>>02
「――様、シュン様」
眩しい光に包まれた視界が、徐々に普通の見え方を取り戻しつつあるその時、誰かが俺の名を呼んだ。
一瞬ハルが俺を呼んだのかと思ったが、ハルはこんなに綺麗な声じゃない。
「シュン様」
しかも、「様」って何だ。あいつがそんな呼び方をするわけがない。っつか性別だって違うじゃねぇか・・・明らかにこれは、女の、
考えかけたところで、右頬が押された。しかも、かなり強い力で。
「ぐっ・・・いててててててッ・・・ちょ、!!」
「シュン様、いつまで寝ているおつもりですの?早く目を開けてくださいませ」
その声と頬を潰される感覚に目を開けると、そこには・・・・・・・・・何だこの物体は。
近すぎて俺の右頬を潰しているものに焦点が合わない。諦めて遠くに焦点を合わせてみれば、風に靡く桜色の髪に目がいった。桜色よりはちょっと濃いか。
・・・・・・?桜、色・・・!?
目を思い切り見開いたところで、ようやく俺の右頬を潰していたものが退けられた。離れていくそれは、黄色のブーツ・・・つまるところ、俺は足蹴にされていたらしい。
上体を起こして、俺を足蹴にしていたブーツから順に視線を上げていく。ピンクの髪をしたそれは、設定時に俺が選んだパートナーである・・・・・・巡音ルカ、だった。
「おいおい・・・お嬢様どころか女王様じゃねぇかよ・・・」
見た目だけ見て勝手にプライド高そうだと思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「 私のパートナーとあろう方が、初めてとはいえ、ダイブ後いつまでも寝ているのでは話になりませんもの」と、肩にかかった髪を後ろへはらうルカ・・・・・・って、ルカって呼んでいいのだろうか。いきなり踏みつけられた俺としてはこの痛みの分をどうにかして返したい・・・痛みの、分を・・・・・・ん?
「・・・・・・あれ、さっき俺・・・痛くなかった・・・?」
「痛覚は軽減されますわ。そうでなければ電子化されたとはいえ、
戻った時に体にも打撃を与えることになりますから」
反射的に痛いと言ったし、感覚はあった。しかし、どうやら踏みつけられたという感覚があったせいで、踏まれた時の痛みを勝手に想像してしまっていたらしい。
不意に後ろから笑い声が複数聞こえて、俺は両手を後ろについて見上げながらそこにいた人物を視界に入れる。声で想像していたとおり、そこには腹を抱えて笑っているハルが立っていた。もう二つの、俺たちの声より明らかに高い子供の笑い声は、ハルの両隣にいる子供からだ。
設定時の画面で見た・・・・・・何とかリンとレンってのがそこにいた。
「お前、完璧に尻に敷かれてんじゃねぇか・・・ぶふっ!」
「ヘタレっスね、マスターのお友達って!ね、レン」
「リン、あんま言ってやんなって。ホントのことだけど」
・・・・・・何だこのむかつく奴らは。いくら性格がランダムだからとはいえ、何でこっちのリンとレン?はこんなにハルと息がぴったりなんだ。俺とルカなんかとんでもないんだが・・・運が悪いということなんだろうか。
少しため息をつきながら体勢を戻して立ち上がる。何やら砂漠地帯のようで、見渡す限りどこまでも砂しか見えない。かと思えば、ハルの向こう側にビルのようなものが見えた。
一体どういう世界観なのか、誰か説明して欲しい。ふと見上げた空には丸い物体が二つ引っ付いたような太陽。温度は・・・少し暑いぐらい・・・って、温度まで感じるのか。ああもう意味がわからん。
盛大にため息をつこうとしたところで、後ろからルカに蹴られてバランスを崩し、砂漠に膝を着いた。口元が引きつるのがわかる。俺は生憎、ドS女王様キャラに足蹴にされて喜ぶようなドM男ではない。断じて。
「あらあら、それはごめんあそばせ」
くっ・・・うっぜぇぇぇ・・・!!何だこいつ!こんなことなら明らかにMEIKO選んだ方がよかっただろ・・・!
