* 幼き日々
ガキの頃の話だ。何歳だったかな。オレもリンもまだ小さい頃のことだった。
オレたちはある廃墟で遊んでいた。
随分前にうち捨てられた、金持ちのお屋敷だ。
リンが見つけて、オレたちの遊び場となった。秘密基地のような感覚だった。
元はその庭に植えられていただろうモッコウバラが、野生化し、あたり一面に群生していた。視界を埋め尽くす黄色の花々は見事な光景で、ガキなりに感動したモンだった。
ガキのころからオレたちはずっとふたりだった。
何をするにも、ふたり。
食事を摂るときも、眠るときも、勉強するときもふたりいっしょ。
そっくりの容姿を利用して、いたずらもした。ホントに見た目がそっくりで、リンとオレ、おんなじ服着てしゃべらなければ、母さんだって見分けがつかなかったんだ。
そんなオレたちは、当然のように遊ぶときもいっしょ。その日も廃墟にふたりきりだった。
それが不幸の発端だった。
ガッッッッッッシャアァァァァァンンンンンンン・・・・・・
突然の地響きに続いてものすごい音がした。
続いて巻き起こる尋常でない量の土煙。
まるで世界の全てが頽れたような錯覚。壊れた世界にひとり取り残されたような不安にオレは泣きそうになった。
その日も、オレたちは例の廃墟で遊んでいた。たぶんかくれんぼか何かしていたんだろう。廃墟の一部が崩落したとき、オレはリンといっしょではなかった。
いつもいっしょだったオレたち。しかしそのときリンは側にいない。
その事実にオレは心底不安になった。
いいや、パニックに陥っていたといってもいい。
まだ崩落は起こるかもしれない・・・・・・それ以前に土煙すら収まっていない状況で、オレはあわててリンを探してさまよい始めた。
「リンッ!リーン・・・・・・」
ズビッ
泣きそうになった、じゃないな。リンの名を呼びながら崩れる廃墟の中に踏み入ろうとしていたガキのオレは完全に泣いていた。
「おねえちゃん!リンおねえちゃんっ!」
随分昔に使うのをやめた、そんな呼称さえ口からとび出すころには、完全に泣いていて。涙でろくにあたりが見えないわ、自分の嗚咽でリンの名すら呼べないわで。我ながらみっともない。それでもリンを呼びながらさまよい歩いた。ひとりじゃ不安だった。
そんな状態だったから。気付くのが遅れてしまった。迫り来る、崩落の第2派に。
ドォォォォォォンンンンンン・・・・・・
遠くで音がした。次いで地鳴り。地鳴りは止むどころかだんだん大きくなって、
目の前にした光景がウソのようにたわみ、歪んで。
「っ!あ、」
死ぬ、そう思った。その瞬間。
「レンッ!」
探し求めていた声。全身をたたく衝撃、続いて崩落。土煙、土煙。
気付けばオレは廃屋の外にいた。
全身をしたたかに打ったらしい。オレは痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
土煙は収まっていた。吹っ飛ばされたとき頭も打っていたのだろう、少しの間意識がなかったんだと思う。
しかしそんなことは、そのときのオレにとって瑣末な問題だった。意識を取り戻したオレの目の前には、見覚えのある大きなリボンが・・・・・・!
「リンッ!」
安堵すら感じつつ近寄るオレ。しかしすぐに砂塵の如く消え去る。
「っ・・・・・・!」
リンの状態にオレは息を呑んだ。
リンは瓦礫に足をかまれていた。あとから解ったのだが、こちらはたいした怪我ではなかった。しかし、瓦礫をどかさない限りリンを動かせない、厄介な状況だった。
全身には擦り傷。先の崩落にも巻き込まれていたのだろう。全身いたるところに傷がある。
一番ひどかったのは眼だ。鋭利にな刃物にも似たガラス片が、リンの左目に・・・・・・。瞳は完全につぶれ、見たこともない量の血が溢れ出てきていた。
青ざめて動かないリンを確認し、オレは心臓が握りつぶされたような錯覚に陥る。
「リン、リンッ!」
オレは泣きながら姉の名を呼んだ。
呼び声に応えるように、不意に無事なほうの瞳が開いた。
オレそっくりの青空色の瞳。
そこには不安も焦りもなかった。
表情にも苦痛の色はない。オレを確認すると、安堵するように微笑んだ。
「レン、怪我、してない?」
第一声にオレは固まる。
怪我してないかって、そりゃこっちのセリフで。
大丈夫なのかとか、どこにいたんだとか。いろいろなことがグチャグチャになって、結局何も言えなくて。リンの笑顔にホッとして、涙が溢れて。
しかたないから、リンの問いに答えるようにひとつうなずくと、
「よかったぁ」
とリンは笑ったんだ。
あのとき、リンが突き飛ばしてくれた。おかげでオレは無傷。リンの左目は、結局治らないまま。今もリンは眼帯をしている。
それでもリンは喜んでくれた。オレが無事でよかったって。
そうやって、いつだってリンはオレを守ってくれた。
いつだってリンは元気の塊だった。
いつだってリンは、オレの太陽だったんだ。
だから、
「ウソだよ、リンが死ぬなんて。」
リンの瞳みたいな空に囁く、涙に濡れた俺の言葉。誰の耳に届くことなく頬を撫でる風の中に消えていった。
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