-偏愛と純愛の狭間-
足が石になってしまったように動かない。まるでさび付いているようだ。
しびれるような空気感と、自らに向けられたシルバーの銃口で、ルカは息が詰まりそうだった。
「カイコさん、もうやめて下さい。このままでは、誰も喜びません。貴方も、ひどく悲しむことになります」
「そんなことない。貴方達が余計なことをしなければ、私とめーくんを邪魔するものはいない。貴方達をここで始末すればいいのよね…!」
「私たちを殺しても、メイトさんは貴方を信用しなくなります。今までのように愛することもなくなりますわ」
「めーくんは私だけを見てくれるようになる。誰にも邪魔なんかさせない」
ルカの話を聴こうともしないカイコに、もはや理性はなかった。自らの欲と人をあやめてしまうかもしれない恐怖と、怒りとあせりだけで、今の彼女は動いていたのである。
少しでも動けば自分はメイコと同じように銃で、メイトたちのほうには爆弾が爆発して間違いなく命を落とす。しかし、動かなければ結局、カイコは引き金を引くだろう。どうにもできない。
「――…?…ぅ…」
小さなうめき声を上げて、前髪をかき上げるようにして顔をしかめながら起き上がったのは、レンだった。まだ状況が理解できていないらしく、きょろきょろと辺りを見回してメイトが倒れていること、メイコが腹から血を流していること、カイコがルカに銃口を向けていること、ルカが入り口の本棚のあたりでカイコとにらみ合っていること、それらを見て、これまでの経験からか素早く状況を判断したらしい。手錠につながれた左手をぐっと引っ張ってメイコの方に右手をかざすと、小さな声で呪文を唱え始める。右手の先に、ぽうっと小さな光が灯って、苦しそうだったメイコの表情も少しだけ和らいだ。
自分も目覚めたばかりでまだ少し酸欠状態であるにもかかわらず、無理な体勢で得意でもない回復魔法を使えば、レン自身にも負担がかかっていくことは明らかだった。苦しそうにレンが眉をひそめた。
埃が、指先の光に照らされてふらふらと舞っていた。
「…カイコさん…」
「今度は何?」
「貴方は、本当にメイトさんを愛しているのですか?」
「勿論。愛していなかったら、ここまでしないもん」
「…彼の幸せは考えないのですか?自分の幸せだけを求めていては、本当の愛とはいえないように思いますが」
「…だから?だから、何?貴方には関係ないでしょ」
「こんなことになってしまって関係ない、とは酷いですわ。カイコさ…」
「五月蝿いっ!あんたに何がわかるのよぉっ!!何も知らないくせに…偉そうに言わないでよ、爆発させちゃうよっ!?」
そういわれ、ルカは少し後ろに引いた。
そうしている間にも、メイコの回復は続き、次第に傷口は閉じていく。十分ほどでどうにか傷口がふさがってレンがメイコを揺さぶる。と言っても、魔法を使っていたぶんで体力を消費している状態で片手で揺さぶるのだからそう強くもできないわけだが、その揺さぶりに、メイコは腹を押さえながら起き上がった。
「――これ…写真?」
ふと部屋を出ようとしたリンの目に留まった。木の写真たての中に、見知らぬ二人のカップルらしき男女が並んで嬉しそうにピースサインを出している写真だ。少なくともメイトとカイコではないことだけは確かだ。どこかで見たような、みたことないような…。そういえば、どことなく…。ぶつぶつと呟きながら、リンは懸命に思い出そうとしていた。正面から見てみたり、横から見てみたり、斜めから見てみたり、裏から見てみたり――。
「んっ?」
裏のコルクボードと木の淵の間から白い紙のようなものの端が飛び出していた。よく見ると写真の中心の辺りがぷっくりと膨らんでいて、写真を指で押すと写真のパキパキという音と、写真の奥にある何かの柔らかい感覚があった。
気になって仕方のなくなったリンは、そっとコルクをはずした。
神経がピリピリする。
それはカイコも同じであった。いきなり、「ガシャンッ」と音が鳴って棚が少しずれ、カイコがそちらへ目を向けると、メイコが起き上がってレンの手錠をはずそうとしているところだった。
「カイコちゃん…」
「こ、こっちにこないで、こないでよぉっ!!」
後ろの壁にはへばり付く様にして、カイコが顔をこわばらせてメイコの方をじっと見ていた。その手は壁を伝って何かに触れたのを感じたらしく、そのあたりのタイルをはがすと、そこには小さな何かのスイッチらしきボタンがあった。
「…もう、遅いんだから…」
いうなり、躊躇いもなくそのスイッチに触れた手にぐっと力をこめた。
そっとメイコがカイコのほうに近づくと、カイコは怯えたように身を縮めて両手で顔を守るようにしている。それを見たメイコはその手をそっと下ろさせて肩に手を置くと、カイコの目線と同じ目線で話し始めた。
「カイコちゃん…安心していいの。私たちは貴方の敵じゃない。貴方とメイトを引き離そうとしているわけじゃないし、二人の結婚は祝福するわ」
「ぇ…」
「けど。けど、貴方のやっていることは犯罪。…こんなことしても、メイトは喜ばないわ。知ってる?メイトはね、あの無駄なくらいの正義感で、昔はちょっとした虐められっこだったのよ。でも、そんないじめっ子たちも見返すくらいのことができた。メイトがこの状況を見ていたら、きっと絶望するわ。――メイトを愛しているなら尚更、貴方にはちゃんとした道を選んで歩いてもらわなくちゃ」
いつの間にか、カイコはその場に崩れ落ちていた。
「主!」
ぱぁっと表情を明るくして、ルカは言った、
「カイコちゃん、さっきのは時限爆弾のスイッチね?どうやったら止まるの、爆弾はどこ?」
「そ、そこ…。めーくんの近くの棚の…」
「メイコさん、確かにそれらしいものがあります!」
「止め方は?」
「知らない、わからない!!」
そういうなり、カイコは頭を抱えた。しばらく続いた緊張から開放されたと思ったのか、ふっと力が抜けてその場でだらんと倒れそうになってメイコにたすけられた。
「…嘘」
写真たてから出てきたそれらに、リンは驚いて言葉を失った。
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ご意見・ご感想
リオン
その他
こんばんは!
お久しぶりですね!!
そんなにまってもらっていたとは!頑張らねば!
私も勉強中にずっと小説を考えてたんで、点数が大変なことに…(汗
一体何を見つけたのでしょうね、私にもわかりません。
カイコさんドーンマイ(笑
次も頑張りますね。…ろくろっくびとは、首を長くして待っているということですよね…?
2009/11/18 18:20:07