「今日も、寒いなぁ・・・昨日はすごく良かったんだけどなー」
カフェ・カフェの誰もいない店内で、ルカは呟く。お客さんは冬は結構少なくなるものだ。特に、この時間帯は。
・・・と、そんな時。
「わーい、先日は失礼いたしました!!」
ランドセルは背負ってないものの、ユキが入口のドアを開けて入ってきた。
「あ、ユキちゃん。今日は、学校休みなのね?」
ルカはにっこりユキに笑いかける。
「はい! なので、今日はあの先生もどきも来ません!」
ルカがいるカウンター前に、座るユキ。
「そっか」
内心ほっとするルカ。
「・・・やっぱり、安心するよね! あの先生もどきがいないと!」
「え、そ、そうだね、うん」
「私、今のこの時間って、結構好きなんです!」
「へぇ・・・なんで?」
ユキにオレンジジュースを渡しながら、ルカはたずねる。
「なんだか静かで・・・あの先生もどきもいないし」
「・・・それは、なんとなく先生もどきさんがいない時、全てに当てはまるんじゃないのかな」
「あ、それもそうですね!」
などと、話をしていると、ユキは、ポケットから一枚の写真を取り出して、ルカに見せる。
「これ、見て下さい!」
「どれどれ・・・ん??」
ルカは、写真を首をひねる。写真に写っていたものは、いつかカフェ・カフェに来て生徒と激論し、ついには惨敗したユキいわく先生もどきと、そっくりそのままな人物だった。・・・1つ違うのは、眼鏡を外してスーツ姿じゃないというだけ。あとは、強いて言えば表情がかっこよくなっているだけか。
「この人は、先生なんじゃないの?」
「ちがうもん! この人は氷山キヨテルっていう、とってもかっこいい人なんだから!」
「・・・先生も、確かそういう名前だったはずだと思うけど」
「ううん!! そ・れ・は、同姓同名!!!」
はしゃぐユキに、ルカは全てを理解する。・・・つまり。
「先生も、大変だなー。・・・ところで、ユキちゃん」
「なにー?」
「先生が、眼鏡外すところって、見たことある?」
「んー・・・ない! っていうか、見る必要なーし!!」
びしっと言うユキ。
「そっか」
それなら、理解されないだろう。
「それがどうかしたの?」
無邪気に尋ね返してくるユキに、
「ううん。ただ聞いてみただけ」
にっこりと微笑んで、そう言うことにした。・・・本当のことを言っても、どうせ信じてくれなさそうだし、どうせなら今のままでもいいんじゃないのか。そうルカは判断して。
「じゃあ、今日はもう帰りますね! さよーならー!」
そう言って、ユキはぺこりと頭を下げて、カフェ・カフェから出て行ったのだった。
それから、しばらくした頃。
今度は、
「こんにちは。先日はどうも失礼しました」
この間会った時とは打って違った様子で、氷山キヨテルという人がカフェ・カフェにやってきた。ちなみに、眼鏡をかけスーツ姿である。
「こんにちは」
半ば予想していたこともあって、動じないルカ。
「今日は、ユキちゃんが少し前に来てたんですよ」
カウンター前に座る先生に、ルカは言った。
「そうなんですか。・・・なにか、言ってました?」
「・・・何か、飲み物でもどうですか?」
リンに教わった『気まずいことを聞かれたら、とりあえず質問返しだよ!』という言葉を思い出して、早速試してみるルカ。すると、
「・・・やっぱり、何か言ったんですね」
「・・・・・・」
質問返しが通じなかったルカは、黙ってメニューを差し出す。しかし、
「あの子は、一体何を言ったんでしょうか?」
先生は頑として、ルカに問い続ける。
「・・・」
内心ため息をついてから、口を開くことにした。
「氷山キヨテルという同姓同名の人のことをとってもはしゃぎながら、教えてくれました」
「・・・ぇ」
先生は、目を丸くさせる。
「私は、一発であなただってことは分かりましたが、・・・本当に、同姓同名じゃないんですか?」
正直、あんなにかっこいいのに、その中身がロリコンのさらに上を行くドロリコンだなんて、ルカは一市民として、なんとなく許せなかった。
「・・・どうだと思いますか?」
はぐらかす先生に、
「じゃあちがうんですね、分かりました」
にっこり冷静な笑みを浮かべ、はっきりと言い放つルカ。
「・・・・・・」
黙り込む先生に、
「あら? ちがうんですか??」
こういう時には、とことん追及するルカ。だって、一歩間違えば、あのかっこいい人が目の前にいるただの先生である。それは、なんとなく許せなかった。
「・・・そうですよ。僕が、あの氷山キヨテルです」
開き直る先生。
「・・・えー」
なんとなくブーイング。現実拒否である。
「信じてくれないんですか? ・・・これでも??」
そう言って、優雅に眼鏡を外してみせる先生改め氷山キヨテル。
「まぁ、確かにかっこいいし、ユキちゃんが見せてくれた写真と全く同じです。それは認めます。・・・でもなー」
中身が・・・あれじゃあなぁ。
「何か、不服ですか?」
他の女の子たちだったら、一発で卒倒しそうなほど、甘い声で言う氷山キヨテルボイスも、
「中身があれじゃあ、だめですよ」
クールなルカによって、ばっさり両断される。
「・・・むむ、そうですか」
再び眼鏡をかける氷山キヨテル改め先生。どうやら、ルカがうっとりするのを期待していたらしい。
「私は、この町一番のクールなカフェ・カフェの切り盛りしてる者ですよ? そんな程度じゃ、全く効果はありません」
「じゃあ、どの程度だったら効果あるんですか?」
眼鏡を外さずに、にっこり笑って聞く先生。
「少なくとも、私が熱をあげるほど夢中になる方なら・・・多少は、効果はあるかもしれませんが、あいにく私は、」
そこで一息をおき、
「レンきゅんしか、興味はありません☆」
ルカにとって、当然の事実を言った。
「え、レンきゅんって、あのへたれの?」
しかし、そんな当然の事実など知るわけもなく、先生は目を丸くさせる。
「あのへたれって・・・そこがいいんじゃないんですかーwwww」
一気にデレモードに入るルカ。
「あの抱き心地が良すぎるところも、たまにバナナあげるとすっごく可愛い笑顔で、お礼を言いつつもツンッとするところなんて、もうたまりませんよーーー!!」
「・・・つまり、そういう方面なんですか」
「はい。なので、あなたのことはかっこいいとは思いますが、所詮その程度です。私には、愛しのレンきゅんがいますからねー!!」
もはや、壊れそうなルカ。
「気が向けば、いつでも甘えてきてもいいですよ・・・正体は見破ったわけですから」
にこにことする先生に、
「あ、それは絶対ないですよ」
冷静になったルカは、笑顔で断る。
「じゃあ、これで失礼します」
そう言って、先生は店内から出て行った。
外は、真っ白な世界が広がっていた。
それを見たくなくて、たった今まで繰り広げられてきた、時間の欠片に想いを馳せるのだった。
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