朝の6時過ぎに手を踏まれて目が覚めた。まどろみながら目を開けると、明らかにこそこそと出て行く姿。あの子は確か昨日泣いてた睦希ちゃんよね?トイレかしら?
「ふざけないで。話してくれる約束でしょう?それとも反故にする?桃栗みかん先生。」
ドアの隙間から聞こえた声に思わず体が固まった。声自体に驚いたのも勿論だけど、問題は出て来た名前の方だった。桃栗みかん先生とは、私がまだ高校生の時夢中になった携帯小説の作者に他ならなかった。ほのぼのだったりミステリーだったりジャンルも豊富で、駅で読みながら泣いてしまった事もある。そのみかん先生が睦希ちゃんの知り合いだったなんて…。
「うーん…菫先輩…?」
「あ、ご、ごめんね緋織ちゃん、起こしちゃった?」
「あぅ~…そのチョコは私のです~…むにゃむにゃ…。」
幸いにも寝惚けていたらしい緋織ちゃんはそのまま二度寝してしまった。静かに階段を降りる音が聞こえる。え?外に行くのかしら?焦りつつこっそり後を尾ける。と、門の前に人影と子犬が見えた。…って、旋堂さんと響さんじゃないの…早朝逢引にしては響さんと子犬ちゃんがお邪魔虫よね?これからみかん先生に会いに行くとか?あ、いけない見失っちゃう!角を曲がった3人を追い駆けようとした時、後ろから腕を掴まれ引っぱられた。
「尾行下手過ぎだ、家政科1年蔭澤菫。」
本気で心臓が止まるかと思った。恐る恐る振り返るとアッシュグレーの髪とサングラスが目に飛び込んで来た。
「す、すいません!今お財布持ってなくて!」
「カツアゲじゃないから。」
あれ?パッと見怖いけど普通に善い人っぽい?
「えーっと…失礼ですがどちら様で?」
「一応データテストの参加者なんだけど覚えてない?館林です。」
渡された鍵を見て記憶を辿ってみるけど、正直貧血で倒れた私は半分位しか覚えていなかった。考え込んでいると、私は3人の事を思い出して声を上げた。
「あっ!睦希ちゃん見失った!」
「この先の公園入ったよ。何かあったの?」
「えーっと、睦希ちゃんがみかん先生と話してて付いて来たら子犬が…。」
「解らないにも程がある。」
取り敢えず順を追って説明する事数分、何とか言いたい事は伝わったと思う。館林さんは呆れた様な困った様な顔で頭を掻くと携帯を取り出してメールを打ち始めた。
「込み入った話だといけないから侑俐に確認してみるよ。」
「ゆうりって誰ですか?」
「アンタの騎士役、響侑俐。流石にこっちは覚えてるだろ?」
「あ、響さんは解ります。そっか、侑俐って名前だったんですね。」
「そそ、あいつ高校時代の後輩で今ウチに犬と一緒に居候してて…。」
「同棲ですか?」
あれ、気のせいかな?館林さんが凄く残念な物を見る目でこっち見てる気がする。
「…ルームシェア。」
「そ、そうですね!ルームシェア!」
私の第一印象ってもしかしてドジ…?
コメント0
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る何だか色々あった旅行が終わってやっと学校に居る気分だった。考える事が多過ぎて逆にあまり考えたくない、正直そんな感じだった。気晴らしに戦利品である写真を眺めていると、目隠しと同時に明るい声が聞こえた。
「にゃっふぉーい、睦希にゃん。」
「んー密佳、お早う。」
振り返るとクラスメイトであり同じ美術部の密...いちごいちえとひめしあい-79.バット持って歩こう-
安酉鵺
電話から30分程経って、私の部屋は実にわいわいと賑やかになっていた。
「緋織ちゃんの家って豪邸ね~良いなぁ。」
「うっうっうっ…ごめんなさ~い。」
「鶴村さん、もう泣かないで。」
どうやら睦希先輩は軽くパニクッて参加者の女の子全員に電話やメールを送ってしまったらしい。自分の携帯に自分でメール送ってる...いちごいちえとひめしあい-27.修羅場を期待した-
安酉鵺
ちくちくと刺さる視線を避ける様に調理室の前を通り掛ると、チョコレートの甘い匂いが漂って来た。
「良い匂~い、ここだぁ!」
「密佳、犬じゃないんだから…あれ?しふぉんちゃん。」
「睦希先輩、味見に来たんですか?丁度もう直ぐ焼き上がりです。」
エプロンを着たしふぉんちゃんがパタパタと片付けをしていた。テ...いちごいちえとひめしあい-85.悪夢へと-
安酉鵺
少し眠ってしまったらしく、軽く頬を叩かれて目が覚めた。ゆっくり目を開けると旋堂さんの姿があった。金色の髪に一瞬緋織かと思った訳だが。
「酒抜けたか?」
「多分…すいません。」
辺りを見回すと解散したのか人影は無く、旋堂さん以外は片付けをしている雉鳴弭だけが動いていた。起き上がった俺に気付くとトコトコ...いちごいちえとひめしあい-73.残念な美人-
安酉鵺
鷹臣さんを呼んだ時間が近くなり私は来客用の駐車場で待っていた。背中にはカメラを構えた密佳が張り付いている。
「ねーねー、睦希にゃん、その『旋堂さん』って、どんな人?可愛い系?カッコイイ系?ラテン系?」
「少なくともラテン系じゃないよ…って言うか…やっぱり向こう行ってて欲しいんだけど…駄目?」
「好奇...いちごいちえとひめしあい-84.古本屋の常連客-
安酉鵺
彩花と一緒に自販機でジュースを買っていると、何やらキャンキャンと甲高い声が聞こえた。見ると鶴村先輩が友達に纏わり付かれている。溜息を吐きながらこっちを見た先輩と目が合うと、何故か先輩は私にバットを手渡した。
「何でしょうか?このバット。」
「これで天城会長殴って来てくれない?」
「解りました。」
「...いちごいちえとひめしあい-80.蚊帳の外-
安酉鵺
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想