少し眠ってしまったらしく、軽く頬を叩かれて目が覚めた。ゆっくり目を開けると旋堂さんの姿があった。金色の髪に一瞬緋織かと思った訳だが。
「酒抜けたか?」
「多分…すいません。」
辺りを見回すと解散したのか人影は無く、旋堂さん以外は片付けをしている雉鳴弭だけが動いていた。起き上がった俺に気付くとトコトコと寄って来て言った。
「皆家帰ったよ、荷物もあるしね。」
「え…?ああ…。」
「で、館林先生は熱出したお姫ちゃんの迎え。」
そう言えば先輩がそんな事を言っていた…いや、こうしてる場合じゃない、確か本部長と奥さんは今フロリダ出張の筈だし、緋織1人じゃ心配だな。椅子に掛かっていたジャケットを手に取ると、腕を掴まれると共に旋堂さんの冷たい声がした。
「お前は行くな。」
「何言って…?だって、緋織が…。」
「お前本当は緋織の事好きじゃないんだろう?」
背筋にツッと汗が降りた。耳鳴りがする程沈黙が重かった。見透かす様な目と、思いの外掴まれた腕の力に微動だに出来ずにいた。不意に上がった口角に反射的に腕を振り払った。凡その察しが付いているのか、鎌をかけたかは解らないが、確信の見える目に多分前者だろうと思った。
「…何時から?」
「最初から。んーっと正確にはテスト参加者の集合掛かった時だな。」
そう言えば小説家だったか、成る程人間観察は得意と言う事か。
「真壁君がお前の髪拾って全部洗い浚い調べてくれてなぁ。」
決定、真壁殺す。全く余計な事を…と言うかそもそもあいつは何なんだ?先輩曰く他人の記憶やら思考やらが解るとか言っていたな、超能力みたいなもんか?信じてないけど。と、後ろから首にするりと手が回された。
「その割に独占欲は結構剥き出しだよね、響さんは。」
「そりゃ、まぁ、妹みたいに大事には思ってるし、最近やたら綺麗になるから時々血迷いそうに…。」
言い訳がましく呟いていると、シャッター音と共にやや怒り交じりの声がした。眉間に皺を寄せた鶴村だった。帰ってなかったのか。
「響さん最低…緋織ちゃんが可哀想過ぎる…。」
「睦希ちゃん、ドサクサで誤解を招く写真撮っちゃ駄目。ほらカメラ貸しなさい。」
ぼやきながらカメラを渡す鶴村を見ていて、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「そっちはどうなんです?旋堂さん。彼女、お家事情に巻き込む気ですか?」
「んー…どうしようねぇ?睦希。」
「えっ?どうって…え?」
「嫁に来る?」
「はひっ?!」
盛大に飛び退いた鶴村はテーブルに躓きコントの様に後方にスッ転んだ。可愛いのに色気の無い…。
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もっと見る朝の6時過ぎに手を踏まれて目が覚めた。まどろみながら目を開けると、明らかにこそこそと出て行く姿。あの子は確か昨日泣いてた睦希ちゃんよね?トイレかしら?
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ドアの隙間から聞こえた声に思わず体が固まった。声自体に驚いたのも勿...いちごいちえとひめしあい-29.第一印象-
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電話から30分程経って、私の部屋は実にわいわいと賑やかになっていた。
「緋織ちゃんの家って豪邸ね~良いなぁ。」
「うっうっうっ…ごめんなさ~い。」
「鶴村さん、もう泣かないで。」
どうやら睦希先輩は軽くパニクッて参加者の女の子全員に電話やメールを送ってしまったらしい。自分の携帯に自分でメール送ってる...いちごいちえとひめしあい-27.修羅場を期待した-
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ちくちくと刺さる視線を避ける様に調理室の前を通り掛ると、チョコレートの甘い匂いが漂って来た。
「良い匂~い、ここだぁ!」
「密佳、犬じゃないんだから…あれ?しふぉんちゃん。」
「睦希先輩、味見に来たんですか?丁度もう直ぐ焼き上がりです。」
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鷹臣さんを呼んだ時間が近くなり私は来客用の駐車場で待っていた。背中にはカメラを構えた密佳が張り付いている。
「ねーねー、睦希にゃん、その『旋堂さん』って、どんな人?可愛い系?カッコイイ系?ラテン系?」
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「好奇...いちごいちえとひめしあい-84.古本屋の常連客-
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彩花と一緒に自販機でジュースを買っていると、何やらキャンキャンと甲高い声が聞こえた。見ると鶴村先輩が友達に纏わり付かれている。溜息を吐きながらこっちを見た先輩と目が合うと、何故か先輩は私にバットを手渡した。
「何でしょうか?このバット。」
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「解りました。」
「...いちごいちえとひめしあい-80.蚊帳の外-
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日向先輩に連れられて澤田先輩のデートを尾行して…そこで私達は何だか凄い光景を見てしまった。日向先輩の叫び声の後は正直何が何だか覚えていなくて、そして現在駅から近かったと言う理由で2人共私の家に呼ぶ事にした。
「あの、お茶です…。」
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「もぉー!何呑...いちごいちえとひめしあい-26.女子会-
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