ついにこの日がやって来た。

「じゃ、行ってくるわ。留守番宜しくなー」

レンが家を出てから少しして、あのサイドテールが家を出て行くのを、あたしは一見気のない台詞で見送った。

「はいはーい……行ったな……」

あの金髪が見えなくなったのを確認して、あたしはすぐさま用意していたコートを纏い、サングラスをかけ、ヒゲを付け鏡を確認した。

「よし!」

我ながら完璧な変装だ。少し暑いけどガマンガマン。

「あたしに黙ってデートなんて、レンもいつの間にかやるようになったわね……でも、レン如きにあたしの目がごまかされると思ったら、大間違いなんだから!」

高らかに言い放ち(もっとも聞いてる相手もいないけど)、あたしは二人のデートを監視すべく出発した。

◆◆◆

「むむむ……」

今あたしの視線の先には、二人の男女の姿がある。勿論レンと金髪だ。

(あのサイドテールめ、レンをさんざん待たせた上、なんてことを……)

待ち合わせ場所は(レンの携帯を盗み見て)知っていたので予め先回りして見ていると、金髪が急に後ろからレンに抱きついたのだ。
かわいそうなレンはびっくりして大声を出してしまった。

「あたしもやりた……じゃなくて、許せないわ……」

「あ、リンちゃーん!」

「みっくみくー!」

あたしが双眼鏡を構えてモヤモヤしていると、頼もしい仲間がやってきた。はちゅねにミクちゃんだ。
二人共最近になって知り合ったのだけど、ウマがあうので良く遊びに行ったりもしている。

「しっ!静かに!これはミッションなのよ!向こうに気づかれちゃいけない!」

「あ、ごめん」

「みくっ」

「もう、気を付けてよね!まずはこれで変装して!」

あたしはリュックの中から二人分の装備を取り出した。

「え~……でもリンちゃん、こんなのかっこ悪いよ……」

「ぐずぐず言わない!ほら、はちゅねはもうノリノリだよ!」

「みっく~♪」

「う~……恥ずかしい……」

こうしてあたし達は、二人を追跡すべく出発した。

◆◆◆

数時間後……

「うぇ~……」

あたしは激しい乗り物酔いに悩まされていた。

「リンちゃん、やっぱりジェットコースターに乗るのは止めて下で待ってた方が良かったと思うよ……」

「うん……これからはそうする……」

ミクちゃんが持って来てくれたジュースに口をつけた。
金髪め……なんであんなに絶叫系マシンにばかり乗るんだ……レンを心停止させて殺そうとしてるに違いない!

「うーん……でもレンくん、普通に楽しそうだよ?」

「みくみく」

「……」

確かに双眼鏡の先には、楽しそうに昼食を取る二人の姿が見える、けど……

「……あっ!あの女レンのジュースを奪い取った!やっぱり駄目よ!レンは年上に憧れを抱くフィルターに惑わされているんだわ!!」

「そうかなあ……」

「そうよ!あっ、移動するみたいよ!あたしたちも行くわよ!」

「うん……あれ?はちゅねは?」

そう言われてみると、はちゅねの姿が見えない。

「みっくみく~♪」

見ると、レン達の近くの屋台で売っているネギクレープなるものを買う列に並んでいる。

「ちょ、はちゅねなにやってんの!」

「そうだよ!はちゅね、お金がないとクレープは食べられないんだよ!」

「あんたも目的違うでしょ!ちょっと!」

飛び出したミクちゃんを追ってあたしも思わず飛び出してしまった。

「げ、リン!?」

「うわちゃあ~……」

「あ……」

そして、あたしは過ちに気づいた。

「……っ!」

「おい、リン!」

あたしは走った。レンから逃げるように。
罪悪感と恐怖に追われ、ただ闇雲に走った。

「はぁ、はぁ……うわっ!」

「リンちゃん!」

足元の石につまづいて転んでしまった。ミクちゃんに捕まったあたしの喉から嗚咽が漏れ出す。

「う、う……」

「リンちゃん、ごめん!わたしのせいで……」

「違うよ……っ、本当に酷いのは……っ」

あたしの方なんだ……

「レン……っ、あたしを見た時、凄い表情してた……っ」

あの時のレンの顔に浮かんでいたのは、驚き、そして、拒絶の表情だった。

「レン……っ、前にあたしと離れ離れになりそうな時に、必死に一緒に居られるよう、頑張ってくれて……っ、凄く、嬉しかったっ……だから、レンが、変な女の子にっ、捕まっちゃいけないと思って……でも、余計な事だったんだ……レン、きっと、あたしの事嫌いになった……っ!」

