「誰?あなたは・・・」
私の腕の液晶画面に、エラーメッセージが示されていた。
『ウイルス反応アリ、コレヨリ正常ナ状態ヲ保ツタメウイルスヲ除外シマス』
私のセキュリティ機能が反応を示した。
そして、私の中にいたウイルスが姿を現す。
「よっ、お前が初音ミク?なんだ、弱そうな見た目。がっかりだぜ。一応自己紹介しとく。お前のウイルス、雑音ミクだ」
雑音・・・
いかにも敵って感じの名前だな・・・
これから私とウイルス、雑音ミクとの歌合戦が始まる。
「ふぁぁぁぁぁ・・・」
マスターはいつもどおり目を覚ました。
ベッドの上で上半身だけを起こし、あくびする。
一度目をこすると、二つの存在に気づくマスター。
「ちょっ、二人とも・・・なぜここに・・・」
マスターの上には、私と雑音ミク。
私がマスターの下半身の上のほう(破廉恥なっ)にまたがり、雑音ミクはその後ろでまたぎ、顔を私の右側から覗かせている。
「マスター、私のほうが歌うまいですよね?ねっ?」
「俺のほうがうめぇよ。なぁ、マスター」
二人がムスーッとして言うから、マスターは困り顔。
「うう~ん、っていうかさ・・・」
その言葉に、二人が声をそろえて言う。
『っていうか、なに!?』
「まだ二人とも歌ったことないよね・・・っていうか僕は二人の歌声は聴いたことないよ・・・」
・・・・・・
そうだった。
私はともかく、雑音ミクは歌声を聴いていなくて当然だ。
DIVA_歌姫のウイルスとあらば、どのようなものなのか。
私自身も少し興味があった。
「じゃあ、二人とも。ひとりずつこの曲を歌って」
と言ってマスターは手に紙を2枚持っていた。
その紙を1枚ずつ、彼女らに渡す。
「えっと、私は“メルト”ですね・・・」
「俺は、あ!?“初めての恋が終わるとき”だとよ」
それを二人はそれぞれ読み上げると、マスターは満足そうに言った。
「じゃあ、まずは初音ミク。メルトを歌ってください」
「朝 目が覚めて 真っ先に思い浮かぶ君のこと・・・」
私は久しぶりに爽快感を感じながら歌いきった。
マスターは笑顔で拍手していた。が、
雑音ミクは不機嫌そうな表情だった。
「ちぇっ、んだよ・・・・・・」
私が歌い終わり、雑音ミクの番。
私はマスターの横のあいている座席に座った。
「それじゃあ、雑音ミク、よろしく」
黒い前髪を一度払い、面倒くさそうに歌い始めた。
「はじめてのキスは涙の味がした・・・ まるでドラマみたいな恋 見計らったように発車のベルが鳴った・・・」
なんとも表現しにくい、すごく独特な歌声。
私にはない、強く心に響く歌声だ。
マスターは完全に聴き入ってしまっている。
私も、少しその歌声に魅かれた。
「・・・私にない、歌声・・・」
これがはじめての、私の“あこがれ”だった。
二人が歌い終わると、マスターは以外にも表情が険しかった。
雑音ミクも少し私たちに溶け込んできたらしいが、マスターの表情に不安を抱いた。
「ど、どうだったでしょう、マスター・・・」
私はおそるおそる聞いた。
すると。
「・・・すごくよかった、二人とも。そこで、考えがある。それはね・・・」
それは・・・
ごくりとつばを飲む二人。
「二人合体して歌うんだ!そうすれば史上最強の歌姫の完成だ!」
・・・・・・・・・・!!!!
そう言うとマスターは、私たち二人をつかんで洗濯機に放り込んだ。
「なにっ、するですかっ、マスターぁ!!!」
「おいっ、出しやがれこんちきしょうがぁ!!!!」
私たちの反抗も虚しく、マスターは強引に洗濯機のふたを閉める。
ぴっ。
「いいいいいいいやややややややわわわわ・・・・・・」
「とめっとめっろっとめろっますっマスタっぁっ・・・・・・」
いきなり回り始める洗濯機。
マスターめ、こんなことで合体させようったって・・・
・・・合体した。
名前は、初音ミク。
究極の歌姫だ。
そう、雑音ミクはウイルスなどではない。
もはや、引き立て役、私の大事なパートナーなのだ。
これからも、みんなに歌声を、幸せを、平和を届ける。
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2011/11/25 22:12:48