わたしは。
なにも、しらない。
絡めた指の、ほどき方
男の、節ばった大きな手のひらが、頬を包んできた。
まるで壊れ物にでもするみたいな、そんな動き。
「……メイコ」
僅か十数センチの距離で、名を呼ばれる。
大層低く、どこか呻るような響きが、胸の奥をざわつかせた。
「…何よ」
強がって、そ知らぬフリ。
頬を包む手のひらのぎこちなさも。
彼の肩に触れた手の湿りも。
見詰めてくる彼と、どうしても視線を合わせられない、その状況も。
「……どうすれば、いい?」
淡く、明るい紫の目が、視界の隅で伏せられる。
そういえばこの人睫毛まで紫なんだ…とか。
変な方に思考を飛ばしていた所為か。
互いの距離を縮められたことに、気付かなかった。
「っ…んん?!!」
何かに触れたのは、唇。
柔らかく、温かい――。
「ちょ、ちょっと…がく――」
慌てて突っぱねた右手の、その手首を緩く掴まれる。
外そうと思えば難なく外せる程度の、そんな拘束。
それなのに、どうして。
「この先、どうすればいい?」
『5月5日はMEIKOの日なのよ』
先刻、自慢げに語った自分の声が頭を過ぎる。
『5月5日?…ああ、May 5だからMEIKOの日』
直ぐに由来を悟って納得してくれる彼に、少し嬉しくなったのだ。
『そ。ある意味もう一つの誕生日って感じかしら?』
『……なら、プレゼントを贈らないといけないか?』
『あら、今くれるの?』
『……それを今聞いて、プレゼントを持っているわけが無かろう』
律儀な彼。
ちょっとだけ苦い顔をして、そっぽを向いた。
『判ってるわよ』
対して自分は。
そんな彼を揶揄ってやれと、ほくそえんだのだ。
『じゃあ、恋人ごっこ』
『は…?』
『恋の唄を唄うときのためにも、そういう経験はあっていいと思わない?』
『……ごっこが経験になるのか?』
『やらないよりはいいんじゃないの?』
どこか乗り気でない彼の困った顔が見たかっただけなのに。
気付いたら、ある意味形勢逆転。
「――――どうして、欲しい?」
「っ…!」
こめかみに、先程の感触が触れる。
ちゅ、と軽く音がして、顔が熱くなった。
「しっ…しらない…!」
じたばたと藻掻いて、逃げようとした。
否、そういうフリをした。
すっぽりと身体を囲う、長い腕。
狭い、甘い、空間。
「知らない?」
全部見透かしたみたいに、彼は笑った。
でも、余裕綽々な態度の影に、どこか不安な顔がのぞく。
「――…あ…」
どくん、と一つ、鼓動が鳴る。
『知らない』んじゃない。
『知らないフリ』をしていただけ。
「がく…ぽ…」
名を呼んだ声が、自分のものじゃないみたいに情けなく震えていた。
耳を押し当てたその胸から、少し早い――鼓動。
「――…アンタの…好きにしていいわよ」
背中に腕を回して、ぎゅ、と抱きつく。嫌ね、胸が邪魔だわ。
「がくぽの、好きにして欲しい」
頭上で、息を飲む音。
そして、長いため息。
「……メイコ」
「……何よ」
その態度にむっとして顔を上げれば、先程とは種類の違う――どこか獰猛な、顔。
「そういうことは、そう簡単に言うもんじゃない」
「か、簡単になんか言ってないわよ!バカ!」
負けず嫌いが災いして、言い返したのが間違いだったのか。
再び長いため息を吐かれ、一言。
「覚悟は、おありか?」
「っ…!」
どういう”覚悟”かなんて、聞き返さなくても判る。
熱い顔が、更に熱を増して、息も苦しくなる。
「…ぁ…ぁる…わよ!」
ここで退いては女が廃る!(?)と首に手を回して、自分からキスを仕掛けた。
驚いたがくぽは、けれどまた笑ったようだった。
「…貴女には、敵わない」
そっと床へ横たえられ、指と指を絡めた。
「敵わなくて結構」
こちらも笑って、どちらからともなく、またキスをした。
絡めた指は、互いの温みを分け合うように、一層強く繋がれた。
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