UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その15「三人vsタイプH(その1)」
「ユフ…」
テトの声に反応して、ユフは少し目を開けたが、すぐに閉じた。
駆けつけたモモは、ユフの額に手を置いた。
後から来た小隊長がモモの肩を叩いた。
「どうだ?」
振り返ったモモは首を横に振った。
「ユフのSCは?」
「無事です」
「そうか。なら、いい」
顔を伏せたままテトが立ち上がった。
「なあ、デフォ子、一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「反対方向へ逃げたはずのユフとサラがどうして、いるんだ?」
「戦車を改造して、射出カタパルトを作った」
「それで?」
「タイプNを倒すための陽動に使った」
「そうか…」
「なんだ? 納得できないのか」
「いや、ちょっと、寂しいだけで…」
小隊長はテトの肩を軽く叩いた。
「基地の機能が復旧できれば、また、すぐに会えるさ」
「そうだよな…」
小隊長はテトを促して歩き出した。
「行くぞ」
「おう」
「モモ、目標地点は?」
「残り、約50000です」
雲は再び厚く垂れこめだした。
それから三人は黙々と歩いた。
日が傾き始め、辺りが薄暗くなりモノトーンに支配されていった。
「目標、確認!」
モモが明るく声を上げた。
「前方、14NNH。丘の上に建造物らしきものを確認しました」
それはまだ、地平線上に現れた点のようなものだった。
近づくにつれ次第に大きくなり、それは形をはっきりと示し始めた。
「あれって、『家』かな?」
遠くのシルエットを見つめて、テトは呟いた。
「そうだな…」
小隊長は別のことを考えているようで、あいまいな返事しかしなかった。
「きっと、そうですよ」
モモの声はまだ弾んでいた。
丘の上の建物は形がはっきりしてくると、窓のようなものがあることがわかった。
その窓から明かりが漏れていた。
あまりに遠いその光は、星の瞬きに似ていた。
光源の前を何かが横切っている、とわかったとき、モモの目が大きく見開かれた。
言葉を失い、モモは歩くのをやめた。
「どうした、モモ?」
小隊長は立ち止まって振り返った。
テトも立ち止まった。ただし、前を見つめたまま。
テトの視界のはるか奥に長い髪のシルエットがあった。その長い髪が銀髪とわかったとき、テトは戦慄を覚えた。
「おい、うそ、だろ…」
「テト? モモ?」
震える声でモモは答えた。
「敵です。距離、10000。数は、1。タイプは、H」
沈黙が三人を縛りつけた。
沈黙を破るのに数秒が必要だった。
小隊長がやっとのことで口を開いた。
「Vで最強の兵士…」
「特に白兵戦、接近戦が得意で、実際に倒すには10個小隊が必要だとも言われ…」
「五千人もいたモントリオールの基地をたった一人で、それも半日で壊滅させた…」
「銀髪の死神…」
テトははっとなって二人にを振り返った。
「逃げよう! やっぱり、ここは、Vの基地だったんだ」
モモはテトに同調した。
「ウタさん、テトさんのいう通りです。ここは、一度、退きましょう。相手は陸戦専用ですし、動いていません。私たちの足に追い付いてはこれません」
小隊長が首を横に振ったのを見て、テトとモモは信じられない思いで小隊長の顔を見つめた。
「逃げたいものは、逃げろ。止めはしない」
「デフォ子!」
「ウタさん!」
「逃げてどうなる?」
「…」
「このまま奴から、タイプHから、ずっと逃げ続けるのか」
「…」
「私は、タイプHを倒して、先に進むべきだと思う。理由は三つある」
「…」
「ここを、タイプHが守っているなら、それだけ重要な施設ということになる。それが分かれば、今度こそ、この戦いに終止符が打てる」
「…」
「それに、タイプHは、複数存在しない。これまでタイプHが戦場で確認されたのは13回だが、一度も重複しない。つまり、奴は貴重な一体なんだ」
「何が言いたい?」
「長期間、一体が作戦行動を続けるのは不可能だ。我々は五年に一度スキャンするし、二十年に一度はリフレッシュする。だが、奴にはその形跡がない」
「それって…」
「奴は、タイプとか分類されるような量産型ではない。一体しかないプロトタイプなんだろう。早い話、奴は長期に渡って、メンテナンスを受けていない可能性がある」
「根拠は?」
「奴の右腕に、モントリオールで付けた傷が残っている。これは、三つ目の理由でもあるが、モントリオールでの借りを返したい。やられっぱなしは、好きじゃない」
テトは少し目を閉じて考えた。
目を開けたテトはにっこりと微笑んだ。
「しゃあない。付き合うよ」
小隊長もにっこりと微笑んだ。
モモは信じられないと言った表情で首を激しく横に振った。
「ふ、二人とも、どうかしています! あのタイプHに、たった三人で、立ち向かうなんて、無謀過ぎます!」
テトはくすりと笑った。
「『三人』ということは、やる気はあるんだ」
「まあ、モモが私を見捨てたりはしないよな?」
モモは顔を真っ赤にして、抗議した。
「お二人とも、そういう言い方は、卑怯です」
テトと小隊長の笑顔は続いた。
「では、装備の確認だ」
「残っているのは、ビームサーベルだけ。それも三分使えるかどうか」
「モモは?」
「ビームライフルが、5発だけです」
「私は、ビームライフルが三発と手榴弾が三発と、奥の手がある」
「奥の手?」
「あと、モモの探査針が使える」
「え? それは無理だろう。どうやってタイプHの動きを止める? 止めたとして、Vと私たちじゃ内部の構造が違う」
「試す価値はある」
「デフォ子は、…」
テトが一呼吸おいて話した。
「あのタイプHに、勝てると思ってるのかい?」
「勝てる」
「では、小隊長どの、ご命令を」
小隊長はニヤリと笑った。
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