「はいっ、OK!!」
その合図で私はヘッドホンを外す。
何年も歌ってるけど、やっぱり疲れる。
少し背伸びしながら、スタッフさんにお辞儀して部屋を出る。
「あーあー・・・。」
その日は、少し喉が痛かった。
「お疲れ、グミ。」
「あっ、グミヤ。」
差し出されたタオルを受け取って、汗を拭く。
グミヤの匂いが微かにして、ドキドキする。
私って変態?
「今回の曲は、テクノっぽいな。」
「うん、今までとは違うから大変で。」
「ふ~ん。」
興味なさげに答えるグミヤの声。
いつもと様子は違うグミヤ。
どうしたんだろうか・・・。
何か悪いことでもしたかな?
「グミヤ?」
「お前さ・・・、頑張るのは良いけど・・・、喉、大事にしろよ。」
「えっ?」
「喉、明らかにガラガラだぞ。」
確かに喉が痛い。
でも大したことないと思ってた。
「はい。」
「へっ?!」
投げ渡されたのは、レモン味の飴。
温かい・・・、ずっとポケットに入れてたのかな?
グミヤの体温が手の中に広がる。
「舐めとけ、明日も練習なんだろ?」
「うっ、うん・・・。」
俯いて答える。
だって、今、顔・・・真っ赤だもん。
口の中に広がるレモンの味。
すっぱいけど、ほんのり甘い。
私の一番好きな味。
「グミヤ、ありがとう。」
照れてるのがバレないように、笑って言った。
するとグミヤは、曖昧に答えて顔をそむけた。
「・・・?」
「あ~・・・、おっ、おい!!」
「何?」
「明日、練習の後、時間・・・ある?」
「えっ?」
「お前にどうしても言わなきゃいけない事があんだよ。」
「・・・、多分、大丈夫。」
明日は歌の練習だけだったと思う。
もう少しすると新曲発表の宣伝とかで忙しい。
「じゃあ、待ってるから・・・さ。」
「うん?」
グミヤは、また待ってるからな、と言い放って走っていった。
言いたい事ってなんだろう?
気づくと、口の中の飴はなくなっていた。
喉の痛みも和らいで、私は練習部屋に向かった。
「グミーーー!!」
目の前から抱きついてくるリン。
「リンっ?!」
「新曲出るんでしょ!!!おめでとう!!」
「あっ、ありがとう。」
「ねぇ、どんな歌なの?」
すっごくアバウトな質問。
結構、悩んだ。
一言で曲を表すのは至難の技だ。
「なんだろう・・・、恋の歌なんだけど・・・。」
「うんうん。」
「2人共、想いあってるのに恥ずかしくて想いを伝えられない・・・って感じ?」
「・・・へぇ~。」
リンの顔は、すっごくニヤニヤしていた。
不気味に思った私は尋ねる。
「・・・何?」
「い~や~、どこかの誰かさんにソックリだと思ってさぁ~。」
「・・・?」
一体、誰の事を言っているんだろう??
ハテナを浮かべる私を更に笑うリン。
「ねぇ、誰のこと?」
「さぁ??」
「教えてよぉ~!!」
「嫌だ~。」
なかなかリンは言ってくれなくて、私は諦めた。
これ以上は、疲れる。
「あっ、ねぇ、リン。」
「んっ?」
「さっきグミヤから、明日すっごく言わなきゃいけない事があるって言われたんだけどさ・・・
何だと思う???」
「・・・告白とか?」
「なっ!!そんなわけないでしょ!!」
「え~、でもさ、グミは好きなんでしょ?」
「えっ・・・う・・・うん。」
「この際、グミから告ったら?」
「なっ、無理だよ!!!」
パニックで噛みそうになる。
グミヤに告白だなんて、考えただけで倒れそう。
即フラれるに決まってる。
多分、グミヤは私の事、友達としか思ってない・・・、と思う。
「は~・・・。」
「グミ、ここは勇気を出してさ。
このままじゃ、一生友達で終わるよ?」
「・・・うっ。」
「あぁ、もうっ!
明日言わなきゃ、私が言うよ。」
「えぇっ!!ダメ!!!!」
「だったら、言う!!」
言葉に詰る。
どうしてこうなった?
歌の練習に来たつもりが、いつの間にか告白とか。
キャパオーバーしそうな頭。
「でも・・・フラれたら・・・。」
「その時は私が一発、殴ってやるよ。」
「えぇ!!大丈夫?!」
「へっ、私のグミを泣かすなんざ百年早いっつーの!」
「リンーー!!」
リンがもの凄くカッコよく見える。
リンが男だったら惚れてると思う。
「よしっ、じゃあ、頑張れ。」
「え・・・う・・・ん。」
もう強制的なんですね、リンさん。
その日は、よく眠れなかった。
翌日、歌の練習。
内心、ドキドキしながらやってたせいか、何度か歌詞を噛んだ。
そして怒られた。
でも、それさえも耳に入らないぐらい心臓がバクバク。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様~。」
お辞儀して、部屋を出た。
どうしよう、大丈夫かな?
髪の毛を整えて、深呼吸。
意を決して、グミヤの元へ走った。
そういえば、曲の歌詞でこんな言葉があった。
なぜか、印象深く残った。
-3・2・1で、届けよう♪
~END~
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