3月12日、午前5時。MARTと敵対する組織が、ある緊急会議を開こうとしていた。クイーンニードル、そんな名前がつけられた、全体が鋭く尖った大型ヘリコプターが、アンドロイド平和統括理事会の屋上に着陸した。ヘリポートには、数十人余りの親衛隊員が中心を開けて一列並んでおり、ただならぬ雰囲気が立ち込めていた。その理由は、今日の来客にあるようだ。
「あれが噂のクイーンニードルか…さすがは司令官専用機、想像とは違う物だったな」
「ええ、あれが本当にただの多目的攻撃ヘリとは思えませんね…」
「まったくだな。私も今までに、あんな代物は一度も見たことがない。あれが複数の束にでもなれば、我々のヘリ部隊は簡単にやられてしまうだろうに」
「我々の理事会にも、あのような兵器は無いんでしょうか?」
「さあ、どうだろうか…トリプルエーの方々なら、あのような特注兵器でも持っているかもしれないが、私たちのようなただの隊員が知っていても、どうしようもない話だからな。とにかく圧巻だよ」
「本当に驚くばかりですね…ところで今回これだけの人員を配置した理由は、来客があの噂のハニークイーンだからで…」
「は~い、そこのお2人さん立ち話はダメだよ~☆ 今日は、あのリリィちゃんをお招きしているんだから、気を引き締めてビシッとしなくちゃならないのは、分かってるよね?」
「し…失礼しました、議長!」
「分かればよろしい☆」
「全員静まれ!これより、AMP第1大隊長のリリィ様をお迎えする。決して失礼や不案内のないように!」
「はっ!」
精鋭隊員の掛け声で、場は完全に静まり返る。聞こえるのは、ただヘリコプターのプロペラ音だけ。そしてヘリコプターの中から、アンドロイド特別行政区の軍警察、AMPの大隊長・リリィが現れる。
「総員、敬礼!!」
リリィは一礼した後、側近と共にテイの方へ歩み寄る。この2人が出会う光景は、実にしばらくぶりとなる。テイは笑顔で彼女を迎え入れた。
「はろう~☆ リリィちゃん、久しぶりだね!」
「本当ね、テイ。相変わらず豪華なお出迎えだけど、何も私相手でこんなにしなくても…」
「リリィちゃんが来るのに、これぐらいはしないと! どう? この人数と警備は、正に女王様にふわさしいでしょ?」
「やめてよ、テイ」
「そうは言っても、みんなの間ではその名で通ってるんだから。あ、こんなところで立ち話もなんだし、会議室でゆっくりお話しよ? さあこっちに来て、少将殿♪」
「ええ」
リリィはテイの案内で、理事会のビルの中に通された。この統括理事会の敷地はとてつもなく広い。実にドーム球場の、何十個分に当たるだろうか。更に、アンドロイドの開発企業・イノセンスクリエーション社の本社も、この敷地内にある。そしてMARTが撲滅しようとしている汚職や違法行為も、すべてこの理事会によってもたらされるものであり、それが未だに匿われ続けている。一行は階段を降り、やがて広い廊下に出た。その先には、来客用の検問があった。検問官がリリィたちを止める。
「失礼します。これより先は従来の検閲検査を含め、来客の方の刃物や銃器などの危険物全てに現在状況が確認できるよう、ID登録していただくことが、ここで義務づけられています」
「徹底しているわね」
「はい。これも安全性と信頼性の確保のためであります。リリィ様は、以前にも経験なさっていると思われますが、このID登録はこの平和統括理事会内のみ有効となっており、お帰りになる前に解除させていただきます。登録は一時的なものなので、どうか御了解いただけるよう、お願い致します」
「ごめんね、ここからはみんなの持っている武器にID登録してもらわなくちゃならないの。会議が終わるまでの間だから、いいよね?」
「分かったわ」
「それでは、皆様の武器をお預かりします」
リリィは腰のホルスターからルガー銃を取り出した。彼女の愛用するこの旧ドイツ製の美しい金メッキの装飾と刻印が刻まれた高価な拳銃である。そんな大昔の代物が出てきたのに、検問官は少し驚いていた。検問を終え、いくつもの廊下を過ぎた。通り過ぎた相手は大半がアンドロイドだったが、みんな立ち止まって一礼して、部下らしき者は敬礼をした。
「テイ、まだ聞かされていないんだけど、今回の緊急会議の意図を教えてもらえないかしら?」
「あ、それなんだけどね、実は私にもよく知らされていないの。会議の内容を知っているのは、ルコと理事長ぐらいだから」
「そう…やっぱりそれだけの機密事項なのね」
