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焔姫2(仮)
1
氷雪をたたえる山脈のふもと、干上がった荒野にある小さな都市国家。
その街中を一人の青年が歩いている。他の者とは明らかに違う蒼を基調とした上質で典雅な衣装を身にまとい、業物らしい剣を腰に提げている。
高貴な人物であることに疑いはないが、彼は一人で、誰も帯同していない。ゆったりとした足...焔姫2 プロット ※2次創作
周雷文吾
エピローグ
王宮の奪還より、早二ヶ月が経とうとしていた。
王宮二階の広間には、剣の傷跡や落としきれていない血痕が残っており、あの時の凄惨さを物語っている。
自らがここで宮廷楽師として召し抱えられたのが、もう一年も前の事になるとは、男には到底思えなかった。あっという間に過ぎた怒涛のような毎日に思...焔姫 47 ※2次創作
周雷文吾
第十章 06
「カイト!」
焔姫が男へと駆け寄ろうとするが、元近衛隊長が剣の切っ先で制する。
「アンワル……なぜじゃ」
「姫。貴女には……分からないでしょうね」
理解出来ずに困惑する焔姫に、元近衛隊長は悲しそうに告げた。
「密告者がおるやもしれぬとは思っておったが……味方を売り渡したのも、汝か?...焔姫 46 ※2次創作
周雷文吾
第十章 05
「な……んだとぉ?」
進む通路の先からそんな怒鳴り声が聞こえてきて、焔姫たちは顔を見合わせる。
「この声は……」
「……ハリドじゃな」
男の疑問に焔姫もうなずき、元近衛隊長もまた呼応した。
「向かいましょう」
「ああ」
三人は足音を忍ばせて暗がりを歩き、声のもとへと近づく。
「…...焔姫 45 ※2次創作
周雷文吾
第十章 04
「アンワル」
階段を駆け下りながら、焔姫が元近衛隊長の名を呼ぶ。
「はっ」
「ナジームは……まだ、軍におるのかえ?」
「そのはずです。辞したとの話は聞いておりません」
「ならば……ハリドはナジームの所じゃな」
焔姫は階段を降りきると、軍本部の兵舎がある方へと向かう。
「メイ……姫。...焔姫 44 ※2次創作
周雷文吾
第十章 03
「……剣を抜け。戦じゃ」
焔姫の声に、皆が剣を抜く。
階下ではすでに怒号や悲鳴、剣戟の音が響いていた。こうなった以上、もはや奇襲という方法には意味がない。
「標的はハリド・アル=アサドただ一人じゃ。この混乱に乗じて仕留める。邪魔する者には容赦をするな」
「はっ」
皆の声が小さく唱...焔姫 43 ※2次創作
周雷文吾
第十章 02
焔姫が再び立ち止まる。
声は発しない。だが、圧し殺しきれずに全身から漏れ出す殺気がありありと伝わってくる。
前方をよく見れば、かすかな光が見える。どうやら隠し扉に開けられたのぞき穴なのだろう。暗黒に慣れた身には、国王の居室へと差しこむわずかな月明かり程度でも、ずいぶんと明るく感じ...焔姫 42 ※2次創作
周雷文吾
第十章 01
稜線に氷雪をたたえた峻厳な山脈が、月明かりの下にたたずんでいる。
山脈には草木などほとんどなく、あれた岩肌がのぞいている。
そんな山脈の中腹をゆく一行があった。その数は十二人。皆、山を越えるための装備は持っていない。
身につけているのは革の鎧。手にしているのは剣だった。
山を...焔姫 41 ※2次創作
周雷文吾
第九章 02
男と焔姫が、真夜中の街を走る。
民家の屋上を次々と渡り、二人はただ遠くを目指す。
やがて近衛の気配が感じられなくなったのを確認して、二人は建物の上から路地へと飛び降りた。
「……くっ」
「メイコ!」
飛び降りた拍子に肩を押さえる焔姫に、男も立ち止まって心配そうに彼女を見る。
...焔姫 40 ※2次創作
周雷文吾
第九章 01
あれから、三週間が経過した。
とある民家の屋根の上で、焔姫と男は星の輝く夜空を静かに見上げていた。
二人の顔からは憔悴の色が見え隠れしている。近衛兵たちを避けて民家を渡り歩く生活が、二人の神経をすり減らしているのだ。
