-第三十三章-
しばらくいくと、ひときわ大きな美しく豪華に縁取りされた扉の前に行きついた。
何度か深呼吸をし、扉をぐっと開いた。扉の向こうにいたのは、顔のよく似た金髪の少女と少年の二人だけ、他に人間らしき影は見えない。――猫はいたが。
中にいた二人は驚いたようにリンとレンを見、それから少女のほうがこちらを睨むように見た。
「――だれ?」
「名前は自分から名乗るもの。」
「…ネル。こっちは弟のネロ」
『――ネル、です。私の友人。帝国王の姉です。…と、いっても、前帝王は若くしてなくなっていますから、現在の帝王様は随分と幼いのですが…』
『それで、その人をどうして欲しいって?助けるって言ったって、つかまってるわけじゃないんでしょ?』
『まあ、そうですけど…。彼女、一人で溜め込むタイプだから、帝国の問題も、彼女が抱え込んじゃうんです。だから、少しでも話をしたくて…。私が話をしたがっていると伝えてくださるだけでいいんです!』
『それくらい、自分で言えばいいのに』
『部外者は城内に入れてもらえないのです。ですから、お願いします!!』
『――いいですよ。そこまで大変なことじゃないし』
『ありがとうございます!!!!』
「――あっ、思い出した。あの人がいってた子だよ」
パンと手をたたき、リンが笑顔でレンに言った。
「そうだよね。それより、あの人、そのネルの弟は帝王だとか言ってなかった?」
全てを見透かすような目で、レンは姉弟(きょうだい)をみた。冷酷な目。
それを感じ取ったのか、ネルは弟の前に出てキッとレンのほうをにらみつけてまるで唸る獣のように、低い声を出した。
「あんたたち、何者っ!?兵士たちを呼ぶぞ!」
「…君が、この国の帝王様?」
そう、相手の警戒を解くように優しい口調で話しかけてみると、ネルの後ろにいたネロがこちらに興味を示した。
「俺は、レンというんだ。こっちは連れのリン。…ええと、この国の最高責任者…だよね」
「…うん、そうだよ。だから何?税金は下げられないよ」
「そうじゃないんだ。君、昔話の守護者の話しは知っている?宝石を集めると、願いがかなうって奴。帝国の人たちが守護者を探しているって聞いたんだけど、君がさせているの?」
「そうだよ。僕の力を使えば、誰だって言うこと聞くんだ」
「…何を願うつもりなのかな?」
「うーんとねぇ…どうしようかな。…あ、世界征服!面白そうでしょ!!」
無邪気な笑顔でネロはいった。まるで新しいおもちゃを見つけたように、夕飯に好きなおかずが出たとか、お菓子を買ってもらったとか、そんな程度のことにしかおもっていないのかもしれない。
しかし、それが、レンの逆鱗に触れたようだった。
「…ふざけんなよ」
「え?」
すたすたとネロのほうに近づいていき、レンはネロを見下すように睨み付けると、もう一度大きな声で言い放った。
「ふざけんなっつってんだよ!!」
あまりの急変振りに、ネロやネルだけでなく、リンも驚いてしまった。
「な、なんだよ、いきなり…っ!」
「いいか、よく聞け。俺がその守護者だ。お前ら帝国の奴らは、いつもそうやって自分勝手!」
そういって、ネロに手を伸ばすレンをとめたのは、リンだった。
あらかた片付いた。
心配なのはレン達だが、この場を離れても大丈夫そうになってきたところで、ルカは式神でそのあたりを一掃し、城内へと駆け込んでいった。レッドカーペットを茶色のロングブーツで踏みつけながら、目的の大広間まで走る。向こう側に、メイトが走ってくるのが見える。別の方向の通路から、ミクが走ってきた。
三人は合流し、大きな扉を開いた。
その瞬間、廊下と部屋の中に、乾いた音が響いた。
「パァン!!」
銃声とは違う。何かと何かがぶつかったような音だ。
音の正体は、リンがネロの頬をビンタした音だった。隣りでは驚いているネルと、リンにふりほどかれてしりもちをついたまま呆然としているレンが敵なのか味方なのかすらよくわからず、顔を見合わせていた。
