俺のマスターは、百の笑顔を持つ人だ。
 穏やかに微笑んで、悪戯めいて瞳を煌めかせて、堪えきれないように吹き出して、楽しそうに声を上げて、染み入るように柔らかく、
 疲れた時にはへにゃりと、悩んでいる時は少し情けないような顔で、悲しい時には眉を下げ、それでも口の端を少し上げて、
 ――いつでも、マスターは笑ってくれる。

「ただいまぁ、カイト……あー疲れた」
「お帰りなさい、マスター。何かあったんですか?」
「んー、館内で迷子さんが出てねぇ。迷子っていうか、探検ごっこの挙句お気に召したらしいせっまいところで寝ちゃってて、見付からなくて親御さんプチパニックだよ」
「それでマスターも捜索に?」
「館員総出だよー。もう大捜索」
「うわ……お疲れ様でした、マスター」
「ふふ。ありがと、カイト」

「――カイト? 何かじーっと見られてる気がするんだけど……どうかした?」
「え? あ、ごめんなさい。マスター、お疲れなのに笑っててくれて、ぐったりした顔とかしないなぁって思って、つい」
「うん? そっか、私笑ってた? あんまり意識してなかったなぁ」
「ヒトって疲れてるともっとこう、暗い顔になったりとか苛々したりとかするものかと思ってました」
「そうだねぇ……そういう時もあったかも」
「マスターも?」
「多分ね」
「でも、じゃあどうして」
「……ふふ。だって、今はねぇ。疲れてぐったりして、でも帰ったらカイトが待っててくれるんだもの。『お帰りなさい』って、『お疲れ様』って言ってくれて、美味しいご飯も作っててくれて、話も聞いてくれて甘えさせてくれて」
「そんなの……」
「偉大だよー。カイトが待っててくれるから、疲れも凝り固まってトゲトゲチクチクしないで、柔らかく解けるの。カイトが居てくれるから頑張れるし、頑張った分の疲れも吹き飛んじゃうの」

 蕩けるように、マスターが笑ってくれる。その微笑みに、愛しげな視線に、包まれて満たされて。
 ――あぁ。こういう事、なのかな。マスターが居てくれて、笑ってくれて、それだけで俺は幸せで、幸せな気分以外、マスターをたまらなく大好きな気持ち以外、皆溶け消えてしまって。マスターの言ってくれるのも、こういう事なのかな。そう、なんだったら。

「マスター。ありがとうございます。……だいすきです」

 マスターの笑顔はいつでもあたたかくて、俺を幸せにしてくれて。俺の存在でその笑顔を支えていられると、そう言ってもらえるのなら、俺は精一杯此処に居よう。
 マスターのように、笑って。幸せですって、言葉でも言葉以外でも、俺の全部で貴女に伝えられるように。

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  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

『smile』【カイマスSS】

書いてるうちに予定と違う方向に話が流れたのですが、これはこれで。
っていうか割といつもの事だよ、私。

前回のSSもですが、思いつくままに書いてるので我に返って恥ずかしくなったら、そっと消すかもしれませんw

閲覧数:202

投稿日:2011/03/17 23:48:06

文字数:1,094文字

カテゴリ:小説

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