(…今しかない!)


 そう考えた私は、廊下の角で身を潜めている。呼吸を殺し、腰の拳銃に手をあてる。暗がりに包まれた廊下の奥から徐々に近づいてくるのは、健音テイ。こうして敵どうしとして再会するなんて、想像もしなった。私の数少ない友達と…
 テイとの出会いは、いつだったか。そうだ、私がいつものように、まったく売れないボーカロイドとして、活動していた時だった。テイもまた、トリプルエーの一員になる、ずっと前の話。今となっては恥ずかしい話だけど、私は昔、役者をやっていた時があった。気まぐれだったドラマの監督は、何を間違えたか名無しの私を主役に抜擢した。
 
 テイも私と同じ、しがないアイドルの駆け出しだった。そんな2人が、後にこうなるなんてね…
 そしてテイは、恋人を殺された復讐に仇討ちをする、若い未亡人の役で出演していた。ナイフを片手に、恋人の殺害に関わった男たち全ての首を切り裂いた…そんなおぞましい役に選ばれたテイは、本当に殺意に駆られているような凄まじい演技力で評判だった。私たち2人は共演を交えて、いつしか愚痴を挟みながらお酒を飲みにいくような関係になってた。


「まだテイは19歳だから、お酒ダメじゃない…!」

「あはっ、忘れてた☆」


 なんて冗談を交わしながら。私はそんなテイに、好感を抱いていた。ただ、ヤンデレだったり、ストーカー気質な所を除けば、ね…それはいいとして、健音テイは消極的な私が素直になれる、大切な友達の1人になっていた。テイも私のことを信用してくれていたと思う。私が彼女の真剣な恋話の相談相手になったこともあった。


「ハクちゃん、あのね…」

「どうしたの、改まって」

「私ね、この人に恋しちゃったんだ☆」

「え、ええーっ!?」

「驚いた?」

「だってさ、その写真の人…」

「え?」

「どう見ても、女の人じゃない…!」

「…あ!写真を間違えたぁー!!」


 そんなこともあったかな…とにかくそんな楽しい日々が、1日も、1年も、ずっとずっと続いて欲しいなんて思っていた。
 けどそれはある日、突然終わった。クリスマスイブの夜、テイが行きつけのお店にケーキを買いに、街へ出かけていた時だった。その日は、雪がちらほらと降っていた。でも寒くて、とても外には出られないような日だった。凍てつくような空気に満ちた私の家で、一本の電話が鳴った。相手は、亞北ネルからだった。今やアンドロイド治安維持局の特別警察「AMP」の「電狼」と呼ばれているネルも、かつては私の友達だった。


「もしもし?」

「ハク…だよな?」

「ネル?」

「ごめんよ、こんな時間に…」

「うん、どうしたの…?」

「…落ち着いて、聞いて欲しいことがある」

「…何?」

「テイが…刺された」

「え…!?」

「急所だったらしい…だから、さっき……」


 息を引き取った、と…そう聞く前に、もう私は電話の受話器を落として、気を失いそうになった。
 次の日に何があったのかは、ネルがゆっくり話してくれた。電話で話を聞いていた時は、頭が真っ白になっていたから。どうやらテイはケーキを買った帰りに、路地裏で幼いアンドロイドの子供が、中年の男に暴力を振られていたのを目撃したようだった。男は後でその子のマスターだと分かった。理由は分からないが、その子供は見るも無惨なほど腫れた体になっても、なお攻撃を加え続ける男を見かねて、テイと口論になったらしい。
そして反省の態度の欠片も見えない男に、テイは勢い余って壁に強く押さえつけて…

 数分後、近くにいた通行人が血みどろになったテイを発見した。もうその時には、誰もいなかったそうだ。駆けつけた救急隊員が来た時には、もう既に事切れていたと言っていた。その日から、私の心には塞ぐことのできない穴があいてしまった。みんなもテイが亡くなってから、人が変わってしまったと言っていた。そして気がついた時には、裏の社会で暗殺を生業とする、フリーのスナイパーとして生きていた。友達の死をきっかけに荒れた私は、後戻りのできない泥沼に飛び込んでしまった。テイのせいじゃないのは、もちろん分かっている。

