【BL(薔薇)注意】 レンカイ

「あぁ、可愛い、可愛いなぁ」

少年はただその言葉をひたすら繰り返すのみだった
傍らにはすでにVOCALOIDとしての役目を終えた彼がいる
透き通った海のような青い瞳は役目を終わった今でも
少年を見つめ続けている

「好き、大好き、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してるんだよ、ねぇ」

狂った声は何度も愛の言葉をつぶやく
二度と動くことのないロボットへと

「KAITOは? うん……うん、もちろんだよ
愛してるってば、俺にはKAITOだけだ」

それはただの独り遊び、しかし少年にとっては
今でも彼、KAITOは生きているのだ、二週間前のその時から
少年、鏡音レンの時間は止まったのだった


《夢幻の中で囁く愛》


今にも泣きそうなマスターである男
傍らで視線を落したまま腕に爪を立てるMEIKO
そして二人の前に横たわるKAITO

「KAITOはもう治らない」

マスターのその一言がレンだけではなく
ミクやリンから言葉を奪った

「な、な、に、言って……」

レンはマスターである男を見つめながら
ふらふらと近寄り両腕をつかんだ

「う、そだよ、ね? いつもの冗談だよ、ね?」

「そう、だよ、レン、きっと冗談……だから」

ミクとリンもそう言いながら大きな瞳の下には
大粒の涙をためている

「な、なぁ、嘘だよな? 性質の悪い、冗談…だよな?
なぁ、なぁ、なぁっ!!」

レンは両腕をつかんだまま、揺さぶるもマスターは何も言わず
睨みつけるレンを憐れむように見つめ続ける
マスター、そしてその傍らでレンから視線をそらし
腕に爪を立てているMEIKOだけがレンそしてKAITONの関係を知っていた
二人がどれ程障害に心を痛めたか、どれ程に愛し合っていたかを

「レン……」

MEIKOの声はいつもの力強さはなく、震えていた
いつもは馬鹿騒ぎし、何があろうと泣かず
「強さ」のイメージを纏っているMEIKOの瞳から
ぽつり、と一滴落ち絨毯にしみを作る
そのたった一粒のMEIKOの涙が物語っていた
マスターの言葉が真実であることを………

KAITOは一カ月前から歌声に雑音が入るようになった
稀に、KAITOやMEIKOの初期VOCALOIDは長年愛用していると
ちょっとしたエラーが発生するという
きっと我が家のKAITOもそうなのだろう、軽い気持ちで
マスターは専属病院より修正ソフトをもらいインストールした
しかし状況は悪化するばかりで一週間前には声を失った
詳しく検査したいとしてKAITOは入院を余儀なくされた
そして今日、病院より告げられた
「これ以上の治療は不可能、一度アンインストールし
新しいKAITOをインストールするべきだ」
余りにも残酷な言葉を淡々と口にする医者の言葉は
一番簡単な事だった、しかしマスターの傍にいるKAITO
酔っ払ったMEIKOを殴られながら止めるKAITO
ミクやリンにアイスを取られ涙目になるKAITO
そしてレンに愛され、レンを愛したKAITO
それぞれの心に埋め込まれた「KAITO」は居なくなる
耐えきれなかったマスターは病室のKAITOを抱き家に帰ってきた

「KAITO? ほら、起きろよ」

レンはいつも一緒に迎える朝のときの
一番優しい声音でそう言った
震えた手をKAITOの頬へ伸ばした
重たげに開かれた瞼の奥の青い瞳がレンを捉え静かに微笑む

「マ、スターが新しい歌を作ったんだってさ
俺とKAITOの二人の歌だって」

声の震えが強まる、その事実はKAITOに触れた手から
その青い瞳からどうあらがっても感じてしまう
今、目の前にいるKAITOの最期が

「一緒に歌うんだろ? 今迄馬鹿みたいな歌だったから、な
やっと真面目な歌、作ったんだってよ」

そっと上半身を抱き起こし、胸に引き寄せる

「すっげぇ、緊張し、てるの、わかる?
歌詞見たけど、恥ずかしい言葉、ばっかで」

レンの胸元に顔を埋めたKAITOは言葉一つ一つに頷く
そのたびレンの胸元は涙でぬれる

「初めて、好きって言葉以外、の、言葉を知った、んだ
あ、愛してるって、言葉……、歌の中で何度も、何度もっ……」

KAITOはそっとレンの頬に触れた
顔を上げるとKAITOはレンの頬、額、唇へとキスをした
そして唇はレンへの想いにゆっくりと動いた

―あ・い・し・て・る……レ・ン―

そう紡いだ唇は動きを失った
頬へと伸びていたその手は静かに力なく落ちた
ヘッドホンから光が失われた
それは二度と戻ることのないことを示した

マスターは握り締めた拳を震わせ視線をそらさずKAITOを見つめ
MEIKOは零れる嗚咽をおさるように唇を噛み締め

「あ、あ、ああああああああああああああああああっ!」

ミクが狂ったように叫びながら崩れ落ちる
いつまでも鳴りやまない声―音と言ったほうがいいだろう―が部屋に響き
リンは声さえ出ず、繋がれたままのミクの手を握り締めた
「死」、それはVOCALOIDであるレンたちにはわからない言葉だ
しかし今目の前で起こった事が「死」は永遠の別れであることを理解した
うつむいたままのレンの表情は影に隠れ見えることはない
ただマスターが傍に跪き、レンの肩に手の乗せた