「……静かな夜じゃな」
「ああ」
「あと数刻後には王宮に攻め込...焔姫 39 ※2次創作
周雷文吾
第八章 05 前編
「楽師殿。私はもう近衛隊長ではありませんよ。近衛は辞しました。今では近衛のほとんどが賊だった者たちです」
「なるほど……ですが、それを言うなら私ももう楽師ではありませんよ」
二人とも、お互いの立場の変化に苦笑いしか出てこなかった。
「……それならば、余ももう姫ではないな?」
「...焔姫 38 ※2次創作
周雷文吾
第八章 04
さらに三日が経過した。
「そろそろ弾圧が始まるじゃろう。余をかくまっておる民は重罪人じゃとな。あ奴らの思考を読むのは容易い。余が見つからぬ現状に業を煮やした奴らは、余が姿を表すまで無辜の民を殺し続けると言いかねん」
常に移動を繰り返していながらも、なんとか起き上がる事が出来るほどに...焔姫 37 ※2次創作
周雷文吾
第八章 03
それから三日が経過した。
街は厳戒態勢が敷かれ、宰相と元貴族からなる新政権は血眼になって焔姫の身柄を捜索していた。
広場で宰相に刺された国王は、その数時間後に死去したという。あとは焔姫が捕まってしまえば、名実ともにこの国は宰相と元貴族の手に落ちる。
男は街を出る事をやめた。
...焔姫 36 ※2次創作
周雷文吾
第八章 02
「早く、中に入んな」
「……申し訳ありません」
男は焔姫とともに民家に入る。
家主は外の様子をうかがい、誰にも見咎められていない事を確認すると戸を閉めた。
「……何言ってんだ。この国の人間なら、誰だって姫様の味方だ。謝る事なんてねぇよ」
「すま……ぬな。……恩に切る」
焔姫が荒い...焔姫 35 ※2次創作
周雷文吾
第八章 01
焔姫が斬られた。
男には、それを信じる事がどうしても出来なかった。
国王が刺され、気を取られたところに不意打ちで背中を斬られた焔姫は、手にしていた剣を取り落としてしまう。
かしゃん、と乾いた音をたてて焔姫の剣が台の上に落ちる。
その音が、皆の緊張の糸を切った。
民衆は我先に...焔姫 34 ※2次創作
周雷文吾
第七章 05
翌朝の王宮前広場は、街中から集まった民でごった返していた。
皆、この国を窮地におとしいれた罪人を見ようとやってきているのだ。
広場の奥、王宮入口のすぐ手前には、簡易的な台がしつらえてある。今日のために、男が去ったあとに用意されたのだろう。
台の奥には国王や宰相が並び、手前には元...焔姫 33 ※2次創作
周雷文吾
第七章 04
翌朝、男は数少ない荷物を手に王宮前の広場にやってきていた。
つい先ほど、国王には挨拶を済ませてきた。あとはこの王宮から去るのみだ。
「考えを改める気は……ないのじゃな」
男の背後、王宮の入口から声が届く。
それは、最早言うだけ無駄だと、あきらめた声音だった。
「姫……」
男は...焔姫 32 ※2次創作
周雷文吾
第七章 03
男は、自室で荷物をまとめていた。
しかし、荷物といえるほどの荷物はない。せいぜい弦楽器くらいだ。
もともとその日暮らしの吟遊詩人で、着の身着のままですごしていた。この王宮での暮らしで使っていた物は、そのほとんどが宮廷楽師として与えられた物だ。
それらを持っていく事は出来ない。そ...焔姫 31 ※2次創作
周雷文吾
第七章 02
「……なんじゃと?」
焔姫の言葉には、わずかに怒気が含まれていた。
男は頭をたれたまま、震えそうになる声を必死に整える。
「……いくら不問になったとはいえ、一度死罪を勧告された身です。このまま王宮に留まる事は出来ませぬ。それこそ、この国のためにはなりますまい」
男の言葉に、焔姫は...焔姫 30 ※2次創作
周雷文吾
第七章 01
賊の奇襲から二日が経過した。
王宮内の被害が甚大だった事もあり、生き残った者はその対応に追われた。結果、男の処遇は数日先延ばしにされている。