ハルは俺とルカのやりとりを見て、未だに笑っている・・・もう転がる勢いだ。リンとレンに至っては、既に砂を叩いて笑っていた。
「いやぁー・・・いいね、ルカちゃん。俺はハル、よろしくな」
「・・・その手は?」
握手だよ、とハルが言うと、ルカは蔑んだ目でハルを見て「マスターでもない人に触りたくありませんわ」と言ってのける。「好かれてんじゃん」と手を引っ込めながら言うハルに、どこがだよと言いながら立ち上がった。
ハルいわく、パートナーキャラクターは自然と自分のマスターを一番と考えるようになるらしい。じゃあ、このルカは何だと文句を言ってみたが、「それが彼女の愛情表現なんじゃね?」と言われてしまえばそれ以上言い返す気も起こらなかった。
あと、ハルに聞いたのは、パートナーキャラクターとそのマスターは会話しなくても思っていることがある程度わかるってこと。感情が昂った時なんかは筒抜けなんだと。さっきルカが言った『あらあら、それはごめんあそばせ』って言葉は、俺が考えていたことに対してだったってわけだ。気のせいかと思ってスルーしたが、そういうことだったらしい。
「俺、お前と上手くやっていける自信がねぇわ・・・」
「上手くしようと思わなくてもいいのではなくて?」
犬のように飼われたいとおっしゃるなら話は別ですけど、といい笑顔を向けてくるルカに、俺は悪寒を感じずにはいられない。目が本気なのだから末恐ろしい。いつかそういう風になる日が来るんじゃないかと思うと、一瞬も気を抜いてはいけないような気がした。
「あ!マスター、このルカさんのナンバリングAAAっスよ!」
「うわ、マジだ!マスター、これすごいですよ!」
突然ルカの周りで飛び跳ね始めたリンとレンは、それぞれ頭の上のリボンと結った髪をぴこんと立たせてハルを呼ぶ。
というかトリプルエーって何だ。表記するとAが3つか?
驚くべきは、リンとレンに手を見せているルカの姿が普通の優しいお姉さんに見えたってことぐらいか。「マジか!?」と驚いているハルのそのはしゃぎ方が、目も当てられないということも付け加えておこう。
疲れるのが一人から三人に増えている。見ているだけでもう何ていうか・・・疲れた。
ハルは触るなと言われたからか、ルカの手の甲を確認してから俺を振り返る。ルカの左手の甲には、赤い字で「AAA」という小さな文字が並んでいた。
っていうか、ナンバリングって普通は数字のことを言うんじゃないのか、とかいうのは多分つっこむべきじゃないんだろうな。
「もうお前ら勝手にやってろ・・・俺にはわからん」
「いやいや、いじけんなってー」
バシバシと俺の背中を叩きながら、ハルはルカを指差した。瞬時にルカの表情がむっとしたものに変わったのだが、どうやらハルには見えていないらしい。
「AAAってのはな、一番最初に作られた型なんだよ。いわゆるオリジナルってやつ?
因みに俺のリンとレンは028。000よりも最初だから相当レアだ・・・ぐふっ!」
ひゅっと空を切る音が聞こえてその場にしゃがみ込むと、鈍い音がしてルカの足がハルの顔に直撃した。どさっと倒れるハルと、駆け寄るリンとレン。
ルカがハルを蹴る間にこの目に映ったものは見なかったことにしておこう・・・言ったら殺されそうだ。見えたとか・・・自業自得だって言っても聞く耳持たないだろうしな。
「・・・で、これからどこに行って何をすればいいわけ?」
無様に倒れたハルを突っついてみると、ハルは「びっくりした・・・」と言いながら体を起こした。
何となくルカの気持ちが伝わった俺からすればびっくりも何もないが、こいつからすれば確かに驚くことだろう。俺も何かくるとは思ったが、まさかハイキックがくるとは思わなかったしな。
一つ息をついて立ち上がると、ハルも立ち上がって首を鳴らした。両隣でリンとレンがそれぞれハルの身を案じている。何つー微笑ましい光景だ。
二人に「大丈夫」と言ってその頭を撫でると、ハルは俺に向かって一度白々しく咳払いをしてみせた。
「簡単に言えば、だ。とりあえずモンスター退治。
で、その親玉を倒したやつが自分の望む世界を作れる」
どこにでもあるゲーム内容だろ?と笑うハルに、シンプルでわかりやすいなと思った。
どうやって戦うんだと聞けば、俺はほとんど何もしなかったと何ともわかりにくい答えが帰ってくる。どういうことだと言いかけたところで、ルカが街の方へ足を踏み出しながら喋り出した。
「パートナーはガイドも務めているのですから、
そういうことはパートナーに尋ねればいいのではなくて?」
「・・・・・・だってさ」
「ツンデレだなー、ルカちゃんは」と言ったハルの顔面にルカの拳が入ったところで、俺は呆れたように笑う。
ルカの隣に行って歩き出すと、少し拗ねているのか不満そうな表情をしていた。女王様っていうかお嬢様っていうかガキっていうか・・・案外可愛いやつなのかもしれない。
「・・・シュン様なんて嫌いですわ」
ぼそりと呟かれた言葉と裏腹に伝わってきた気持ちに、小さく笑いながら「よろしくな、ルカ」と俺は彼女の頭を撫でた。
パートナーの気持ちがわかるというのは、結構いいものかもしれない。彼女の気持ちはその態度からはとても想像できないからな。
