ああ、そこの貴方。
お訊きしたい事があるのです。
貴方には、好きな人はいますか?
お友達はいますか?
…そうですか。
では、あともう1つだけ…。
…毎日は楽しいですか?
[どうぞ、気を付けて。]
第一話
僕には、物心ついた頃から…いや、もしかするとそれより前から、その声がいつも聞こえていた。
幼い頃は、他の人も皆聞こえているのだと思い込んでいたし、そうでないと理解した時には、他人に言うべきではないと悟った。
ただ1人、母にだけは、どうしても隠し通す事ができずに話したが、彼女の他には誰も、この声の事は知らない。
僕から話を聞いた母も、少し笑って僕を抱き締めただけで、何も言わなかった。
その母も、普通ではないのかもしれない。
僕は、小さな村の、小さな薬屋に生まれた。
母が調合する薬は、とてもよく効くと評判だった。
彼女の技術を継ぐのが、僕の小さい頃からの夢。
優しいし、物知りだし、僕は母が大好きだった。
情けない事だが、僕は幼い頃は、すごく弱虫で、村の子供たちにからかわれては、泣いて家に逃げ込んだものだ。
そのたびに、母は色々なおまじないを教えてくれた。
泣き虫が治るおまじない。
怖い夢を見なくなるおまじない。
それに…。
『貴方が、もっともっと、強い子になりますように…』
『ううん、僕は強くなりたくはないよ。喧嘩すると、痛いもん』
『喧嘩に勝てる事だけが、強いって事じゃないのよ。いい?よくお聞きなさい。貴方は、誰かが苦しんでいたら、迷わず助けてあげられるような、そんな強い人になって』
『助ける…?』
『そう。母さんも、病気で苦しんでいる人を助けたくて薬のお勉強をしたの。貴方にもそうしてほしいってわけじゃないけど、でも人の苦しみを軽くしてあげられるって、素晴らしい事だと思うわ。だから…』
『うん、解った!約束する!だから母さんも、いっぱいいっぱい、人を助けてね』
思い返すと、思わず笑みが浮かぶ。
本当に、母を慕っていたのだと、再確認できて。
そのおまじないのおかげかは解らないが、それからすぐ、僕に友達ができた。
男の子が1人(読書が趣味なのに、木の棒でちゃんばらをするのが好きな変わった奴だった)と、女の子が2人(1人は男勝りでカッコいい。もう1人は大人しいけど、怒るとすごく怖かった)。
僕らはよく4人で遊ぶようになって、そのうち、僕は2人のうち片方の女の子に恋をした。
それから色々あって…という事も特に無く、その数ヶ月後に、付き合い始めた。
特に無かったなんて嘘だろうって?
強いて言えば、男の子の友達に同じ人を好きなんだって誤解されかけたくらいだ。
実際には別の人だったし、すぐに誤解が解けたから、僕は大した問題じゃないと思っている。
その後も、ただの友達4人組が、恋人2組の計4人になっただけで、僕らの関係はほとんど変わらなかった。
遊ぶ時はいつも4人一緒。
大人になってからも、4人で酒場に飲みに行ったりする。
彼らは僕にとって、最高の友達だった。
《毎日は楽しいですか?》
楽しいよ。
毎日代わり映えしないけど、それでも僕はこの生活が好き。
《好きな子はできましたか?》
毎回思うけど、どうしてそんな事を訊くんだろう。
…別にいいけど。
いるよ。できたのは随分前の話だけどね。
《お友達はできましたか?》
それはもっと昔の事だよ。
今だって、みんな僕の隣にいる。
《――そう、それは良かった》
僕も、良かったと言ってもらえて良かったよ。
…ところで、君は何者なの?
