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『けっして互いを蔑ろにしてはいけないよ』
それは、かつてマスターが何度も私達に言った言葉。
『お前達は二人で一つの存在なのだからね』
魂も力も、全て分け合った存在である私達。
けれど、けっして同じ想いを抱くわけではない。
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「…これは……」
呆...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第五章
shixi
商人を森の入口まで送った帰り道。
私は、先程見た兄の日記の内容を思い返していた。
『…けれどそれにもいずれ限界が来る。マスターだってそうだった…』
『…もしかして、彼女も自らの力の限界を感じたんだろうか…』
私は今まで、魔術というものは使えば使うほど強くなるものだと思っていた。マスターは魔術を...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第四章
shixi
私はよく森を探索しては、魔術を使う訓練をした。
植物に呪文をかけて、この季節には出来ない木の実を収穫したり。
肉食動物を操って、動物を狩ったり。
兄はそういうことはせずに、ほとんど家にいた。
自分の部屋やマスターの部屋で、勉強をしていたり。
庭の畑の野菜の収穫や、鶏の玉子をもらったり。
...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第三章
shixi
食事を済ませ、私は兄の手伝いをすることにした。兄に一人だと、いつまで経っても終わりそうにない。
「兄様、早く布を敷いてちょうだいな」
「わかったわかった」
兄が敷いた布の上に本を並べる。これでようやく後半分。
「そういえば兄様、マスターの部屋にあった本は日干ししないの?」
聞いたところ、ここに...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第二章
shixi
嫌いなものがある。あの人のお気に入りのオルゴール。
蓋を開けて螺子を回すと、小さな舞台で二人の人形が踊る。音楽が止むまで飽きもせず、同じところをぐるぐると。
兄様はあれを気に入っていたけれど、私は好きになれなかった。
同じところをぐるぐる永遠に回り続ける、二人の男女。
それはまるで、この場...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』第一章
shixi
「らーらーらー…」
歌い終わり小さく一礼した主に、微笑んで目の前に座っていた二人の人形は拍手を送った。
「見事ですよ、マスター」
片方の人形が言う。少年の人形。深海のように蒼い髪、夕暮れのような紺色の眼。
「本当?下手じゃなかった?」
「そんなことありませんよ、マスター」
片方の人形が言う。少...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』序章
shixi
人形が話すは、とても古い物語。
北の果て、一年のほとんどが雪になる土地にひとつの国があった。
その頂点に君臨するは、心優しき青年。
青年の人柄に民衆から賢帝と呼ばれた。
「皇帝!いい加減城の外に出るのやめてください!」
部下に叱責されながら皇帝は城を出て城下街に行く。
「別にいいじゃないか。民に迷惑...小説 或る詩謡い人形の記録 1
晶霞
「眠れませんか?」
人形は主人に尋ねる。
「あぁ、ちょっとな。」
主人はそう言ってしばし考え、そして、
「少し、話してくれないか?」
それを聞いた人形は、「それでは、この地域にまつわる話でもしますか。」提案した。
「へぇ、面白そうだな。いつものから始まるのか?」
人形はクスリと笑い、
「覚えました?...小説 或る詩謡い人形の記録 PROLOGUE
晶霞
謡い終わり、少女の人形は閉じていた目を開いた。子どもが涙を零している姿に苦笑する。
「マスター、泣かないでください」
「グズ…ッ、だ、だって…その剣士のお姉ちゃん、かわいそう……」
ぼろぼろとなおも涙を零す子どもに、困ったような表情を浮かべて少女は腕を伸ばした。自らのストールで涙を拭いてやる。
...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』終章
shixi
“雪菫の少女”が投獄されたという知らせは、城中の人間に衝撃を与えた。噂は国中に広まり、ついには他国にまで知れ渡ることとなった。
曰く、この戦は全て“雪菫の少女”の企てだと。
曰く、“雪菫の少女”はその信頼をいいことに王を誑かしたと。
曰く、真実を知り、王に知らせようとした歌姫を暗殺したと。
...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第七章
shixi
「どうぞ」
「失礼します」
部屋の扉を開けて少女を招きいれる。執務室の中央、客人用の椅子に彼女を座らせた。彼女が部屋を物珍しそうに眺めている間に、気付かれないよう鍵をかける。
「お茶を淹れて来ますから、少しお待ち下さい」
「そんな、お気遣いなく…」
「駄目です。身体を暖めませんと」
