時計の音が静かに響く中、机に突っ伏したまま隣のひおが転寝を始めてしまった。揺らして起こしてみたけど全然起きる気配が無い。聞いた話では幼馴染のお兄ちゃんが3年振りに帰って来て、昨日は嬉しくて殆ど眠れなかったんだとか。
「大丈夫?具合でも悪いの?」
ひおが起きないので心配したのか、斜め前に座っていた人が心配そうにこちらにやって来た。リボンがいっぱいの桜色のジャケット、何だかお花がそのまま人になったらこんな感じかも?
「平気ですよ、ひお…えーと、緋織は寝不足なだけなんですよ。困った子ですよね?」
「緋織ちゃんって言うの?変わった名前なのね。」
「何か漢字の名前って和風!って気がしますよね?私の名前なんか平仮名で『しふぉん』なんですよ?」
「素敵じゃない、美味しそうで。ピッタリだと思うわ。」
砂糖菓子みたいな笑顔で誉められて何だか私が照れてしまった。珍しい名前って言われた事はあるけどそんな風に言って貰えて素直に嬉しくなった。そう言えばこの人、この部屋に居るって事は同じテストの参加者って事だよね?
「あのっ…!さ、参加者なんでしゅか?!」
緊張してつい声が上ずってしまった…自分の耳に届いた言葉で恥ずかしくて居た堪れない。赤ちゃん言葉になっちゃったよぉ~!走って逃げたい15歳、しふぉんは今日も元気です…。
「瀬乃原彩矢と申します。宜しく、しふぉんちゃん。」
私は真っ赤になって俯いてしまった。もう色々と顔から湯気が上がりそう。彩矢さんかぁ…良いなぁ、落ち着いてて大人~って感じがする。
「しーふぉんちゃん!」
「あ!鶴村先輩!」
知っている先輩の顔を見て少しだけホッとする。一応名簿に目は通したけど、性格までは載ってないし、先生とか以外は知らない人ばっかりだったもんなぁ…。憂鬱な溜息を吐く私を余所に鶴村先輩は彩矢さんともすぐに仲良くなっていた。と言うより、彩矢さんが鶴村先輩のペースに巻き込まれてるっぽいかも。ひおと言い先輩と言い、誰とでもすぐ話せるのは正直羨ましい。知らない人だとどうしても上手く言葉が出て来ない。男の人なんて尚更だった。こんなんで大丈夫かな?私…。二度目の溜息を吐いた時だった。
「…緋織、寝てるのか?風邪引くぞ?」
後ろから伸びた手がひおの肩を揺らした。何の気無しに振り返った私は、意外過ぎる光景に思わず椅子から転げ落ちそうになっていた。声に顔を向けた2人もそれは同じだったみたいで3人がガタッと椅子を鳴らしていた。ひおを起こそうとした人は私達が一斉に飛び退いたので何やらやり場の無い手を彷徨わせた後、再びひおを起こそうとその肩に落ち着いた。
「あ、あーゆーすぴーくじゃぱにーず?!」
「心配しなくてもれっきとした日本人だから…。」
「お、おーらい…じゃなかった、理解しました!」
ごめんなさい、そんな背が高くてそんな金髪ロングじゃ私も外国人かと思ってました。
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もっと見る何だか色々あった旅行が終わってやっと学校に居る気分だった。考える事が多過ぎて逆にあまり考えたくない、正直そんな感じだった。気晴らしに戦利品である写真を眺めていると、目隠しと同時に明るい声が聞こえた。
「にゃっふぉーい、睦希にゃん。」
「んー密佳、お早う。」
振り返るとクラスメイトであり同じ美術部の密...いちごいちえとひめしあい-79.バット持って歩こう-
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電話から30分程経って、私の部屋は実にわいわいと賑やかになっていた。
「緋織ちゃんの家って豪邸ね~良いなぁ。」
「うっうっうっ…ごめんなさ~い。」
「鶴村さん、もう泣かないで。」
どうやら睦希先輩は軽くパニクッて参加者の女の子全員に電話やメールを送ってしまったらしい。自分の携帯に自分でメール送ってる...いちごいちえとひめしあい-27.修羅場を期待した-
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ちくちくと刺さる視線を避ける様に調理室の前を通り掛ると、チョコレートの甘い匂いが漂って来た。
「良い匂~い、ここだぁ!」
「密佳、犬じゃないんだから…あれ?しふぉんちゃん。」
「睦希先輩、味見に来たんですか?丁度もう直ぐ焼き上がりです。」
エプロンを着たしふぉんちゃんがパタパタと片付けをしていた。テ...いちごいちえとひめしあい-85.悪夢へと-
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少し眠ってしまったらしく、軽く頬を叩かれて目が覚めた。ゆっくり目を開けると旋堂さんの姿があった。金色の髪に一瞬緋織かと思った訳だが。
「酒抜けたか?」
「多分…すいません。」
辺りを見回すと解散したのか人影は無く、旋堂さん以外は片付けをしている雉鳴弭だけが動いていた。起き上がった俺に気付くとトコトコ...いちごいちえとひめしあい-73.残念な美人-
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鷹臣さんを呼んだ時間が近くなり私は来客用の駐車場で待っていた。背中にはカメラを構えた密佳が張り付いている。
「ねーねー、睦希にゃん、その『旋堂さん』って、どんな人?可愛い系?カッコイイ系?ラテン系?」
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「好奇...いちごいちえとひめしあい-84.古本屋の常連客-
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彩花と一緒に自販機でジュースを買っていると、何やらキャンキャンと甲高い声が聞こえた。見ると鶴村先輩が友達に纏わり付かれている。溜息を吐きながらこっちを見た先輩と目が合うと、何故か先輩は私にバットを手渡した。
「何でしょうか?このバット。」
「これで天城会長殴って来てくれない?」
「解りました。」
「...いちごいちえとひめしあい-80.蚊帳の外-
安酉鵺
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脱兎だう
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毎回読ませていただいてます。密かに←
まさか彩矢がこういう登場をするとは予想外でした(笑)
そしてしふぉんちゃん可愛いですー。
物語の作り上手くていつも続きを楽しみにしてます!
頑張ってくださいね~!応援してます!
2011/08/31 11:37:38