ブライトさんに言われてから、俺は思いつく限り、いろんな人に話を聞いてみる事にした。
人の言いなりだって言われるかもしれないけど、俺だって他にどうすればいいか解らなかったし、その方法を否定する理由もない。
だったら、言われた通りにした方が確実だと思った。
―Crush―
第五話
とりあえず、近いところから行くのが無難だろう。
そう思って、俺は一旦美憂さんの住んでいるマンションに戻った。
でも美憂さんに会いに来たわけではない。
黒部家の1階上の、階段から離れた部屋に向かい、呼び鈴を鳴らす。
この部屋に来るのは久しぶりだ。
最後に来たのは…少なくとも半年以上前の事。
『…何者だ?』
しばらくして聞こえてきた声に、つい吹き出す。
まったく…警戒しすぎだ。
「そういう訊き方、やめた方がいいと思うよ、がくぽ」
『その声…レン殿か!』
「そ。ちょっと話したい事があるんだけど、開けてくれる?」
『無論だ。しばし待たれよ』
そこで声が途切れ、俺は"藤原"と書かれた表札を見上げる。
藤原さんはうちのマスターの上司だ。
つまり、今は会社で仕事中という事になる。
俺たちが購入されて少したった頃に、うちのマスターに影響されてがくぽを購入して、その時に俺たちがマスターの代わりにインストールの手伝いをした。
あの時は、優しくていい人だなと思ったのだが、仕事の事になると人が変わるらしく、マスターがしょっちゅう愚痴っている。
そこまで考えて、ガチャリと鍵の開く音がした。
「久しいな、レン殿!一体どうしたというのだ?」
「詳しい事は中で話したいんだけど、入っていい?」
正直、がくぽと玄関先で話すのは、ちょっと恥ずかしい。
ここの近所の人はまだいいが、彼の事を何も知らない人に、『何だこいつ』みたいな目を向けられるのは、なるべく避けたい。
多分、がくぽ本人は、そんな事考えてないだろうけど。
藤原さんも、困っているんじゃないだろうか。
「ふむ、今は克宏殿が不在なのだが…まぁ良いだろう」
「ありがと。お邪魔します」
内心ほっとして、靴を脱ぐ。
ちなみに、克宏殿ってのは、藤原さんの事だ。
通された部屋は、前に来た時と変わらず、きっちりと整頓されていて、自然と背筋が伸びる。
「…それで、話とは何だ?」
「うん。あのさ…がくぽは、片想いって何だと思う?」
本日3度目の問いに、がくぽは意表を突かれたように目を丸くした。
「レン殿…片想いをしていて、悩みがあるのか?ならば私ではさほど力にはなれぬと…」
「いや、そうじゃなくて、興味があるだけだよ。今、色んな人に訊いて回ってて、がくぽはどう思うかなって」
半分くらい嘘を吐いた。
けど、こう言っておいた方が、素直な意見を言ってくれそうだと思った。
「あ、でも、藤原さんには内緒な?後で説明しなきゃいけなくなったら面倒だから」
「なるほど、承知した。そうか、レン殿もそういう年頃であったな」
「年頃って何だよ」
馬鹿にされたような気がして、むっとして言い返すと、なだめるような笑みを向けられた。
さっきまでの、あからさまなガキ扱いも嫌だが、悪意がなくても、それはそれでなんかムカつく。
…って言ったら、ますますガキ扱いされそうだから言わないけど。
「片想い…はたから見る限りは、苦しい物にしか見えんのだが…それでも、焦がれる者は多いようだな」
「はたから見るって…何を」
「克宏殿が気まぐれで見る番組だ。ドラマ、といったか」
藤原さん…ドラマ見るんだ。そんな風には見えなかったから、ちょっと意外。
でもドラマの中での片想いは、偽物とまでは言わないけど、シナリオの上の事だから…たとえその中から答えを見つけても、どこかで疑ってしまう気がする。
「やっぱりみんな、辛いけど引かれてしまうって言うけど…そういう物なのかな」
「済まぬ、私にはこれくらいしか解らんのだ。…かくなる上は…」
「待て待て待て!腹は切るな!」
不穏な空気に、慌ててがくぽを止める。
「それだけでも、十分だよ。おかげで助かった」
「…あれしきの事でか?」
「うん。大体みんな同じような事を言うって事は、大まかな意味はそういう物なんじゃないかって思うし。もしかしたら、少数派もいるかもしれないけど」
とりあえず、大体のイメージはもうこれで固めてしまっていいだろう。
そこまで解ったんだから、がくぽが力になれなかったなんて事はない…と、思う。
「ごめん、これだけの事のために、急に押し掛けたりして」
「なんの。困っている時に助け合うのは当然の事。私で良ければ、またいつでも来ると良い。きっと克宏殿もそう言う」
数分で済む用で、家の中まで上がらせてもらったのに、がくぽは嫌な顔1つせずに、玄関まで俺についてきてくれた。
「じゃあ、また。今度はみんなで遊びに来るよ」
「そうか、それは楽しみだ。その時はまた、歌でも聴かせてくれぬか?仕事では部下でも、克宏殿は悠殿を、同じVOCALOIDの主として頼りにしているらしいから」
うちのマスターなんて、あてにならないと思うけど、そんな事は言わないでおいた。
軽く手を振って、階段へ向かう。
1段1段下りながら、俺はまた考えていた。
大まかなイメージ…そう、輪郭は大体解ってきた気がする。
あとは、辛いのに抜け出せないっていうそのイメージ、それ以外の、少数意見か。
だって、みんなが言ってる同じような事だけが、本当だなんて事、そんなにないと思うから。
じゃあ、その少数意見を持ってそうな人…でなくても、細かいところまで言ってくれそうな人って、誰だ?
…1人、すぐに思い当たる人がいた。
俺は、曖昧な記憶を頼りに、歩き出した。
【レンリン注意】―Crush― 第五話
レン、色んな人に相談してみるの巻、3人目。
やっと登場フラグ回収できました。
覚えて下さっていた方、どれだけいるんでしょうか…(滝汗
がくぽマスターは、名前は決めましたけど、今後の登場予定は今のところないです(殴
だって、がくぽのキャラって苦手で…orz
一応名前の解説だけしますと、がくぽといえば紫→→藤→→藤原、という、美憂さんのときとほとんど同じような速さで決まりました。
名前も、ちょっといかつい感じ、と考えて、真っ先に頭に浮かんだので、克宏。
でもいかついかな、これ…(汗
さて、次回登場の4人目ですが…ゲストキャラです!
いやもう本当に、この間お世話になってしまったので…おっと危ない、名前を出すところでした←
誰でしょうねえ(調子に乗るな
では、次回もよろしくお願いします!
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―Crush―
第六話
きっつい、という事は、特...【レンリン注意】―Crush― 第六話
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本当はもう少し聞いて回りたかったけど、マスターに捕まってしまったから時間切れだ。
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「何だ?」
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最終話
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俺は夜の間にも...【レンリン注意】―Crush― 最終話
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