彩花と一緒に自販機でジュースを買っていると、何やらキャンキャンと甲高い声が聞こえた。見ると鶴村先輩が友達に纏わり付かれている。溜息を吐きながらこっちを見た先輩と目が合うと、何故か先輩は私にバットを手渡した。
「何でしょうか?このバット。」
「これで天城会長殴って来てくれない?」
「解りました。」
「ちょっ…!若葉?!鶴村先輩も何物騒な事言ってるんですか?!」
焦った彩花がバットを取り上げると、先輩に纏わり付いていた人がずいっと身を乗り出して言った。
「ねぇねぇ、君。睦希にゃんの恋人ってどんな人?知ってる?」
唐突な質問に目をぱちくりさせた。え?恋人?睦希先輩に恋人…。
「せ、先輩恋人居たんですか?!」
「えっ?」
「若葉…。」
あれ?何この空気、2人は目を逸らしてるし彩花まで何だか半分呆れた目で見てる。私もしかして空気読めて無い?でも本当に知らなかったんだけどなぁ。微妙な沈黙をこれまた空気を読めない声が破った。
「鶴村、此処に居たのか、探したぞ。」
「彩花ちゃんバット貸して。」
「駄目ですってば!」
バットの奪い合いを会長はキョトンとした顔で眺めていた。そうだ、このバカ会長なら知らないかも?
「会長、鶴村先輩の恋人って誰?」
「は?誰って、旋堂さんだろう?緊急事態で呼び出して貰ったんだ。」
「にゃ!天城会長!その旋堂さんとやらはどんなお人?!カッコイイ?!」
「ちょっと密佳!」
盛り上がる先輩達を余所に私は1人ショックを受けていた。バカ会長まで知ってるなんて…何か私めちゃめちゃ蚊帳の外っぽくない?そもそも恋人とか何?皆ちょっと簡単に恋愛ごっこし過ぎじゃない?それとも私硬いのかな?そうなのかな?しふぉんちゃんや彩花だって…。
「若葉?!」
居たたまれなくなってその場を走り去っていた。皆が急に汚く思えて逃げ出したかった。
「おい日向!」
声と同時に会長に腕を掴まれた。頭が訳解んなくなってたのと驚いたのとで自分でも意味不明な涙がボロボロ零れた。学食が近いせいか周りにわんさか居る人から容赦なく浴びせられる視線が痛い、痛過ぎる。
「放して!痴漢!変態!バカ!」
「落ち着け!急にどうした?!」
「煩い!もう知らない!皆汚い!」
掴まれた手をぶんぶん振って抵抗していると、いきなり目の前が真っ白になった。それがテーブルクロスだと気付いた時には私は荷物みたいに担ぎ上げられていた。
「何すんのよ?!下ろせ~!!」
本気で意味が解らずただただ暴れていると、ドアの音と共に何処かに下ろされた。テーブルクロスを剥がして辺りを見ると、どうやら医務室らしい場所に座らされていた。
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