「暇ね」

 売店の主、ゆかりさんは欠伸を一つして、呟いた。

 今は授業中であり、暇である。誰が来るかといえば、サボる生徒くらいだろうか。

 これは、ゆかりさんの書く売店の日誌である。





≪ゆかりさんの非日常な売店日誌 1≫






「こんちわー」

「あ、グミちゃん。どうしたの。何が欲しい?」

 グミはあたりの棚を見ながら、答えた。

「えーと、ちょっとお菓子を」

「ブラックサンダーでもどう? 公式義理チョコで有名よ?」

 そう言ってゆかりさんはブラックサンダーを差し出した。

 ワンケース。

「多いですって」

 やっぱ多いか。

 ゆかりさんはそう言って、棚にブラックサンダーを仕舞った。

 何故か少しだけ寂しそうな顔をして。

「……というか、なんで寂しそうな顔をしているんですか……。お菓子が欲しいって確かに言いましたよ? 言いましたけれど!」

「それじゃうまい棒。ほれ」

「ってこれ、最近出た魔法少女のコラボのやつじゃない! よく仕入れましたよね!」

「私ってさ、珍しいモノが好きなのよ。そこらのコンビニよりかは沢山品揃えているよ?」

 チェーンソーを肩に携えながら、ゆかりさんは鼻息を荒くした。

 効果音でいけば、「ドヤァ……」だろう。

 本当に、どうしてこの人はチェーンソーを持てているんだろうか。だって、銃刀法違反なのに。

 グミはそんなことを考えながら、棚にある五円チョコを取り出した。

「あっ、五円チョコだ」

「懐かしいでしょー? 私も懐かしくなっちゃってさ。主に私が食べるために毎週十ケースは仕入れているのよ」

「職権乱用じゃないですかそれ!」

 グミの言葉に、ゆかりさんは「仕方ないんだよ、私は五円チョコを食べないと死んじゃう病なんだ……」と呟きながら、五円チョコを一つ頬張った。

「……って言ってるそばから!」

「いいじゃん、金は払っているから」

「だって大量に買っているから幾らか安くなりますものね……」

 グミは溜息をついて、改めてラインナップを眺める。

 文房具コーナーにあるルーズリーフ百枚入りと、六色入りボールペンを手に持った。

「そういえばボールペン無かったっけ」

「おー、それを買うか? 校章付きの方が二割方安いぞ。今は売り尽くしセールやってるし」

「校章付きってほかのところじゃ使いづらいんですもん。友人のところも売り尽くしセールでようやく二割くらい売れたって言ってたし」

「こっちもそんなもんだよ。学校側から売れ売れと言われて、何年経っても売れ残ったりしちゃうんだよ。学校グッズってこういう無名校にゃ赤字だよ」

 うんうん、とゆかりさんは頷いた。

「それより、時間はいいのか? まだ授業中じゃなかったか?」

「今休講なんだー。プリントを配っていたけれど、すぐ終わっちゃうし。んで、帰っちゃおっかなーって思ったけれど、学生会あるし」

「学生会か」ゆかりさんは何かを思い出したらしい。「新しく就任した学生会長はどう? なんでも百年前の未来? からやってきたアイドルなんですって。歌がすごいうまいんですよねー」

「りおんちゃんだっけ。彼女まだ来たことないのよねー。楽しみにしているわ」

「今度の文化祭で歌うらしいですよ。なんでもラピスちゃんとデュエットするとか」

「へえ! ラピスちゃんってアイドルだよね。ここに来る男子共がそういう会話しかしないよ。キヨテル先生がくるたびに『ラピスちゃんかわいい』とか言っているからね、うざいったらありゃしないよ」

「あの人ここでも言っているんですか……。英語の授業の時でも、例文の主語に使うくらいラピスちゃん好きなんですよね……」

 まぁご愁傷さま。とゆかりさんはカルピスを差し出した。

「それは私の奢り」

「ありがとです」

「でも、何かは買ってね」

「じゃ、ブラックサンダーワンケースとこれとこれ」

「結局それ買っちゃうのね」

 会計を終え、おまけに五円チョコ二十個を袋に放り込んで、グミに差し出した。

「……それじゃっ」

 グミは短く敬礼して、売店の扉を開けて外に出た。

 ゆかりさんは笑いながら彼女を見送った。



つづく。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ゆかりさんの非日常な売店日誌 1

『【リレー】僕と彼女の不思議な夏休み』の外伝というかスピンオフ。

続く。http://piapro.jp/t/TtRf

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投稿日:2013/02/27 20:59:56

文字数:1,758文字

カテゴリ:小説

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