「レン……、KAITOをボックスへ」

ボックスとはVOCALOIDが実在するために必要なボディが
収納されていたものである、マスターはもうみんなの辛い顔は見たくない
KAITOはボックスという名の棺桶に眠らせようとそう語りかけた
しかし、その手ははじかれた

「なに、言ってんだよ、マスター」

先ほどまでの弱々しい声とは一転し
いつもと変わらないレンの声にマスターは思わず手を引いた

「KAITOは疲れてスリープしてるだけじゃんか、馬鹿だなぁ
なにボックスなんかに入れようとしてんだよ
KAITOは泣き虫なんだ、一人が嫌いな泣き虫なんだよ」

ぎゅっと抱きしめた、優しく壊れないように
レンはそっとKAITOの頬に口づけた

「ったく、何してたんだ? さぁ、部屋に行こう」

レンはそっとKAITOを横抱きに立ち上がり
それぞれに与えられた部屋へ戻ろうとした
しかしそれを阻むように、不安定なままミクは立ちはだかった

「レン! レン! レン! いい加減にしてぇっ……
も、もう、KAITO兄さんはいないの! いないんだからぁっ!!」

座り込むようにしてミクは両手で顔を抑え、抑えきれない衝動に
再び涙を流す、何度も「もういないの、兄さんは…いない」と
口の中で繰り返す
しかしそんなミクの悲鳴さえ今のレンには届かなかった

「うるさいなぁ、誰だよ、ミクにおやつあげなかったの
そうだ、昨日全部食っちまったんだよな
マスター、ちゃんと買っとけよ」

少しの乱れも感じさせない足取りでレンは一歩一歩着実に
部屋へとを向かう

「レン、待てっ!」

追いかけようとしたマスターは後ろに引っ張られる感覚に
振り向くとリンが静かに頭を振っていた

「リン、どうした? 離せっ!」

「だ、めだよ、もうだめなの」

それは自分だから、別の存在であるも
ある意味もう一人の自分であるリンだからこそ
レンの異変、そして二度と戻らないもう一つを見つけてしまった

「レンは……、KAITO兄さんがいなきゃもうだめなの
壊れちゃう、きっとKAITO兄さんみたいにいなくなっちゃう
自分から自分を壊してレンも一緒に逝っちゃう
も、う、見たくない………もう、誰とも……こんなさみしいのいやっ」

その言葉にマスターは何も返せない
KAITOのように、もう誰も失いたくない気持ちは
誰もが思うことだったから


扉は静かにしまった、それは二度と開かないように
レンは無意識のうちに遮断したのだった
現実とそしてレン自身の中で花開いた幻とを

「今日はずいぶん甘えん坊だったなぁ、KAITO」

レンの中では甘い時間が流れる
腕に抱くKAITOは頬を赤らめ、たまにはと照れくさそうに言っていた
ベットに横たえたKAITOの横に添い寝するようにレンも寝ころぶ
KAITOの指をからめ弄び、青いつやのある髪を指に絡める

「KAITO、KAITO、愛してる」

頬へ、額、髪、指、首筋、唇、愛おしそうに啄ばむようにキスをする
KAITOはいつも「恥ずかしいからやめなさい」と言って
すぐ隠れるが、しかし今日はやけに抵抗がないと感じながら
KAITOは何度も「好き、愛してる、レン、ずっと一緒だから」
レンの脳内で繰り返されるKAITOの声
それが幻、自分の中だけで広がるものだとは気付かない
否、気付かないように心を閉ざした


「KAITO,愛してる、ずっと離れない、愛してる」

レンはそっと瞼を閉じる
疲れたと、ひどい夢を見たと思いながら
隣で二度と目覚めぬ愛しい恋人を抱きしめながら
夢の中でも幻の中でも、レンは囁き続けた

「愛してるよ、KAITO」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

※BL注意 レンカイ 「夢幻の中でささやく愛」

ん~、暗いw
しかも当初の予定と違う話ができたけど久しぶりの作品完成は気持ちがいいものです。
今度はもっと明るくイチャラブ書きたい
ルカとかがくぽ出さなかったのはミク、リンレン、KAITO,MEIKOと初期の
ボカロ家族的なのがいいかなぁって思ったからです。
ちょっと話の内容アップテンポすぎかなって思ったり、リンがあきらめ速かったりとかん~、次は明るく!……(´・ω・`)

閲覧数:5,420

投稿日:2010/02/17 03:00:09

文字数:3,721文字

カテゴリ:小説

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