「そんな事、ないよ」

「え……」

気づけば、あたしはミクちゃんに抱きしめられていた。

「わたしのマスターはね、いつも余計な事ばっかりして、ハク姉やわたしを困らせるの。でもね、わたしもハク姉も、マスターの事が大好き。だから、レンくんも、ちゃんと謝れば許してくれるよ」

「そう、かな……?」

「うん、絶対そう!」

「根拠は?」

「ない!」

「っふふ……」

胸を張って言い切るミクちゃんに、あたしはいつの間にか笑顔にさせられていた。

「そうそう、女の子は笑顔が一番って、マスターも言ってたよ!」

「リーン!」

「レンくん、来たみたいだね。リンちゃん、頑張って!」

ミクちゃんが下がると、走ってくるレンが見えた。

「リン……」

「レン……」

怖かったけど、もう逃げない。あたしは、レンの目を真正面から見つめた。

「「ごめんっ!」」

次のあたしたちの動きは完全にシンクロしていた。下げた頭がぶつかって視界に星が飛ぶ。

「うぅ……ご、ごめんなリン……最初からお前も誘うべきだったよな……チケットの一枚くらい安いもんだもんな……」

「うぅ……え?デートじゃなかったの?」

「ネルの奴が勝手に言ってるだけだよ。誘われなかったからこっそりついて来たんだろ?」

「え……?あたしはてっきり……」

その後、レンは申し訳無さそうに事情を説明した。
……なんだ、あたしの勘違いだったのか。

「本当にごめんな、リン」

「ううん、あたしこそごめんね?」

「ふふふ……良かったね、二人共」

謝りあうあたしたちを、ミクちゃんが微笑ましそうに、金髪……ネルが達観したような眼差しで見ていた。

「全く、アタシってばなんでいつもこういう役回りになっちゃうかな……ま、それはおいといて、仲直りした所で、ジェットコースター巡りと行きますか!!」

「お前いい加減にしろよ!?」

「あたしも勘弁……」

「ちぇー、なんだよノリ悪いなー」

「ふふ……あれ?何か忘れている気が……」

「……!そ、そうだ、はちゅね!!」

「た、大変だー!!」

その後結局、ネギクレープが食べられず暴走したはちゅねを止めるのに精一杯で、あたしたちはろくにアトラクションに乗れなかった。
でも、あたしにとってこの日の思い出は、絶対に忘れられないものになったんだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

短編6~鏡音リンの恋敵?追跡~

最近短編というタイトルでいいのか悩み始めたこのシリーズ、いよいよ第六話まで来てしまいました。

今回は予告通りリン視点……この短編内のミクとどう差別化を図るかが自分の中のテーマでした。どうでしょう?

そして作者の想定以上に広いはちゅねの行動範囲←

閲覧数:398

投稿日:2011/05/17 09:22:34

文字数:2,842文字

カテゴリ:小説

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  • ピーナッツ

    ピーナッツ

    ご意見・ご感想

    初めまして、ピーナッツと申します。

    遊園地編、短編5、6と読ませていただきました。
    ほのぼのしてていいですね。頭ゴチン最高です。
    遊園地編が特にメッセージが多いのはレンきゅん人気ですかw

    2011/09/11 02:59:02

  • 絢那@受験ですのであんまいない

    ネル!お前はもう人じゃない!なんでそんなに乗れるんd(ry

    ミク姉いい人ですね…思わずうるっときちゃいました。
    シンクロして謝るって、さすが鏡音ですね。可愛い!

    リンちゃんwww女の嫉妬は怖いですねwwwまあ私も女ですけどwww

    2011/05/17 16:08:04

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      ネル曰わく、落ちる時に叫ぶのが凄いストレス発散になるそうで←

      うおお!こんな文読んで涙目になってくれてありがとう!←愛言葉?
      はい、やっぱりあの二人以上に相性のいいペアはそうそういないんですかね……ネルレンで行こうと思ったら何時の間にか移行してました……ごめんねネル←

      そうですか!自分が男なのでどこまで女性の心境を再現できるか不安でしたが、女性の方にそう言って頂けると嬉しいです!

      2011/05/17 16:58:11

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