「氷山中佐!」
叫びながら司令官室の重々しい扉を開くと、机の上で書き物をしていた彼の顔が一瞬で迷惑そうに歪んだ。
銀縁眼鏡の奥の冷たい眼差しが俺を一瞥して、しぃ、と人差し指を口に当てる。動作としては紳士的だが、言葉以上に雄弁に気持ちを語っているその顔には「黙れ」と書いてある。
ーーでも、そんなこと知ったこっちゃない。
何故なら、先程彼が下した指令は、到底俺にとって従うことが出来ないようなものなのだから。
「どういうことですか!」
ばん、と机に手を叩きつける。
あからさまに鬱陶しそうなため息をついて、氷山中佐は息巻く俺をじろりと見上げた。
「なんですか、カイト君」
「納得できません!納得がいくよう説明してください!」
「…一体何の話です?」
「氷の大将」という異名を持つ彼の絶対零度の視線は、敵だけでなく味方も凍らせると評判だ。一部のマニアの間では一日一回これに睨まれないと気が済まないという猛者もいるらしいが、出来ることなら俺は御免蒙りたいと思っている。
が、今は別だ。睨まれたって殴られたって、俺は彼に文句をつけてやらなくちゃならない。
「どうしてメイコさんを迎えに行くのが俺じゃなくて神威なんですか!」
「ああ、それですか」
得心がいったという調子で彼は呟き、くいと眼鏡を持ち上げる。
「その方が都合がいいからですよ」
「都合って…だって、今日のことは俺が前々から志願し…っ」
「1、君はあの界隈で面が割れすぎている」
広げた左手、その親指が一本折られた。氷山中佐が人を論破する時のクセのようなものだ。そしてこれをやられて俺が彼に勝てたことはまだ一度としてない。
「2、馬の扱いは神威君の方が長けている」
続いて人差し指。
今回の件は現職の大臣による謀反だ。事態を重く見た軍上層部により、彼女の火急の報告が待ち望まれている。駿馬である漆黒の手綱を任されているのは神威で、これも反論できない。
「3、同様の理由で要人警護の場数は神威君より君の方が踏んでいる」
中指。
代わりに俺に当てられた仕事は地方遊説へ赴く要人警護。
比較的表向きなこの仕事は暗殺家業を生業にする神威にはできない。これも同様。言葉は出ないが不満な気持ちばかりが胃の辺りに溜まっていく。
「そして4」
薬指を折って、最後。無表情に彼が俺を見つめる。
告げられた言葉は。
「単なる嫌がらせです」
「やっぱりじゃねーか!」
「君、誰に向かって口を聞いてるんですか」
間髪入れずに机の上に置いた手を万年筆で叩かれた。
仕事第一、女子と上司以外、つまり自分より階級が下の野郎にはとことん容赦のない人だ。地味な痛みに喘いだ隙に、彼は再び書類に目を落とした。
【カイメイ】千本桜・夜明けの晩に
だから…原型どこいったんだって…
千本桜の続編、千本桜・籠の中の鳥はの同時系列のお話です。
石を投げないでいたいいたい
!ご注意!
・カイト視点でめーちゃん不在
・氷山中佐(28)は腹黒冷酷フェミニスト。特務機関の司令官。叩き上げです。
・ミク(16)はカイメイと同じ孤児院出身。二人の推薦で今年から特務機関に招集されました。
・レン君(14)は父親が軍の元帥。エリートです。現在は軍学校に通いながら花形の陸軍で勉強中。生き別れの双子の姉がいますがレン君はそれを知りません。
・いろはさん(?)は兵站機関の長。軍の財務を一手に担っております。どけちです。名前の出てないキャラもどこかしらにきっと所属。
・軍とか過去とか超妄想
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本当に危険なので、今すぐ「戻る」ボタンで脱出して下さい!
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ご意見・ご感想
ねこかん
ご意見・ご感想
相克っぽいアイスマウンテンvsアイスプリンスといい、
嫉妬深いルカさんといい、ユキちゃんとメイコさんの美しすぎる姉妹愛といい
なんだかもう色々とたまりません。ものすごく滾りました。ありがとうございます!
できれば早く再開させてあげてください…カイトさん、メイコ不足でそのうち血吐きそうですw
2011/12/23 00:25:15
キョン子
>Nekokan様
滾って頂けたなら至極光栄でございます…!!
もう千本桜の原型ないのでとてもなんていうか申し訳ないというか…あたたかいお言葉を頂けて嬉しいです!
アイスマウンテン中佐はもう趣味全開のキャラクターなので非常に書いていて楽しかったですw
続編というか、他のキャラクターも設定が一応ありますので、いずれ書いてしまうかも…
また読んで下さると幸いです、メッセージありがとうございました!!
2011/12/29 13:54:16