たとえば。たとえば。たとえばの可能性。たとえば失敗をしてしまったら?たとえば上手くいったら?たとえば、いつか画面の向こう側に皆で行けたら?
たとえばが叶ったら、そしたら、どうなるのだろう。
たとえばの可能性を考えると胸の辺りがもぞもぞとくすぐったいような感覚が生じる。そしてもやもやとした訳の分からない不安で押しつぶされそうにもなる。
「父さんはやることなす事が強引だから、別に真に受けなくても良いよ」
そうタロウが言った。
マスターから言伝を伝えるためにタロウのパソコンをカイトが訪れるとタロウは、カイトたちの身体の件について、口を開いた。
「タロ君のお父さんって、どんな人なの?」
思わず訊いたカイトの言葉に、タロウはにやりと笑った。
「変人。マイペース。じいちゃんは天才の技術者って感じだったけど。父さんは奇人の学者だな。どちらかっていうとさ」
その言葉に、そうなんだ。とカイトも笑った。
「でも悪い人じゃ無かったよね」
「うーん、悪い奴ではないけど、人としてはホント強引だから、どうなんだろう」
カイトの言葉にタロウはそう考え込むように言って、身体の件もさ、と続けた。
「多分、父さんの事だから、皆の誰かが引き受けないといけないような言い方をしたとおもうんだけど」
「うん。可能性の幅が減るって言っていたな」
それってちょっと脅迫だよね。とタロウが苦笑する。
「そういうずるい言い方をするんだ、父さんもじいちゃんも」
そう困ったようにタロウは言って、ばあちゃんは大丈夫だった?と訊いてきた。
「ばあちゃん。なんか落ち込んだりしてなかった?」
「うん、なんか少し悲しげだったよ」
カイトの言葉にタロウが、ああやっぱりと納得した様子で頷いた。
「そう言うとこ無神経なんだよ、父さんは」
「そうなのか?」
「そう。その言葉。可能性の幅が減るって、じいちゃんも言ってたんだ。最後の、手術の前に。そう言ってばあちゃんを説得してたんだ」
そう言って、全くどうしようもないな。とため息をつくタロウに、カイトはだけど、と口を開いた。
「だけど、それは実際その通りなのかな?」
「何が?」
「おれらじゃなくちゃ、駄目なんだって」
カイトの問いかけに、ああ、とタロウは少し俯きながら言った。
「そういう言い方をする時は、本当に、そうなんだ。カイトたちほど人に近い感覚を持った人工知能は、本当にそんなにいなくて、珍しいんだろうな」
ため息まじりにそう言うタロウの言葉にやっぱり、とカイトは唇をかんだ。
「じゃあやっぱりおれらが実験体にならないと駄目なのか」
「…多分。そうなんだと思う」
一瞬だけ言葉に詰まりながらタロウは頷いた。
そうか、とカイトは視線を地に落とした。考え込んでしまったカイトに、タロウが慌てるように言った。
「だけどさ、本当にカイトたちが必要かどうかだなって、分かんないよ。父さんの思い込みかもしれないし。そんな、嫌なら断っていい事なんだって」
タロウの言葉にカイトはそうだよね、と曖昧な笑みを浮かべた。
そう、断ってもいい話。だれも行かなくてもいい話。けれど困った事に。カイトはこの話が嫌ではないのだ。
たとえば。たとえば。たとえば。
全てたとえばの話で、まだ現実に起こっていない事。全てが夢物語の事。けれど、その夢を掴んで引き寄せる事が可能なのかもしれない。
けれど、たとえば。
それを考える事が止められない。
たとえばの可能性に賭けてみよう。そう思った。
マスターに話をしたら、案の定、叱られた。というか反対をされた。
失敗するかもしれないのよ。戻ってこれないかもしれないのよ。そう言ってマスターは反対をした。それでも、と言葉を繋げるカイトに意思の強さを感じたのだろう。最終的には、好きにしなさい。と諦めた様子でマスターは言った。
「ねえカイト。だけどヒーローになんてなって欲しくないのよ。卑怯者でいいのよ。辛かったら、これは危険だと思ったら、拒否していいのよ。危険な賭けなんかしなくていい。中途半端でもなんでも逃げていいの。何をしても必ず戻ってくる事。それだけは覚えておいて頂戴」
諭すように、マスターはそう言った。
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若者ってひとくくりは好きじゃない
自分はみんなみたいにならないそんな意地だけ張って辿り着いた先は1人ただここにいた。
後ろにはなにもない。前ならえの先に
僕らなにができるんだい
教えてくれよ
誰も助けてく...境地
鈴宮ももこ
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ご意見・ご感想
時給310円
ご意見・ご感想
おおおおおおぉぉぉ!? 何ですかこのクライマックス的な雰囲気!?
