歩む音が二つ。
生い茂った山道をその二つの影は進んでいた。
雲ひとつない晴天とまではいかないが、空には薄雲がかかっていて、時折視界を仄暗くする。
「かいとは…」
ポツリと呟く声にかいとは後ろを振り向いた。
頭に手ぬぐいを巻いた黄色の髪が、日差しに解けて反射する。
「かいとは自分が人間だったら良かったのにって思ったことはある?」
かいとは前を向き、そうだなあと再び歩き出した。
「俺は、ない―――」
黄色の髪の少年は、うつむきながらかいとの後をついていく。
「わけがないじゃないか」
あっけらかんと言ったかいとの声に、少年ははじかれた様に顔を上げた。
かいとは前を向いたまま、続けた。
「今もまだ思うよ。何で俺は人間じゃないんだろうって。人間だったら良かった。人間になりたい。俺は、人間にあこがれ続けてる」
かいとは歩き続ける。
「『鬼』はどうやっても人間にはなれない」
それは、変えることの出来ない真実。
「だから、俺は尚更あこがれるんだと思うよ」
そう言うと、少年ははにかむように微笑んだ。
「僕も、そうなのかな?」
「それは自分で確かめなさい。れん」
二人は山道を進み続ける。
「君にはその選択肢が与えられたはずだ」
「……うん」
風はわずかに潮の匂いをはらんできた。
山道はもうすぐ終わるだろう。
「僕はれんでいたい」
そう決めた。
これから迷うこともまだあると思う。
罪悪感に責め苛まれることもあるだろう。
それでも、僕はこの道を選んだ。
「お母さんがくれた『れん』という存在でいたい」
あの山で僕は、僕を忘れてくれないあなたの優しさを、幾度恨めしく思っただろうか。
それでも、お母さんは僕を未来へ残すことを選んでくれた。
かいとに僕の名前を託し、これからも生きていくことを望んでくれた。
今は一言だけ言いたい。
「ありがとう」
と。
僕を見てくれた心優しい人々へ。
かいとは笑って答える。
「愛し、愛され、それで満たされることを知るのなら、れんは幸せものだな」
僕は歩く。
「僕は知ったから…」
生い茂る森を抜け、田畑が広がる光景へと出る。
遠くで波打つ青い水は、多分海というものだろう。
「幸せは、過去を思い出すものでも、未来に思いを馳せるものでもない。今、感じるものだ」
りんは、僕の中で生き続ける。
僕が消えない限り、りんも消えない。
僕たちが共に過ごしたあの時間を消せるものなど、何もないのだ。
「幸せだよ」
そう笑ったら、心に温かいものが溢れてきた。
僕がまだ知らない、気持ち。
そうやって、僕はこれからいろんなものを知っていくのだろう。
この気持ちの『名前』も。
「僕は、ここにいて幸せだ」
かいとは僕の頭にぽんと手を置き、笑って頷いた。
「だったら、俺も君をあの山から連れ出した甲斐があるな」
僕も笑う。
かいとも笑う。
「さあ、行こうか」
僕はまた一歩進む。
幸せでいようと思う。
笑って生きたいと思う。
僕は―――僕を生きよう。
鬼の子-終わり-
あとがき
今まで読んで下さってありがとうございます。
そして、分かりづらくてすみませんでしたorz
何気に続編も考えているのですが、うーん…この場合はオリジナルの域に入るのかと悩んでおります。
でも、せっかく作った設定も使いたいなあと悶々としています(笑
あと、兄さんのお話も…!!
元々はfumu様が作られた「孤守唄」を聞き惚れてしまったところから始まりました。
衝撃的でした。
淡々と歌うこの歌にはどんな気持ちが込められているのだろうと考え、私なりの形にさせていただきました。
言いたいことはたくさんあるのですが、うまく言葉に出来ません(笑
とにかく感謝感謝です!!
メッセージをもらえてとても嬉しかったです!!
読んで頂けて嬉しいです!!
この話を読んで何かを感じてくだされば嬉しいんです!!
本当にありがとうございます!!
原曲様
孤守唄=http://piapro.jp/content/371rlchbw857ki6g
出張して頂いたかいとさん
鬼と娘=http://piapro.jp/content/w47p6t7pgrvxjsgv
ご意見・ご感想などございましたら是非お待ちしております!!
続編は希望があったら投稿させていただこうと思ってます。
ちょっとしたサプライズを考えていたりします(笑
コメント4
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BPM=200→152→200
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-----------------------------------------
BPM=172
作詞作編曲:まふまふ
-----------------------------------------
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この手記が誰かの目に届きますように
-----------...ネバーランドから帰ったウェンディが気づいたこと【歌詞】
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ご意見・ご感想
痛覚
ご意見・ご感想
紅あずま様、読んでくださってありがとうございます!!
返信遅れてしまって申し訳ありません;;
しかも、ユーザーブックマークまで!!ありがとうございます!!
今思えばここはこう書けばよかったなとか、こういう表現をした方がよかったんじゃないかなと思う点も多々あります。
かいとの登場は私も予定していませんでした(笑
ただ悲しいだけお話にはしたくなかったので、どうにかしてやれないかと思った末の私のエゴのようなものです。
応援ありがとうございます!!
これからもがんばります!!
2009/08/13 15:43:08
痛覚
ご意見・ご感想
露木こまめ様、読んでくださってありがとうございます!!
ラストをまったく考えないで書き始めたこの作品も、無事に終わることが出来ました(笑
原曲では、れん君の思いで締め括られていたので、その後を自由に妄想させていただきました。
何か一筋でも、光を与えてやりたかった、私の自己満足の結果でもあります。
本当に良かったね、れん君!笑
次回作も今頑張って書いております!!
もう少し時間がかかると思いますが、じっくり書き上げていきたいと思います。
読んでくださってありがとうございました!!
2009/03/09 15:46:18
痛覚
ご意見・ご感想
いわし様、メッセージありがとうございます!!
れん君が強くなれたのは、かいとさんとの出会いが強いと思います。
いわし様の「鬼と娘」でかいとさんが鬼をやってなければ、れん君は今頃どうなっていたことやら…
本当に、いわし様に感謝しております!!
最初から読み返してくださってありがとうございます。
おそらく、冒頭の文章など、あれはこういうことだったのかな?と思い返せるようになってるはずです(笑
次回も頑張ります!!
2009/02/25 14:54:55
痛覚
ご意見・ご感想
逆さ蝶様、ご感想ありがとうございます!!
れん君の笑みは、やっとちゃんとした笑顔になった気がします。
素直に笑えるようになったと言った方が正しいですかね…
『鬼の子』だから、普通の『人間』と同じように暮らしてこれなかったれん君やかいとさんにとっては、『人間』という括りが羨ましく見えるのだと思います。
『人間』だったら『死』という終わりを迎えますが、『鬼』は『消滅』という形のない終わり方をします。
私が『鬼の子』だったら、きっと耐えられないと思います。
耐えられないと思えるくらい、今形をなしている自分やそれを支えてくれている周りに、感謝せずにはいられません。
今、こうやってメッセージを頂いていること、本当に嬉しいです。ありがとうございます!!
わかったつもりで私はいいと思います。
私自身もわかってないことがたくさんあると思いますし、気持ちを完璧に汲み取ることは難しいですからね。
国語の授業だってわかったつもりで説明されますからね。
そういう視点があるんだ、くらいに思っていればいいんですよ(笑
読んで下さってありがとうございました!!
この小説は終わりますが、お話はまだ終わらないつもりですよ(笑
2009/02/24 18:42:07