商人を森の入口まで送った帰り道。
私は、先程見た兄の日記の内容を思い返していた。
『…けれどそれにもいずれ限界が来る。マスターだってそうだった…』
『…もしかして、彼女も自らの力の限界を感じたんだろうか…』
私は今まで、魔術というものは使えば使うほど強くなるものだと思っていた。マスターは魔術を使うことを控えていたからこそ、加齢も重なって力を失っていったのだと。
けれど、違うのだろうか?
魔術の使用率に関係なく、魔力はいつか限界を迎え、失っていくのだろうか?
『…彼女の力が僕より強くなる可能性はない。けれど、それは僕も同じだ…』
兄は早々に力に限界が来ることに気が付いていた。そして、それが私にも等しく訪れることも。
何故ならば、私達は二人で一つの存在だから。等しく魂と魔力を分け合った私達だからこそ、互いの“力量”を確実に見極めている。私の力は兄を超えないし、兄の力も私を超えることはない。
そう。そんなことは有り得ない。
『しかし、その均衡が破れてしまったら――』
私の力が、兄の力が。互いを上回るようなことがあれば?
「…私の力が、兄より劣るような事があると?」
――――――――ザァッ!!
「グガァッ」
どさり、と背後で音がした。面倒だが確認するために振り向く。一頭の熊が地に伏していた。地面には血が流れ、動かない。
「……有り得ない」
呟く。そう、有り得ない。私達は双子。互いに公平に力を分け与えられた存在。たとえそれが望まぬことであったとしても、その真実は決して揺るがない。
『お前たちは二人で一つの存在』
マスターの言う通り、私達は互いに一人では生きていけない存在なのだ。
「…まったく、兄様も何を考えているのやら…」
盛大に溜息を吐き出す。いつも部屋に引きこもって本ばかり読んでいるから、あんな馬鹿げた考えを思いつくのだ。思い返すと、あんな兄の態度に一瞬でも怯んだ自分も腹立たしい。大体そんなに読まれたくなかったのならばどこかに隠しておけばいいものを。
「…馬鹿馬鹿しい」
無駄な思考を繰り広げるのを止め、私は熊の死骸に背を向けた。この森には野生動物が多い。放っておいても、別の肉食獣が貪りに来るだろう。
「…ん?」
不意に違う魔力を感じて私は伏せていた顔を上げた。目の前、数歩先で空間が揺らぐ。
「…ようやく見つけたよ」
森の緑を裂いて現れたのは、私と同じ髪、同じ顔をした青年。違うのは目の色だけ。
「帰ってくるのが遅いから迎えに来た。何を――」
兄の言葉が止まる。その視線は私ではなく、背後のあるものに向けられていた。
「襲ってきたから」
「…だからって」
「弱肉強食よ」
兄の言葉を遮り、私は歩き出す。
「強いものが弱いものを制す。これは世の常でしょう?」
「だからこそ僕らは力を過信してはならないと、マスターが―」
「またそれ?兄様は何時だってマスターの言いなり。今も昔もずーっと!」
私の言葉に兄は黙り込む。気にせず私は家へ続く道を外れた。背後で戸惑ったような気配がする。
「…何処へ行くんだい?」
「気になるならついてくればいいわ」
振り返らず、私は続けた。
「兄様に“力”の使い方を見せてあげる」
或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第四章
お待たせしました第四章です。散々待たせたくせに短くて申し訳ありませんorz
ホントはここで前半終了としたかったのですが、この双子(特に妹)全く動かないわ自分の中で流れが纏まらないわでこんな形となりました…精進します……orz
…あー…年越し作品になりそうで怖い…(コラ)
コメント3
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ご意見・ご感想
shixi
ご意見・ご感想
>ムシュカさん
初めまして!読んでいただいてありがとうございます。
…な、なんか雪菫が好評いただいているようで…恐縮です。というわけでつ「ハンカチ」
兄の日記は今後も出す予定です。最後にするか、途中でちょろっとまた出すか悩んでるですが。
>狂音さん
読んでいただいてありがとうございます。
今回はとことん悩んだのでそう言っていただけると幸いです(礼)
こっから続き報告
…ここにきて初めて気付きました。これ、雪菫より長くなりますね…(遅
年越し作品になることは間違いないと思います。
毎度毎度長い間待たせてしまい申し訳ありませんorz
2009/11/07 23:52:17
Hete
ご意見・ご感想
読みました!
話の運び方が上手いです!
続き楽しみにしてます!!
2009/10/27 05:30:52
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ご意見・ご感想
はじめまして!ムシュカといいます
一気に雪菫の少女から読ませて頂きました!
僕もこのシリーズが大好きでして(^^)
雪菫の少女の話はすごく泣きそうになりました(;ω;)
言霊使いの呪いで、おにいさんの日記がとても興味深いというか……
続きがすごく気になります><
続き、楽しみにしてます★
頑張ってください>ω<
2009/10/25 04:10:54