少女に背を向...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第六章
shixi
東の国はいつ滅ぼしただろう。
西の国はいつ滅ぼしただろう。
世界を全て手に入れたその先、求める答えが見つからなければ彼はどうなるのだろう。
「騎士隊が三十人前後、魔術師隊が五十人前後の損失です」
「……約半数、失ったか」
野営のため張ったテントの中で、私は部下達の報告を聞いていた。
「団長、...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第五章
shixi
「団長殿」
城内を歩いている最中、声をかけられた。
「なんでしょうか、大臣」
振り返り居住まいを正す。私以上に疲れた表情で大臣は口を開いた。
「陛下のご様子は如何か」
「相変わらずです」
「そうか…」
ふう、と大臣は溜息をついた。
「…陛下は変わってしまわれた。昔の優しさなど微塵も感じられぬ」...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第四章
shixi
雪が降る。しんしんと全てを覆い隠す。
「………」
とある小さな村。
その外れにある、小さな小屋。
住んでいたはずの夫婦はいない。
「…逃げたか」
一応部屋を物色する。様々な設計図や魔術の書かれた紙が散乱していた。火が消えた暖炉の中には、燃やしたらしい書類の破片。その中にあった、燃え残った一...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第三章
shixi
陛下に出会ったのは、こんな雪の降る寒い日だった。
当時人買いに売られた私は、剣の使い方を叩き込まれた。そいつは私を奴隷闘技場へ売るつもりだったらしいが、その前に殺した。逃げた私はその後、道行く傭兵に挑んでは金を賭けて勝負するという生活を送り始めた。私の腕は確かだったらしく、けして負けることはなか...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第二章
shixi
しんしんと雪が降る。真っ白の雪原に、パッと紅い花が咲いた。
「ひっ……!」
どさりと倒れた仲間を見て、部下が小さく悲鳴を上げる。そいつの震える姿に私は小さく溜息をついた。
「死体が一つ増えたところで怯えるな。情けない」
「…は、はい…っ!」
頷くが、まだ手は震えている。やれやれ。やはり徴兵され...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第一章
shixi
「おやすみなさい」
とんとん、と階段を上る。部屋に入ってまず駆け寄ったのは、二体の人形の前だった。青い髪の少女と少年の人形。見た目は16~17程度で、人間にしか見えないようなリアルさを持っていた。
どっちにしようかしばらく迷って、少女の人形に手を伸ばす。背中にあるぜんまいを巻くと、少女の瞼がゆっ...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』序章
shixi
その昔 魔物に脅え 暮らしていた時代
隻眼の魔女の元 美しい娘がいた
彼女はかつて至上の歌姫と呼ばれたが
今はもう謡わない その歌は死招くから…
呪われた 娘でも傍に置く魔女のこと
娘はただ心から慕い自然と微笑んだ
Ele-l aryu-fe nya ?
(何故私は生きているの?)
噂聞きつけ人...或る詩謡い人形の記録『終焉の歌姫』
青磁(即興電P)
北の果ての国の賢帝
平和を愛する彼はある時
この国で一番の歌姫に恋をした
けれど彼女の先は短く いつも苦しそうだった
彼女を救うため 手段は問わない
東 西 次々滅ぼし 延命の術を探し続け
腹心の少女の忠告など構わずに 暴挙振るい 彼は血に酔い狂う
「…狂う王の為に 歌姫に永久の眠りを!」
- w...或る詩謡い人形の記録『賢帝の愛顧』
青磁(即興電P)
とある小さな村に
白き髪 白き肌 男の科学者がいた
病弱な 彼 助ける妻
対なる子供たちと 静かに暮らす
決して裕福では なかったけど
幸せだと… 断言 出来ると
笑っていたあの日
「覚えてる?」
男には家族をだしき締める
この腕だけあればいい 他には何もいらないとさえも...或る詩謡い人形の記録『夕刻の夫婦』
青磁(即興電P)
遠く 遠く 森の奥深く 住まうのは
双子の 魔術師 兄妹の 物語
一つの魂を 分けた 二人には
ただ半分ずつの力しか 与えられない
「片割れいなくなれば 力は一つになれるの?」
「それなら私がこの手で殺せばいいでしょ。」
双子の妹は 歌を歌う様に
呪いの言霊を 只唯に紡ぎだす
兄は嘆き悲しみ 涙を零...或る詩謡い人形の記録『言霊使いの呪い』
青磁(即興電P)
雪の降る国 名将と名を馳せた
若き一人の 少女の話
権力も財産も 彼女はいらないけど
戦場へ…
噂だけはとおくとおく広がり 武勲をしらぬものおらず
汚れ役も 全て知ってここにいる 罪をおって
望み一つただ彼女は愛する人のため
剣を…
(堕された 殺された 残された 愛された
乱された 赦された 聴...或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』
青磁(即興電P)