 そして今、奇妙な運命の悪戯か、私は健音テイらしきものと敵として対面しようとしている。いや、このテイはきっと偽物か、単に見た目がそっくりなだけに違いない。だって彼女は、みんなの弔いで安らかに眠っているから。そう思いたかったけど…私は角から素早く身を乗り出した。私の拳銃は、テイがこの場にいることを否定するように、火を吹いた。しかし私の弾は相手には当たらず、曲がったナイフと一緒に地面に転がっていた。

 ナイフが、弾丸を弾いた? 一瞬、私は何が起こったのかが分からず、再び物陰に隠れるのを忘れてしまっていた。やっぱりそこにいるのは、健音テイなんかじゃない。得体の知れない、トリプルエーの新参か…


「グッドショットだね、ハクちゃん! けど、登場してすぐ隠れちゃうなんて、恥ずかしがりな性格は殺し屋になっても変わらないね。でもその大胆さは、ホントに素晴らしいよ☆」

「くっ…」

「ねぇ、いつまでも隠れてないでさぁ、もっと私と遊ぼうよ♪」


 どうしてこの女は、私の名前を知っている? 私はまだ認めない、まだ…でもこの声に、この口調は、やはり…


「…あなた、何者?」

「えぇ? しばらくぶりからって、それはヒドイよハクちゃん?もしかして、私のこと忘れちゃったの?」

「名乗りなさい!」

「ホントにヒドいんだね、ハクちゃん…私はちゃーんと、ハクちゃんのことを覚えていたのに。初めて出会った時のことも、ずっと過ごした日々のことも…」

「…答えて!」

「それに、私が死んだクリスマスイブの日のことも。思い出せない?」

「なっ…」

「とっても痛かったよ…? だってオッサンのナイフが、私の心臓にグサッといっちゃったからね! 本当にビックリしたよ。しゃっくりも止まらなかったし、苦しかったし…それで一回死んじゃったけど、こうして生き返ったんだよ!」

「…やめて!この世にテイは、もういない!!」

「まだ信じてくれないのハクちゃん? 私だよ? 正真正銘の健音テイだよっ!?」


 テイの言葉に、だんだん威圧感が入っていく。表情も見るに耐えない、恐ろしいものになっている。


「こんな形だけど、やっと会えたっていうのに…結局私たちの仲って、時間が経ったら簡単に消えてしまう程度のものだったの?」

「…ふざけないで!あなたはテイじゃない。見た目はそうでも、中身は化けの皮を被った、まったくの偽物よ!」

「…そんなこと言っちゃうんだね。ねぇ、どうしてそんなコトいうの…? ねぇ…?」

「見苦しいわ! 小細工な演技はやめて!」

「ダメだ、こりゃ」


 私はまだ信じられなかった。いくらアンドロイドでも、死んだら生き返ることは有り得ない。そんなのは、映画の中のゾンビやモンスターだけ。でもこの進歩した、アンドロイド技術が発展したこの時代なら、もしかすると…現に人がアンドロイドとして蘇生した事例もあるくらいだから。でも、例え死んだテイが蘇ったとしても、今この場で私と対峙しているのは、もう親友の健音テイじゃない。私は、彼女に再び銃弾を放つ覚悟をした。距離が近いから狙撃銃じゃ無理…ならもう一度、拳銃で勝負をする。そう思い、再びサイドアームの拳銃に持ち替えた。


「…長々と話しちゃった。リッちゃんに怒られちゃうかも。早く仕事を終わらさないとね。せっかくハクちゃんと再会できたのに、最後まで私がテイだって信じてくれなかったのが残念。ついでに聞くけど、最後に言い残すことはある?」

「…無い」

「そう、それじゃあ…ここでサヨナラだね、弱音ハクッ!!」


 話に見切りをつけたテイは、ナイフを構えて突撃してきた。顔の表情や口調は、もはや穏やかだった時の形をとどめていない。それが私には、見るに耐えなかった。目的の物は回収した。後は、この包囲網を潜り抜けて脱出するだけ。不要な戦闘は避けなければならない。けど私は自分は考えた。この「テイのようなテイ」を、放っておくわけにはいかないと。私は決断した。


