こんな片想い、もう何年目?
一緒に過ごした時間も、とてもとても幸せで。
けど、伝えられない想いの分、切なくて切なくて。
だから、君に届け、僕のコイウタ。
コイウタ
「はい、めーちゃん」
懸命に、笑顔で。
後ろ手に隠していたものを渡した。
最初驚いていた彼女は、訳が判らないと言うような顔をした後、最終的に不機嫌な顔になった。
「……何、コレ」
両手で突き出すようにして差し出すそれは、自分で材料を買って、自分で作って、自分でラッピングしたもの。
甘い、甘い、お菓子。アイスじゃないよ。
某お菓子メーカーの陰謀(?)に踊らされる今日という日に差し出す、チョコレート。
今日は、バレンタインデー。
「何って…チョコだよ?今日バレンタインだし…」
「……はぁ?」
物凄く不機嫌さを増していくその表情に、こちらは冷や汗ダラダラ。
何か、悪いことしたっけ?
「あ、えっと、めーちゃんお酒好きだから、お酒のトリュフにしたんだけど…あ、練習したし、味も見たからおいしいのは保障するよ!」
「……何、それ、アンタの手作りなの?」
「あ、えっと……うん…」
しどろもどろに返す自分。情けない。
今日は自分の誕生日でもあるから、勇気出してチョコレートをあげようと思った。
女の子が男の子にあげるイベントだけど、逆チョコっていうのもあるらしいし。
何より。
もう、いい加減この想いを伝えたいと、思ったから。
「受け取って、下さい」
この間マスターに、丸で心中を読まれたみたいな唄を唄わせてもらった。
マスターが、何で声震えるんだろうと首を傾げてたっけ。
「……バカイト」
長い溜息のあと、
「…アタシに、コレ受け取れって…」
嫌味?
少しふてくされたような声に、顔を上げた。
「今日はアンタの誕生日でしょうが…」
ひょい、と取り上げられたチョコレート。
それをじっと睨み、嬉しいんだか怒ってるんだかわからない、物凄い複雑な顔をしてから、彼女が視線を上げる。
「バカイト」
本日二度目の“バカイト”呼び。
直後に、腕の中にやわらかい、衝撃。
「え?あ…?」
固まった状態で、けれど視線を落とすと、耳まで赤い彼女の、つむじ。
恐る恐る、腕を回し、抱きしめた。
「……何で大人しく待ってられないかな」
「…………ご、ごめん…?」
服を握ってくる手のひらが、少し震えている。
「アタシだってね、アンタに何かあげたいって、必死になって…」
そこまで言って、メイコは口を噤む。
「めーちゃ…」
「アンタの誕生日なのに、アタシに色々くれてどうすんのよ!」
ぎゅ、とマフラーを引っ張っていた手のひらが、押し付けるように何かを渡してきた。
「アタシが…色々もらってどうすんのよ…」
不貞腐れた、声。
渡されたそれを見れば、小さなラッピングされた、箱。
「アンタみたいに、上手く作れたわけじゃ、ないけど…」
ぼそぼそと話す彼女は、いつもの彼女と違って。
申し訳なくて、そしてとても――愛おしくて。
「…ありがとう」
渡されたそれごと彼女を、抱きしめる。
「あ、あんまり期待しないで。…ホント、上手くできてな…」
「めーちゃんがくれるってだけで、俺は嬉しいよ」
「でも…っ…」
まだ何か言いたそうな彼女を遮り、頬にキスをした。
いつもだったら、こんなこと出来もしないことだけれど。
こうしてプレゼントも貰えた、抱きしめさせてくれている。
だから、少し、大胆になる。
だから、もう少し、勇気を。
この気持ちを伝えられる、勇気を。
「…めーちゃん、俺」
情けなく、声が掠れる。
それでも、せめてちゃんと顔を見て言いたくて、抱きしめていた腕を、少し緩めた。
「…カイ、ト…?」
少し不安げに揺れる、瞳。
必死に笑顔を作って、一つ深呼吸。
「めーちゃんが、…好きなんだ」
言った途端、恥ずかしくなって、少し低い位置にある彼女の肩に顔を押し付ける。
最初戸惑っていたようだった彼女は、けれどそっとこちらの頭に触れ、髪を梳いた。
優しく、穏やかに。
「…カイト」
「…っ」
彼女の声が、直ぐ側でする。当たり前だ。こんなくっついているんだから。
「ちょっと、顔、上げて?」
「…やだ」
どこか宥めるような声に反抗し、駄々っ子みたいにぐりぐりと顔を押し付ける。今顔を上げたら、顔が赤いのがばれてしまう。
カッコ、悪いじゃないか。
「……全く」
一つ溜息のあと、呆れたように彼女が笑う。そして。
「こら、顔上げなさいバカイト」
「……」
今日はバカイト頻度が多い。
しぶしぶ顔を上げると、両手で頬を包まれた。
「アタシも、アンタに言わなくちゃいけないことがあるのよ?」
「……っ」
先程の返事、というわけか。
と、いうか、未だ返事も聞いてない相手に抱きついて、今何してた?
急に自分のしたことに気付いて、更に顔が熱くなる。
「ちゃんと聞いてなさいよ?二度は言わないからね」
「…はい」
消え入りそうな声で返事をし、頷く。
こほん、と一つ咳払いをして、彼女は照れくさそうに微笑った。
「ありがとう…アタシもカイトが好きよ」
「…へ?」
間抜けな声を上げて、まじまじと彼女を見た。
今、この唇が、そう言ったんだろうか?
それとも、幻聴?
バカバカ言われてきたけど、耳までバカになったんだろうか?
「何よその顔。ちゃんと聞いてたんでしょうね?」
「え、いや、その…は、はい…」
聞き間違いとかじゃ、なかったんだ――…。
かぁぁ、と茹蛸が腹を立てるくらいに真っ赤になって、あちらこちらに視線を泳がす。
どうしよう、めーちゃんが、俺のこと、好きだって…。
「…アンタ、耳まで真っ赤」
「……え?あ…そう言う、めーちゃんだって…」
さっきしてくれたお返しみたいに、彼女の頬を両手で包む。
少し、熱い。
「…あの、めーちゃん…」
「…何よ」
「キス…していい?」
「…聞くなバカイト」
照れて怒った彼女に、ごめん、と笑って。
ゆっくり、顔を近づける。
自然と下りる目蓋。
触れた柔らかな感触は、とても、甘かった。
「…誕生日、おめでとう、カイト」
離れた唇の距離で、彼女はそっと囁く。
嬉しそうに、やっぱり照れくさそうに。
「ありがとう、めーちゃん」
笑って、もう一回頬にキスして、抱きしめる。
今日という日に感謝を。
生まれてきたことに感謝を。
そうして君に届く、僕のコイウタ。
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ご意見・ご感想
kmsaiko
ご意見・ご感想
はぅっ(*´Д`*)
なんて2828ストーリー(・∀・)
ブクマさせていただきます!!
2010/02/23 17:26:31
羽鳥麻衣
ご感想&ブクマありがとうございますぅぅぅ!(≧▽≦)
今読み返したら思った以上にこっ恥ずかしい年長組でした;
2828もして頂いたようでありがとぅございましたー!
2010/02/25 22:57:54