「うん。だってAMPのリリィちゃんに、管轄外の場所で支援を依頼したぐらいだからね。こんなこと、本当なら滅多にないんだけど…ただでさえ、職務が大変なのにごめんね」
「気にしないで。私だって、こっちの管轄の事件の収束でトリプルエーに助けてもらったんだから」
「いやいや」
そうして歩きながら話している2人に、青ドレスの白髪少女が走ってやってきた。かなり慌ててきたようで、息もあがっている。テイはどうしてか、顔が少しひきつっている。
「テイさーん!テイさーん!」
「ん?」
「はぁ、はぁ…やっと見つけました…!」
彼女の名前は、夢見音アリス。健音テイの専属秘書である。主にトリプルエーの情報管理・作戦時のオペレーターを本職とする。白髪に青いドレス姿は、まるでファンタジーのお姫様を連想させる。そんな彼女だが、リリィの出迎えに遅刻してやってきてしまったのである。
「探しましたよ、テイさん…もう、私を置いてもう案内してるなんて!」
「アリス、まさかまたボカロ物語劇場の録画したビデオでも観てたの?」
「そうですよ、今回はオペラ座の怪人だったんですよ! …てか、なんで呼んで下さらなかったんですか!?」
「だってメンド臭いんだもん。ダメ秘書のアリスなんかをわざわざ呼びにいくのなんて☆」
「ダ…ダメ秘書ッ!?」
漫画なら頭の上に「ババーン!」とか「ガビーン!」とかの文字が出そうなぐらいの衝撃をアリスは受けた。自分の存在は、いったい何なんだろうという気持ちになった。
「テイさん、ひどいです…」
「テイ、もう少し柔らかい言葉でも良いんじゃない…?」
「あのねリリィちゃん、いきなりはっきり言っちゃうけど、あんな時間にルーズな秘書なんて、ホント必要ないの」
「なっ…」
「ここは平和統括理事会。その中にある部隊のサポートのメインパーソンが、あんなんじゃダメだよ。リリィちゃんも、アリスのようなオッチョコチョイの補助が傍にいたらどう? 嫌でしょ?」
「それは…」
「そうでしょ? そりゃそうだよね。だってこんな命もかける時もある職務で、もし間違った情報や指示でも出されてしまったら、たまったものじゃないよ」
「……」
「でもね、アリスは可愛いし性格も大好きだよ。あの子の趣味も分かる。まだ見習いも同然だから失敗も仕方ないけど、アリスには私たちトリプルエーの信頼できる、いいサポーターになって欲しいのよ」
「テイ…」
「アリス、早く来て! 会議を始めるよ!」
「は…はぁ~い…」
その時のテイの顔と言葉からは、普段のおっとりマイペースの感じは消えていた。一瞬見えた彼女の真剣な眼に、リリィはテイの本心を垣間見た。
「リリィ隊長、ようこそいらっしゃいました。会議の準備は完了しております。どうぞ中へ」
「ありがとう。そういえば、ルコやリツ、サユとも久しぶりになるわね」
「トリプルエーのみんなは相変わらずだよ。さあ入って」
(…テトやルナは、もういないのよね)
リリィは会議室に通された。しばらくぶりに見る、大きな円卓の机。床に刻まれた、トリプルエーの紋章。そしてリリィの座る席には、ハチミツウォーターが添えられていた。まずは揺歌サユが出迎え、その奥では欲音ルコと波音リツが待っていた。みな、堂々とした出で立ちでいた。
「リリィ様、お久しぶりです」
「サユ、元気そうね。また料理のレシピは増えた?」
「皆さんが色々注文するから、自然に増えてしまって。またリリィ様にも、ごちそうしますね」
「嬉しいわ、ありがとう」
「いらっしゃい、ハニークイーン。よく来てくれたな」
「もう、みんなクイーンって…恥ずかしいわ」
「おはよう、リリィ」
「おはようリツ。いつになっても、クールな雰囲気は変わらないわね」
彼女らは久しぶりに再会したリリィに、各々の言葉をかける。和やかな雰囲気でいて、しかし何か張り詰めた雰囲気が、どこかにあった。
「リリィ様、こちらの席にどうぞ」
「ありがとうアリス。今日の会議進行はよろしく」
「は、はいっ!」
「あぁ、それにしてもこんな朝早くから会議なんて…眠たいなぁ…」
「それは全員同じなんだ、我慢しろ。議事を進めて採決を決める議長が、会議で機能しなくてどうする?」
「でも、それだけ大事な内容だってコトだよね? リリィちゃんの助けがいるほどの」
「ご名答。それをこれから話すから、静かにしていてくれ」
「ふわ~い…椅子に座ると、一気に力がなくなるものだよね…ねむぅ…」
これから会議が始まるというのに、テイは会議室に入ってからというものの、まるで役目を果たし終えたかのような顔になっていた。彼女はそのまま、完全に寝る体勢に移行していった。