しかし、一番驚いているのはネロだった。ビンタされた頬を指でさわり、リンを見上げている。
やっと我に返り、ネロが叫ぶ。
「ぶ、無礼者っ!兵士をよべッ!コイツを、牢に放り込んじゃえ!!」
「…っ」
すぐに待っていましたというように出てきた兵士たちに、リンは対応しきれずに行き詰るような声を出した。しかし、恐怖からか目を瞑ってしまう。
しかし、自分に何もないことに不信感を抱き、リンがそっと目を開くと、そこにはレンがたっていて兵士たちを睨みつけていた。
「…何しようとしてんの?」
そう言って、襲いかかろうとする兵士を全て腕一本で押さえつけている。
「何しようとしてんのかって、聞いてンだよ!!てめぇ、何様つもりだ、あぁ?」
口調だけかと思えば、兵士を睨みつける目も、いつもの落ち着いた青の瞳ではなく、龍の目のように鋭く、獲物を狩る獣のような怪しい光をもった目であった。
その目の威圧感に、兵士たちが一気に怖気づく。
「お前ら、命が惜しいなら、ここから消えろ。十秒後に視界に入ったやつはぶっ潰す!」
そんな理不尽な条件を出すと、兵士たちはやられるのがいやなものだから、すぐに部屋を出て行ってしまった。武器を落としていくものもいる。にやり、とレンが笑う。
ぞっとするような感覚を覚え、ネロは息を呑んだ。
「…ね、そんなわけで、俺たち、帝国の兵士たちが邪魔で仕方ないんだよね。だからさ、やめさせてくれない?君なら、できるよね」
攻めの体勢から、優しそうな口調に戻して、ネロの目線に自分の目線を合わせて微笑みながら言う。しかし、それでも恐怖はそう簡単にぬぐいきれないもので、ネロは小刻みに震えていたが、レンが手を出さないことを確認すると、コクコクとうなづいた。
「…うん、えらい。さすが、帝王様。賢いね。それじゃあ、一週間後まで猶予をあげる。それまでに兵士たちに、守護者を攻撃することをやめさせるように。それができなかったら、今度こそ…わかるね?」
また、コクコクとうなずく。
それを確認巣ると、リンの手をとって扉近くで呆然としている三人のもとへと近づき、
「帰ろう」
とだけ言った。
部屋を出て中から見えないような位置に来ると、ぐったりとして壁に寄りかかった。
そんなレンを、リンが支えるように横に回りこむと、肩を貸そうとする、そうして、レンがリンの肩に腕をかけ、リンのほうを見ようとしたときだった――。
「リン、あぶな――」
部屋を出たすぐのところで、兵士が落としていった拳銃を握り、銃口をリンの背中に向けているネルがいた。そして、そのまま躊躇いなく引き金を引いた――
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ご意見・ご感想
リオン
ご意見・ご感想
こんばんは。
…リンのは、本当は「第六感」だったんですけど、第六感があるなら、いままでももっと役に立ってたかなぁとおもいまして(汗)
コメント、何日かなくても、ちょっと心配になるくらいで…っ!!
ネルは空気読める子だと思います。
レ「さ、サイテ――!!!!」
次回も頑張りますんで!
ネ「旅人じゃないし。」
玉砕されましたが…。大丈夫ですよ、どうにかなります。
たくさんありすぎて、思い出せないくらいですが、三つもあれば十分でしょう。
レ「庇って悪い?」
メ「俺は飛び込まなきゃいけない空気?」
ル「馬鹿兄弟はほうっておいて、皆、中華料理でも食べにいきません?」
ミ「ぅわ~い、やったぁ!」
グ「兵士はあれだね、仕事が見つからなかった末の苦渋の決断の、その最悪パターンだよね」
神「言ってはならん。ほら、あちらで兵士共が泣いているではないか」
…兵士さんも大変なんですよ。きっと。
「さぁさぁッ」の後に「♪」をつけているところがなんともまた楽しそうで何よりですが(笑)
それでは~。
2009/10/27 20:53:33