差を考えたゆるりー必殺技の一つですねw
しかし、最後の一言とゆるりーさんのコメントに一番の落差がwww
「部屋の合鍵(10)」*なくすと大変
2014/07/05 21:21:50
ゆるりー
そうでしたっけ(すっとぼけ)
そこはかとなく頑張りました。
私がずっと真面目なわけないじゃないですかーww
なくすと大惨事
2014/07/07 20:32:00
Tea Cat
ご意見・ご感想
うわぁぁぁルカさんのヤンデレ!?
…そういえばゆるりーのマイページにもあったような気がする。
何か桜のやつだよね!
白衣がっくん私もほしいです(スライディング土下座)
2014/06/28 18:15:05
ゆるりー
多分そんな感じ。
そうそう。
もうちょっと上手く書きたいんだけどねえ。
ねーてぃあちゃん白衣がっくん書いt…冗談だよ。
2014/06/28 20:21:26