「さて、まずは今回の会議の出席に快く承諾してくれたリリィに感謝する」
「いえ、私の力が理事会の役に立てるなら本望だわ」
「ありがとう。ではこれより会議の内容を説明する。まずはだが…」
するとルコは、なぜか押し黙ってしまった。誰かがどうしたのかと問いかけようとした時、やっとその重い口を開いた。
「ついに姿をはっきりと表した。例の重要監視対象者が。もしかすると、ここ数日中に行動を起こすかもしれない」
「まさか、その相手って…」
「ふぅ…zzz……」
「そのまさかね、恐らくみんなの思っている通りなら…」
「それはもしかして¨白銀の神射手¨と呼ばれてる…」
みなそれぞれ、大方の予想はついていた。ルコは全員の思っている質問に答えようとする。そして重い面持ちで口を開いた。
「ああ、そうだ。あの弱音ハクだ」
(なるほど…それで私を呼んだのね)
ハニークイーンは悟った。私自身もよく知る、あの弱音ハクなのだと。かつてAMPの屈強な隊員を退けた、謎のスナイパー。
コメント3
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ご意見・ご感想
エヴァンデル
ご意見・ご感想
オセロットさん、おせばんは!
ピアプロの登録しました。
とうとう、こちらでもハクが出てきましたか。次回がすごく気になります。早く続きが読みたいです!(わがまま言ってすみません・・・)
次の数学のテスト、ぜひ頑張って良い点数をとってください。応援しています!
2011/07/13 21:03:55
オレアリア
エヴァンデルさんおせばんは!おお、まさかその挨拶を使って下さるなんて嬉しいです!
とても懐かしく感じました…
まずはようこそピアプロへ、歓迎しますよ!
自分はこちらをメインに活動しているのでまた良かったら見に来てやって下さい。
いやいや、そんなわがままだなんて滅法も無い!この嬉しいお言葉が次回への原動力にさせて頂いています!
数学も頑張らないといけないです…エヴァンデルさん、改めてありがとうございました!!
2011/07/14 23:22:02
日枝学
ご意見・ご感想
オセロットさん、おはようございます!
数学終了しましたかwwお疲れ様ですw
読ませていただきましたよー 緊迫感のある展開良いですね!
最後の終わり方も、次の展開を期待させて良いです! しっかりと読み手を引き付ける展開の仕方ですね。
続き、期待しています! 執筆ファイトです!
2011/07/12 06:32:30
オレアリア
日枝学さんおはようございま……じゃなくて今晩はになってしまいましたww
数学Bの内容の難しさが本当に異常です、本当にありがとうございました…(泣)
評価に感想と本当にありがとうございます!
次もより良い作品ができるよう努力の思いの一存です!
日枝学さんも模索ロボットシリーズのうp待ってますからね?!
2011/07/12 23:18:28
瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
テストお疲れ様!!
大丈夫数学なんぞできずとも文系は食っていける!でも理系(自分)は……←
リリィ隊長活躍させたくて仕方なくなっちゃったんですねわかります←お前は何を
ていうかこっちがあんまり積極的にコラボ出来てなくてすみません!!
避けられないも糞もここまでコラボさせられたらもうやるしかないじゃないですか!!お陰でもやついてた全体の流れのイメージが固まってきたよ!!←
夢見音アリスちゃんですか……流石に陰謀に出すのはちょっと難しいですかね……アリスちゃんに幸あれ!!
こっちにもUTAU三人衆が出揃ったりしてます!!今後色々そちらとのコラボをしていきたいです!!
2011/07/10 23:54:42
オレアリア
びんさん今晩は!メッセージありがとうございます!
そうですよね、数学なんて必要ないですもん!文系だもの(ry
びんさんver.リリィ隊長がカッコ良かったのでつい出しちゃいましたw
自分よっぽど活躍させたかったんですね、分かります(←その通り)
今や陰謀シリーズとこの物語を繋げていくのが、僕のやりがいの1つになっています。
何としてもこのコラボを良いものにしたいです!
夢見音アリスはまたイラスト化する…かも?
そちらのUTAU三人衆の展開に期待してますね!
2011/07/11 20:31:15