焔姫2(仮)

1
氷雪をたたえる山脈のふもと、干上がった荒野にある小さな都市国家。
その街中を一人の青年が歩いている。他の者とは明らかに違う蒼を基調とした上質で典雅な衣装を身にまとい、業物らしい剣を腰に提げている。
高貴な人物であることに疑いはないが、彼は一人で、誰も帯同していない。ゆったりとした足取りで大通りを歩いているが、その実一瞬たりとも気を緩めることがない。
街の人々に時おり、カイ王子、と声をかけられると、青年は片手を上げて、おう、と気さくに言葉を交わしていた。
一人で出歩いてたら、近衛隊長からまた怒られますぜ、と露店の主人に言われると、あいつが俺より強けりゃ、素直に護衛をつけるさ、と返している。
よく街中を歩いているせいか、王子は人々に慕われているようだ。
王子が王宮に帰ってくると同時に、正門が勢いよく開け放たれる。中からは慌てた様子の近衛兵が数人。彼らは青年を見るなり駆け寄ってくる。
彼は頭をかきながら、あー、また隊長が怒ってんのか、とつぶやくが、近衛兵たちは、カイ王子、姫が王宮から姿を消されたのです、と口々に叫ぶ。
自分じゃなかったのか、と内心ほっとしながら、メイが? と問う。
慌てる近衛兵たちを落ち着けて話を聞くと、西方からの使者との謁見に同席したあと、姿をくらませたのだという。
はあん、となにか感づいたカイは、まあ心配すんな、と言うが、近衛兵は、これが心配せずにいられますか、カイ王子と違って姫は護身の武器も持っていないのですよ、と狼狽している。
メイは王宮にいるよ、と言うが、我々はくまなく探したのです、と兵士たち。耳をすませ、とカイ。どこかから、かすかに鼻歌が聞こえる。それに、兵士たちは顔を見合わせる。
な、メイは王宮にいるだろ、俺が見つけてくるから、お前たちは王宮の警護にもどれ、とカイ。



2
王宮の屋根のてっぺんに、一人の少女が腰かけている。
少女が身にまとうのは、青年のものとよく似た、しかし紅を基調とした衣だった。
眼下には王宮とその下に広がる都市国家の街並み。その先にははるか遠くまで続く荒野だった。雲ひとつない空ではもう日が傾き始めており、赤茶けた土壁と白い石壁に、深い陰影を作り出している。
鼻歌で旋律をなぞっているのは、少女の祖父が作った歌だった。
やっぱここにいたか、と背後から青年の声。少女は振り返りもせずに鼻歌を歌い続けている。
青年は少女の隣に座り、歌が終わるまで静かに眼下の光景を一緒に眺める。
姫が行方不明だって、近衛が騒いでたぞ、と少女が歌い終えてから告げる。
そんなことわかってる、でもまだここにいたい、と言いたげに、少女は青年の肩に頭を預ける。
青年にはちゃんと伝わっているらしく、特に催促することもなく、二人で眼下を眺め続けた。
使者はなんて言ってたんだ、と問うと、西方の皇帝が没したそうよ、と答える少女。青年が、殺されたのか、と問うと、毒殺だったそうよ、争乱が起きるでしょうね、協定も破棄されて、この国もきっと巻き込まれる、と少女。青年も表情が険しくなる。
西方との協定も、二〇年しか保たなかったか、と青年。二〇年も保ったのが奇跡だわ、この平和も、せいぜいあと数ヶ月が限界ね、とつぶやくと、少女は立ち上がる。
降りましょ、皆、心配してるんでしょ、と少女。その瞳は不穏な未来を予期してか、かすかに揺れている。
心配すんな、お前は俺が絶対に守ってやるよ、と青年。
夕日を背景に、かろうじてほほえむ少女。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

焔姫2 プロット ※2次創作

「焔姫」の完結より丸一年経過の記念に。

プロットで上げてる、という所で察して下さい。
「ああ、こいつ本文書く気ねーな」と(笑)

続きは前のバージョンにお進み下さい。


1―2
この二話でプロローグのイメージ。
ラストは、二人の姿から夕焼けに照らされた都市国家、そしてその先の荒野の遠景へと画面が引いて、そこでタイトルロゴが出たら格好いいよなぁ、とか妄想してました。

今回の続編は、前作のおまけ、エピローグ後のExtraからふくらませたオリジナルストーリーです。
前作「焔姫」は、これまでの2次創作と違い、「焔姫という曲の成立過程を考えた物語」という、ちょっとイレギュラーな書き方をしました。
この歌詞をカイトが考えた、と仮定すると、また違った視点で歌詞を捉えられるのではないかと思います。
『紅蓮を掲ぐ者よ 愛しきその声で我が名を謳うなら
 その意志に番えよう
 焔を抱く者よ お前のその心が移ろう事なくば
 永久に番えよう』
という最後の歌詞なんて、「カイトがなぜこんな歌詞にしたのか」とか考えると、かなり熱烈なラブレターにしか見えませんし。
……そりゃ、こんなラブレターを送るだけ送って「都市国家の宮廷楽師を続けるつもりはない」とか言われたら、焔姫も怒るし拗ねるよなぁ(笑)

舞台のイメージは、7、8世紀頃の中東でした。
この時代設定は、「干上がる大地を統べる焔姫」という歌詞から逸れないように、という意図によります。「豊かな水源の多い日本で、干上がった土地に都市が栄えるとは思えない」と思い。
今思えば「昔豊かだったけど、最近雨が減って干上がってきた」という設定にすればよかったのかなと。反省。

東西をつなぐ交易路がシルクロードで、西方の大国はイスラム帝国をイメージしていました。
東方(現在の中国)との交易路の途中で地下水脈がある場所、とすれば干上がった荒野に都市国家があっても違和感ないかな、シルクロードの要所なら近隣諸国とのいざこざもあり得るし、と思い。
西方の大国は、勢力図を調べた限りではムハンマド死後となる正統カリフ時代あたりかな、とか調べたんですが、結局それ以上の時代考証はやめて、大雑把なイメージで書きました。
都市国家内での行事(朝夕の祭事とか鎮魂の儀とか)を、時代考証無視して決めたので、時代を明記しなくてよかったなぁ、とか思ってます。

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投稿日:2016/05/31 21:54:52

文字数:1,443文字

カテゴリ:小説

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