グミが深刻そうな表情かつ、緊張した雰囲気でチラチラと俺――グミヤと目を反らしつつ見てくる。
反らしていた目が合った瞬間、グミの肩がピクッと跳ねて頬が真っ赤に染まり、パクパクと何か言いたそうに口を動かす。


―――言いたい事があるならさっさと言っちゃえばいいのに。


そうは思うが、ここは流石天ノ弱と言うべきか、全く違う事を言ってしまいそうなので俺は敢えて何も言わずにグミの言葉を待つ。

待つ事数分。

チクタクと時計の秒針がやけに五月蠅く聴こえ始めた頃、グミがやっと決心したように深く息を吐いてから口を開いた。

「あっ、あのねグミヤ、」

声裏返ってんぞ、と心の中で思うが、多分言うとその俺の声も裏返りそうなので、無言で首だけ頷く動作で振る。


「明日、僕、忙しくないんだけど…」


つまりデートしようって言いたいんだろう。多分。
何となくわかる。だって、俺が誘うとするならきっとそんな感じになってしまうからだ。

「だっ、だから、その、もしグミヤがどーしても暇ならっ……えと、駅前の公園で…」

一生懸命目を反らしながら、ひたすら遠回りに言葉を紡ぐグミ。


――俺らは、嫌味ったらしく自分の感情とは真反対の事を言ってしまうのは直ったんだが、正直今でも素直とは言い難い。
なんていうか…凄く、回りくどい言葉になってしまう。
しかも最大限に譲歩して、だ。
長年染み付いた天ノ弱はなかなか消えないらしい。
まぁ、天性の弱虫だからしょうがないと言えばしょうがないけど。

でも、そのせいで周りのカップルのように愛情表現が出来ない事がほんと困る。

はんたいことばでなら伝えられるんだけど、そんな言葉を掛けても罪悪感に苛まれるだけだ。



「……やっぱ何でもない。」

グミの天ノ弱パワーが発揮されたようで、グミは誘うのを諦めたようだ。
ぐっ…俺が頑張るしかないか…。


「俺さ、明日の10時から暇なんだけど。」

……うわー。我ながら回りくどい。全国のカップルでここまで回りくどくデートの約束するやつ何処にいるんだよ。…あ、ここか。
軽く俺が自分を呪っていると、グミが気だるそうな表情で(ポーカーフェイスを頑張ってるんだろう)、


「明日ってさ、エイプリルフールなんだって。関係ないけど」


―――グミの意図が分かった。







【 はんたいことばの愛を大嫌いな君に 】







すぅ、と僕――グミは緑地内独特の爽やかな空気を控えめに吸い込む。

今日は4月1日。世間が言う所のエイプリルフールである。
約束……なのかは微妙なラインだけど、10時からグミヤは多分ここ――駅前の公園にくる。多分これはデート。…多分。
なんか「多分」がやたらと多いけど、それは分かりやすく誘わなかった自分の責任にある。あぁもう…自分がホント嫌になる。

でも、今日一日は違う。

なんていったってエイプリルフール。嘘が重荷にならずに付ける唯一の日だ。


――そう天ノ弱な僕らが素直になれる日。


僕が心の中でガッツポーズをしていると、


「グミーっ!」

ちょっと遠くから聴き覚えのある声。――グミヤだ。
息を少し切らしながら走ってきたグミヤが言う。

「ごめんとか思ってないけどさ、待った?」

いつも通りの回りくどい嘘が入った会話。
でも今日はそれが凄く嬉しい。

「ちょっとは謝ったら?待ちくたびれたよ」

いちいち毒付いて、あぁぁと心の中で自己嫌悪に陥る事もない。
グミヤを傷つけてしまう恐れもないし、とっても幸せだ。

そんな感傷に浸りながら公園内をブラついていると、ボックスカーのクレープ屋さんを見つけた。

「あ、クレープ屋さんだー」

僕が指をさして言うと、

「買いたいなら自分で買えば?」

と、返ってくる。思わず胸が高揚するけど、僕は気持ちだけで十分嬉しいんだ。

「え、さっき待ちくたびれたんだから買ってよ」

僕がそう言うと、グミヤは優しく微笑んで、

「買ってやらねーよ」

クレープを差し出した。

僕の好きな苺味のクレープ。前に言った事を覚えてくれてたのかな。
僕は自然に頬が緩み、


「お礼なんて言わないよ」

クレープに齧りついた。

クレープを食べるためベンチに移動し、グミヤの隣に腰掛けゆっくりと咀嚼していると、グミヤがおもむろに切り出した。


「……あのさ、」

僕は話を聞くために顔を上げた。

「何?」

「今日はさ、いつも素直だからなかなか言えない事を言おうと思ってたんだ」

相槌で首をこくんと縦に振る。


「…俺、グミの事が世界で一番大嫌いだよ」

普段は絶対に言わない真っ直ぐな言葉に顔が火照っていく。


―――もぉ…反則だ。


胸の内でうっかり赤くなってしまった自分に言い訳をしながらも、僕も今日だけちゃんと言える、だからこそ今日伝えるべき言葉を口にする。


「僕も、大嫌い」

「…誰よりも?」

「うん。誰よりも。…後、グミヤに負けないくらい」

「何言ってんだよ。俺の方が嫌いな自信あるけど?」


ちょっと照れながらはにかむグミヤの顔を見て、僕は幸せだなぁと実感して、一緒に笑った。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【天ノ弱番外編】はんたいことばの愛を大嫌いな君に【4/1ネタ】

前からやりたかった天ノ弱番外編のエイプリルフールネタです。
エイプリルフールな感じで読んで頂けると幸いです(*・ω・)

前のページでエイプリルフールの魔法が解けたバージョンがあります。
…が、糖分多めなので注意←

天ノ弱の二人は付き合っていますが、まだ簡単に素直になれません(という設定(((ぇ;
なのでこういう日の力を借りて存分にいちゃいちゃしてほしいです(´∀`*)
でもそういう算段で考えると彦星と織姫並みにいちゃつける日が無いな…←
あれですかね、この日をきっかけに自然と素直になっていけるのでしょうか。…寧ろそんな感じで素直になっていく二人のお話誰か書いて下さいお願いしまs(((


そういえば、今日はテトさんの誕生日ですね!((殴
うっかりミヤグミの事しか考えて無くて祝えなかったけどおめでとー!←←

閲覧数:597

投稿日:2012/04/01 11:26:33

文字数:2,142文字

カテゴリ:小説

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