僕が問いかけても、声は何も答えてくれない。
だから僕はいつしか、この声の事なんか、気にしなくなってしまった。
「カイト、何考えてんの?」
「え?あぁ、ごめん、何でもない」
「ふーん…ま、いいけど」
笑ってやると、隣にいた彼女…メイコが頬杖をついて、溜め息を吐いた。
赤く塗られた指先が光を鈍く反射する。
「で?あんた、大丈夫なの?」
「何が?」
「薬屋。継ぐんでしょ?とてもあんたにできるとは思えないんだけど」
「カイトは昔から、どこか抜けていますものね」
メイコに賛同するように、ルカがうんうんと頷く。
撫子色の髪飾りが、それに合わせて揺れた。
「薬って、ちょっと間違えてもダメでしょ?カイトに任せるのは不安ね…」
「酷いな、もう…。確かに僕は、まだ勉強中だけど、もう母さんの手伝いくらいはできるよ」
「まぁカイト、安心しろ、私はお前なら継げると思っているぞ」
声のした方を見ると、カムイの紫の目とぶつかった。
「私の父が倒れた時に、助けてくれたのはお前ではないか。カイトならできる、きっと」
「ありがと、カムイ。やっぱり解ってくれるのはお前だけだよ~…っていうかその口調、本当に直さないの?」
「む、直す必要がどこにある?」
小さい頃から本を、特に古い本を読みまくっていたせいか、カムイの口調は少し変わっている。
正直に言って、かなり浮くんだが…まぁ、本人がいいなら、文句はない。
本なら僕も昔から好きだったし、男同士なのもあってか、カムイと僕はすごく気が合う。
今みたいに、女2人が僕をからかっても、味方についてくれる事が多い。
いや、いいね、友情って。
「ルカもメイコも、本当はカイトが家業を継げぬなどと、考えてはいないのだろう?」
「それはそうに決まっているでしょう?カイトが頑張っている事は、私たちだって解っていますもの。そうですよね、メイコ」
「わっ、私は、そんな事…!」
ルカに話を振られた途端、メイコは真っ赤になって、声をどもらせた。
それを見て、ルカはさらに意地悪な笑みを広げて、言葉を続ける。
「そういえば、やんちゃな弟妹が怪我ばかりするからとか言って、しょっちゅう傷薬を買いに行ってる人がいましたねぇ」
「ちょっと、ルカ…!」
「私、知ってるんですけど、本当はカイトさんの様子を見に行ってるらしいですよ~。…あの人、誰でしたっけ?」
「う…い、いい?!あ、あんたが心配で行ってるわけじゃないのよ!解ってるでしょうね?!」
「あら、私は一言も貴女の事だとは言っていませんが?」
「なっ…この…!」
赤かったメイコの顔が、耳まで真っ赤になって、とうとうぷいっとそっぽを向いてしまった。
困惑してルカの方を見ると、にこりと微笑まれた。
「…メイコ?」
「何よ?!」
「僕、頑張るよ」
「…今更そんな解りきった事、言ってんじゃないわよ、馬鹿!」
怒ったようなメイコの声に、思わず笑ったら、半分本気で殴られた。
《さあ望まれて祝福の中誕生した君》
《両親に愛され何不自由ない生活》
《すくすく育って幸せの中光の中》
《お友達もたくさん作りましょうね》
【勝手に解釈】どうぞ、気を付けて。 第一話
新作ですこんにちは、桜宮です。
今回、勝手に解釈させていただくのは、こちらの曲です。
「ゆりかごから墓場まで」
(http://www.nicovideo.jp/watch/sm2575541)
曲を聞けば解りますが、ここからものすごく暗くなります。
暗くないのは今だけですし、多分ワンクッションも入れる事になるかと…。
それでも良ければ、読んで下さると嬉しいです。
実は、この話、最終話が最初に書き上がりました←
今回にも、ちょっと伏線があったりします。
伏線を張るのは苦手なので、自然かどうかは解りませんが…(滝汗
舞台のイメージは、ヨーロッパあたりなんですが…これ、自分でもはっきりした時代が解らないorz
あと、ルカにピンクの何かを持たせたかったんですが、何を持たせても納得がいかず、髪飾りになってしまいました。
普通すぎる…orz
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