「…いたわ。すぐに来てリツ!」

¨了解、侵入者を見つけたようね。急いでそっちに向かう…¨


 私は再び角から飛び出し、横にローリングして突撃してくるテイに3回発砲した。この近距離では、さすがに避けられはしない。私はこの銃撃でテイを倒したと思った。だけど、すべて弾かれた。とても信じられなかった。この近距離で、一発も当たらなかったなんて…床には弾丸を防いだナイフが、また落ちていた。私が転がり込んだ先は不覚にも部屋の角だった。あろうことか、私は逆に追い詰められてしまった。テイはナイフを構え、私の正面に立っている。不敵な笑みを浮かべながら。


「フフッ…今のは少し危なかったよ。予想はしてたけどね♪」

「そんな…馬鹿な…!」

「…で? もうこれで終わりなの?なぁんだ、つまんないの…」

「…っ!」


 私は思わず、焦った故かテイに向けて拳銃の引き金を引いてしまった。無駄なこと…もう弾は切れてしまっているのに。予備弾はある。背中には狙撃銃もある。でもこの状況では弾を入れ替えることも、銃を持ち替えることもできない。


「もう策はナシって感じだね。まだまだハクちゃんと楽しめると思っていたのに…とっても残念♪」

「くっ…」

「もうお別れの時間だね。それじゃあ、さようなら…弱音ハク!」

「私は…こんな所で…!」

「死ねぇ!!」


 どうして私たちはこうなってしまったのだろう…もう訳が分からない。生き別れになった私とテイが、こうやって戦っている。そして今、そのテイが私の命を奪おうとしている。ああ、私はかつての友達の手によって死ぬのね。でもある意味、それも悪くないのかも。自分は罪を犯しすぎた。その制裁がかつての友達によるものなら…大人しくそれを受け入れるわ。もう、どうともなれ…


「くたばるのは、まだ早くないか?」

「あぁっ…!?」

「え…?」


 何があったのかしら…? 体に冷たいナイフの食い込む感覚がしない。銃声がした…自分は銃で撃たれたのか? でも痛みがない。私は、まだ生きている?


「あ…あっ……」

「不意に嫌な予感がしたが、駆けつけてきて正解だったな。危うく貴重で有能なアンドロイドを、また1人失うところだった」

「これは…」


 テイは一瞬固まったかと思うと、そのまま私の方へ前のめりに倒れ、動かなくなった。目の前には、私を助けてくれた女性らしきアンドロイドがいた。赤く長い髪、群青色に赤いラインの入ったコート、黒いブーツを履いた出で立ち。そして片手に握りしめられたブラックカラーの大型拳銃が、鈍く光っていた。その女性は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「大丈夫か?」

「ええ、あなたは…?」

「おや、私が誰か分からないのかい?」

「どういうこと…?」

「何を言っているんだ。さっきまでキミと通信で話していたアンリだよ」

「…えっ!?」

「ようやく会えたね。弱音ハク君」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

「VOCALOID HEARTS」~第17話・真紅に染まる記憶~

ピアプロの皆さん、今日は!
今回は、前々からハクとテイの2人が、見た目とか病み属性とかで色々似てるなと感じてたので、絡まさせてみました。そんなこんなで、次回の18話はハク編の最終回です!ルコやネルといった敵も次々に登場します。
謎の女性アンドロイド・アンリも交えて、混戦の予感…?

前回、メッセージとブックマークをいただいたenarinさん、瓶底眼鏡さん、ミルさん、エヴァンデルさん、sinneさん、改めてですが、本当にありがとうございました!

閲覧数:660

投稿日:2014/05/27 23:22:53

文字数:4,614文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • 瓶底眼鏡

    瓶底眼鏡

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    畜生!!更新せねばいけないと言うのに、なぜこの指は動かない!!