日常の小さな事件と、それを通しての人々のふれあいを中心に描かれてきたこのシリーズが、まさかの急展開ですね!
それにしても、さっき読んだ藍流さんの話といい、今日はカイト祭りだな! 誕生日だったからか!? ←
というわけで、こんばんはですsunny_mさん。読ませて頂きました。
相変らず土台のしっかりした小説をお書きになる。序盤の朝の丁寧な情景描写に始まり、ゆったりと物語の世界に入って行けました。がくぽの乾布摩擦フイタwww 奴ならやるwww
分量も申し分なく、「小説読んだ」って気になれました。
いやはやそれにしても急展開。
急展開ですけど、そういえば今までも伏線になるキーワードは盛り込まれていたんですよね。いつ頃からこの展開を考えられていたんでしょう? これは続きがものすごく楽しみです。
今回はとにかくカイトが男前でしたね! こういう男は嫌いじゃねーぜ……。「こういうのは俺の役目かな、と思ってる」「おれは始めの音のカイトじゃん」とか、いかすぜカイトー! って感じでした。僕の中のカイトも、こういうイメージです!
「断ってもいい話。だれも行かなくてもいい話。けれど困った事に。カイトはこの話が嫌ではないのだ」という一文も、すごく好きです。sunny_mさんはホント、かっこいい言い回しをしてくれるなぁ。
ミクとかリンレンとか、他のキャラたちも脇をしっかり固めてましたね。ホント、いつもながら群像劇を書くのが上手いと思います。
ううむ、この急展開がハッピーな結末を迎えてほしいけど、でもsunny_mさんにはバッドエンドの前例もあるし……(w
油断なりませんね。次回を楽しみにしております。
それでは! がんばってください!
2012/02/22 21:48:29
sunny_m
>時給310円さん
き、急展開ですか?。
書いてる本人的にはそんなつもりはなかったのですが、でもそうだな、急展開だなぁ。
この話の展開は、書き始めた頃にうっすらと方向の一つとして考えていました。
でもここに辿りつかせるかどうかまでは決めてなかったです(笑)無理そうならば違う話にしよう、と思ってました。
微妙に張っていた伏線は無駄にならなかったw
しかし基本が行き当たりばったりなので、この先どう進めようか実は困ってます(笑)
まじでどうする気だ、自分ww
そうなんですよね。カイトさんが一番こういう役目を背負っちゃいそうな感じが私にあって。脳内キャラ会議でも彼が手を挙げてしまいましたね。
そっか?やっぱりカイトさんが行くのか?。と思いながら書きました。
なんというか、カイトにはいざというときは前に進む感じとか、決めた事はやり遂げる強さがあるような感じがあって。そういうのを書ければなぁ、って感じでした。
こんなところで格好つけるな、ってそんなカイトにメイコさんが怒り狂っていたりもしてたけど(笑)
次はどんな話になるやら今の時点では私自身も分かっていないのですがww
バッドエンドも射程に入れつつ、なんて(笑)
頑張りたいと思います!
それではお読みいただきありがとうございました?!
2012/02/23 20:19:12