「子供扱いはもっと嫌いですわ」と俺の手を頭からはらってむっとした表情を見せるルカ。そういうのが子供だと思うんだが。
その後、極度の照れに達したらしいルカのせいで・・・というより、そんなルカの歪んだ愛情のせいで、俺は馬鹿でかいマグロで叩かれることになった。その上ハルとリンとレンに大笑いされるし、微妙に衝撃は強いしで散々だった。
おかげで、ルカとの出会いはとてもじゃないが、良いものとは言えなかった・・・と俺は記憶している。
>>03
Elysian 02
そういえば今更なんですがユーザーブクマ、実はちまちま増えてます。
新着からいろんな方の話を読みつつ勉強させていただいてるんですが、その際にブクマも覗かせていただいて、その中に自分のサムネ見つけたら即刻ブクマ返ししております・・・ブクマしてくださってる方、本当にありがとうございます!お礼に踊りm(黙れ
好きな作家さんや絵師さんや楽師さんはたくさんいすぎなので、ブクマしてくださってる方を見かけたらということにしてます。
しかしながら、ブクマしてくださった方々は一体どの話がヒットだったのやら・・・自分では謎でございます・・・どれだ・・・。
自分的にはあっためてた話でもあるので、E・Bが一番好きなのですが。
とにもかくにも、自分の話のどれかを好きだなって思っていただけたと勝手に喜びつつこれからも頑張りたいと思います。
・・・・・・あ、注意書き・・・ちょ、ちゃんと考えろよ自分・・・。
連載始まったばかりだというのに風邪引きかけてる自分に絶望した・・・「あー」と発音したつもりが「あ゛ー」になる始末。
電話に出ても誰かわかってもらえない・・・オレオレ詐欺してる気分です。
次回はできたら来週中にうpしたいと思います~。
コメント4
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ご意見・ご感想
+KK
その他
>>C.C.さん
いらっしゃいませ、C.C.さん。言いにくいですよね、エリュシオン。もうELYで構いませんよ。
ルカさんのツンデレ、ツボだったようで嬉しいです(笑
自分的には勘弁してくれって感じでしたが。
E・Bからですか!自分の話を気に入ってくださってる方が少なくとも4人はいるようなので安心してます。(あ、3人かも
あ、そうなんですよ。風邪引いたんですよ・・・始まったばかりなのにアホかと思いました。
寝込むところまでいってませんが、少し熱っぽいので気をつけることにします。
メッセージありがとうございました。
2009/04/05 11:21:10
+KK
その他
風邪の方、何か微妙に悪化してるので治り次第続き書きます・・・。
そのうちケロッとして戻ってくるので気にしないでください。
じゃあ最初っから言うなって話ですが・・・。
とりあえず返信です~。
>>ちくろさん
こんにちは、ちくろさん~。
ルカさんツンデレ・・・と言いますか、普通に怖いと思いました。
何回踏まれたか、蹴られたか・・・短い夢だったのに一体どういう・・・。
自分の中のルカさんが心配になりました。というか頭大丈夫か。
夢の話!ボカロ夢見られたんですね!
レン・・・!それは自分も落ち込むと思います・・・凹む・・・。
キザな兄さんもありじゃないですかね!?それは是非ともネタにすべきと思います(笑
そして・・・姫騎士のイメイラができあがったと!
仕事速すぎやしませんか・・・いやいや、ありがとうございます!
即行見に行きますので、お手数ですがご一報くださると嬉しいです。
(なくてもそのうち行くと思いますがw)
ではでは、メッセージもご報告?もありがとうございました。
またいらしてくださいね~。
2009/04/05 11:15:33
まにょ
ご意見・ご感想
ぉおお!!エリュシオン~Elysian~2話!きましたね!待ってました!!w
ぃゃぁ・・。この話、本当に好きです。。w それにルカさんのツンデレが・・。惚れま(殴
イテテ)) 私はもうE.B.から大好きですょ~。+KKさんの話は、ワクワクして好きですww
E.B.は悲しかったけど、綺麗な終わり方ってぃぅのもあって、大好きでしたww(なんか告白みたいで恥ずかしい・・。
あれ、風邪なんですか?気をつけてください・・・。続けれられなくなったら元も子もないですからね!ww
私もなぜか、喉が痛いです。。お互い、春の冷たい風には負けないょうにしましょうね。。
話がそれました! それでは。(長文すみません。
2009/04/05 00:04:15
こか
ご意見・ご感想
こんばんは。ちくろです~w
ルカさんの性格凄いことになってたんですねwツンデレw
あの、私事なのですが私の夢にもボカロが2回も出てきました!しかも飛んだ夢だったんです;
最初に見た夢でレンが転落死してました(爆)我ながらショックだったり…
そして今朝見た夢で、KAITOでてきたんですが、めっちゃキザでした(沈)バカイトでないという…
…無駄話が過ぎました。もしも執筆に困った時に、このような怪しい(?)エピソードも役に…たたないと思います(爆
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2009/04/04 23:11:18