しんしんと雪が降る。真っ白の雪原に、パッと紅い花が咲いた。
「ひっ……!」
どさりと倒れた仲間を見て、部下が小さく悲鳴を上げる。そいつの震える姿に私は小さく溜息をついた。
「死体が一つ増えたところで怯えるな。情けない」
「…は、はい…っ!」
頷くが、まだ手は震えている。やれやれ。やはり徴兵されたばかりの兵では、この戦は荷が重かったか。
「団長、敵は殲滅した模様です」
駆けてきた部下の言葉に頷き、私は叫んだ。
「皆の者!引き上げるぞ!」
齢17にして大の男に引けをとらぬ若き女性騎士。雪の降る国で、名将と名を馳せた。
これはそんな、若き一人の少女の話。
「“雪菫の少女”?!」
「ああ。何だお前、知らなかったのか」
暖かいスープを飲み干しながら、男は徴兵されたばかりの新人に言った。スープに手をつけることを忘れて「知ってますよ!」と青年は身を乗り出す。
「“雪菫の少女”っていえば、この国一番の武功を持つ騎士ではないですか!確か、王が唯一信頼して傍に置く人物だと……」
“雪菫の少女”。この国で、その名を知らぬ者はいない。
類稀なる剣の腕を持ち、若輩の身の上でありながら騎士団の頂点へその実力だけで上り詰めた少女。他国の者ですら、その武勲を知らぬ者はいない。
「それが……彼女?」
「そう。まさかあんなに若いなんて思ってなかったか?」
こくりと青年は頷く。素直だねえと男は苦笑した。
話題の中心の彼女はこの食堂にはいない。今頃、彼らの忠誠を捧げる人物である王に報告を行なっているだろう。
「…しかし、納得しました。あの腕は確かに…」
先程の光景を思い出したのか、青年の顔から血の気が引いた。やれやれ、と男は溜息をつく。
「初陣があの程度で済んでよかったな。この前の戦はもっと酷かった」
「……国王は」
ぽつりと青年が呟く。
「国王は、何時までこのような真似を」
「黙れ」
ぴしゃりと叩きつけられた言葉に、青年は口を噤んだ。青年を見る男の眼からぬくもりが消える。
「それ以上の言葉は反逆罪だ。運が良ければ牢屋に軟禁。悪ければ一族共々死刑になるぞ」
冷たい男の言葉に青年は息を呑んだ。淡々と男は続ける。
「忘れるなよ、ここは我らが王のお膝元だ。いつも見張られてると思え」
「……はい」
震える声でようやく頷く。黙って男も頷き「さっさと食え」と呟いた。その声から鋭利さが消えている。そこでようやく青年はスープを口に運んだ。先程まで暖かかったスープは、とうに冷え切っていた。
#
「失礼します」
扉を開ける。部屋には陛下ともう一人がいた。
「……」
私の視線の意味に気付き、陛下はもう一人の少女の方を向いた。
「すまない。席を少し外してくれるか?」
「はい」
頷く少女に微笑みかけ、陛下はその背を押す。すっと少女は立ち上がり、私の横を通って部屋を出た。ぱたんと、背後で扉が閉まる。
「よくぞ戻った。報告をしてくれ」
「はい」
頷き、私は報告を始めた。
或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』第一章
設定や台詞は本家様のを使わせていただいてます。
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