    ……いきなり愚痴を失礼しました。回収せねばいけないフラグが色々増えたにも関わらず、なかなか何も出来ず申し訳ありません。今取りかかってる話で色々伏線張ってみようと思っているのですが、うまくいかないもんです。それとなんか鬱です←
    それはともかく、いつの間にか負担が増えた……しかしこれは頑張るしか!!さて、前回今回のこと……どう処理するか……って話の内容変わってないじゃないか←
    という訳で!かっこいいハク姉さん最高です!!続きもガンバです!!そしてそれ以上に俺ガンバ……

    2011/11/28 22:52:49

    • オレアリア

      オレアリア

      びんさん、遅くなりましたがメッセージを寄せて下さってありがとうございました!

      すみません…そのフラグや伏線立てまくってる原因がここに←

      びんさんかなりお忙しそうですし、なかなか更新できないのも無理も無いですよ!
      自分は暇人の癖に更新しない奴で(ry

      いつもコラボさせて頂いてるキャラの解釈違いでストーリーや展開を曲げてしまって本当にすみません…(汗)
      特にハクさんなんかスナイパーになってますし←

      ありがとうございます!びんさんの陰謀シリーズの続きも待ってますからね!

      2011/12/30 15:57:11

  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    今晩は! 続き、拝読させて頂きました!

    うーむ、なんとも凄いハクとテイの過去…。しかし、目の前のテイは、今のその言動からして、テイではない、と予想してます。アンリさんのお話もあり、それは次回以降のクライマックスにて明かされるでしょう。楽しみです。

    しかし、このテイらしき人物は、本当に正反対の性格+言動ですね。何があったのでしょうか…

    ではでは。

    P.S:ディアフレンズの第9話をアップしました。ようやく書くことが出来ました。お待たせしましてすみませんでした。

    2011/11/27 20:34:28

    • オレアリア

      オレアリア

      enarinさん今日は!
      メッセージのお返事がかなり遅れてしまい大変申し訳ありませんでした…!

      続き読んでいただいてありがとうございます!!
      はい、ハクとテイは過去に生き別れをしてしまっているんですが、亡くなった筈のテイが何故か生きているわけなんですよね。

      enarinさんの予想は当たってるんですが、実はテイには隠された秘密があるんですね。¨テイでありテイではない¨と言えるでしょうか。
      これについては、ボカロハーツの後半で明らかにしたいなと思っています!

      ディアフレ9話の方は勿論拝読させて頂きました。テルも交えたバトル回に入ってきたのでますます楽しみです!
      これからも執筆頑張って下さい!

      2011/12/30 15:29:51

  • ミル

    ミル

    ご意見・ご感想

    オセロット隊長、こんばんは!更新が早かったので早速読みにきました!

    ハクとテイの間にまさかそんな過去があったとは!しかも敵として再会してしまうなんて…何だかこの後のユフ刑事とサユもこんな風になってしまうんでしょうか…?


    そしてまさかまさかのアンリが助けに来ましたね!この女性、なぜハクを助けたのか色々謎だらけですよね。
    それにリツの反応を見るとトリプルエーのメンバー達と関係があるんでしょうか?

    今回は緊迫したバトルシーンが面白かったです!
    次回はいよいよスナイパーハク編最終回、次のお話も楽しみにしてますよ!

    2011/11/27 17:33:13

    • オレアリア

      オレアリア

      ミルさん、メッセージ&ブックマークありがとうなのであります!

      ところが更新は早い癖にお返事はこれでもかって言うぐらい最悪に遅い件←
      もう本当にすみません…

      ハク×テイってのはあまり見ない絡みだと思って¨かつての友人¨設定にしてみました。結構2人は見た目がそっくりだったのもあったんですが…そうだ、どたぷん度も違いました(ry

      そしてこの2人を誘うかのように、ユフとサユが望まぬ対立関係に……さあどうしよう!?(←おいw)

      アンリについても何者なのか、少しずつ明らかになっていきますよ!
      ありがとうございます、次回も頑張りますね!

      2011/12/30 01:12:34

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