姉のリンがおかしくなった。
マスターが、僕らの前から姿を消してから。
「先に寝るね」
そう言ってリンが部屋に戻った後、僕とマスターだけが残ったリビングでマスターは呟いた。
「疲れた……」
その頃のマスターは日を重ねるごとに痩せていって、心底疲れた表情をしていた。
「何かありました?」
少し悩んだ後に僕は聞いてみた。マスターは、自嘲気味に笑った。
「何もないといえばないし、あるといえばあるんだけどね」
その言葉に含まれた意味を、僕は理解できなかった。
テレビから流れていた笑い声がぷつりと止む。横を見ると、マスターがリモコンの電源ボタンに指を置いていた。
静かな部屋。どうしようか悩んでいた時、マスターが言った。
「死にたい」
結局僕は何も言えず、その日は寝てしまった。
そして翌日。マスターは僕たちの前から消えていた。
マスターが「死にたい」と言っていたということをリンに言うべきなのかもしれない。言えば、リンは状況を把握して、少しは前のリンにもどるかもしれない。
でも、今以上におかしくなる可能性だってある。僕だって隠していただけで、立ち直るまでに時間はかかった。
すでにマスターが消えている。そのうえリンまで消えたら、立ち直ることができる自信がない。
不意に、窓が開く音がした。
見ると、リンはベランダから下を覗いていた。落ちる気なのだろう。少し体を浮かせている。
僕は立ち上がり、リンの足を地につける。そして強く、リンの肩を抱く。痛がっても話さない。元に戻らなくてもいい。ただ1つ望むこと。それは――
「もう……マスターは……いないんだ……」
僕を、独りにしないでくれ
マスターのいない世界/鏡音レン
最後の一行をこのシリーズの恒例にしようと思ったのに、いざ書いてみたら必要ない気がしました。
普段は第三者視点で書いているので、主人公視点で書くとやはり辛かったり。
元々下手な表現がより一層下手になった気がする。
レンはマスターの死を受け入れることはできた。
でも、独りになるのは耐えがたい。マスターがいなくなるだけで普通なら壊れそうなものなのに、双子として生まれたというのもありますしね。最初から2人だったから、そこから1人になってしまうのは1人に戻るよりも辛いんだと思います。
さて、残りのカイメイあたりで積みそうで怖い。ルカはそれとなく行けそうなんですけどね……2人は似たような感じになっちゃいそうで。
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