近衛隊長は無事だったものの、近衛兵は全体の半数にもおよぶ者たちが殺されていた。
王宮内の文官や侍従といった兵士以外の者たちも、三分の二が...焔姫 29 ※2次創作
周雷文吾
第六章 03
「……こやつらを牢へ。他の者は賊が王宮内に残っておらぬかくまなく探すのじゃ。終わり次第、街中の捜索も行うように。不審者は残らずひっ捕らえよ」
賊を討ち取り歓声を上げる兵士たちとは対照的に、焔姫は喜ぶ事もなく、笑みを消すと兵士たちにそう告げる。
「姫の指示を聞いたな? 今ここにいる者は...焔姫 28 ※2次創作
周雷文吾
第六章 02
開け放たれたままの扉を抜け、焔姫が国王の居室へと入る。
部屋は広かった。
四、五十人はゆうに入れる広間には及ばないが、それでも二、三十人が入っても余裕があるほどに広い。
部屋の奥に、五人ほどの賊が集まっていた。広い寝台の脇には、拘束された国王の姿も見える。
賊の一人が、膝をつ...焔姫 27 ※2次創作
周雷文吾
第六章 01
王宮の廊下を、焔姫が走り抜けていく。その後ろを、男は必死に追いかけていた。
「ひ、め……これ、は……いったい……?」
息が続かず切れ切れになりながらも、男は焔姫に尋ねる。
「……余にも分からぬ。地下の祭壇から出てきてみればこの有り様じゃ。このうつけどもは一体どこから湧いてきたのやら...焔姫 26 ※2次創作
周雷文吾
第五章 02
それから三日間、男は幽閉されて過ごした。
男には何がどうなったのかは分からないが、幽閉されたのはなぜか牢ではなく宮廷楽師となって以来使い続けていた自室だった。
しかも、弦楽器の他に高価な羊皮紙まで用意されているのだから、男の幽閉に関しては焔姫だけでなく、国王の意向があったのではな...焔姫 25 ※2次創作
周雷文吾
第五章 01
「罪人、元宮廷楽師カイト。汝の罪は国家反逆罪である。我が国の姫を籠絡せしめ、国家に不用意な混乱をもたらした罪は重い」
王宮の広間で、宰相がよく通る声で罪状を述べている。
初めて宰相と男が会話をしたのは、男が宮廷楽師として召し抱えられた翌日の事だった。あの時、男はこの宰相の事を人のよ...焔姫 24 ※2次創作
周雷文吾
第四章 06
駆け寄る近衛兵たちの様子に吟遊詩人は演奏をやめ、踊り子も周りの者たちも踊りをやめて不安そうに近衛兵を見た。
「……姫が王宮から姿をくらませておられる。誰か、焔姫の姿を見た者はおらぬか!」
近衛兵の言葉に、周囲の者たちは騒然となった。
「姫様が?」
「……そんな馬鹿な」
「姫様……」...焔姫 23 ※2次創作
周雷文吾
第四章 05 前編
その後まもなく、二人は街の大通りを歩いていた。
「……」
「……こちらです」
男は焔姫の手を握って進む。時折彼女の顔色をうかがいながら、丁寧に声をかけて進んでいく。
軍の任務で外へと出るために街を通りすぎる事しかしない焔姫にとって、人々で混み合った雑踏を行く事は初めてだろう...焔姫 22 ※2次創作
周雷文吾
第四章 04
男の行動がよほど意外だったのか、焔姫は男の考えていたよりもずいぶん従順についてきていた。いや、一切逆らう様子を見せなかったというのが正確だろう。
男は自らの居室へと向かうと、自らの服をあさり、民が着ている装飾のない平凡な平服を引っ張り出す。
「お手数ですが、まずはこれに着替えて下さ...焔姫 21 ※2次創作
周雷文吾
第四章 03
焔姫は、それからは一度も振り返る事なく歩いていく。その後を、男は早足で追いかけていた。
いつもとは違う状況だったが、その構図という意味ではいつもと同じと言えた。焔姫と男が歩いていく途中ですれ違う者たちはそれこそ何人もいたわけだが、彼らは二人の様子が普段と違うという事に気づきもしなか...焔姫 20 ※2次創作
周雷文吾
第四章 02
「なれが演奏で失敗を繰り返すとは、珍しい事もあったものじゃの」
祭事が終わったあと、王宮の広間で男はそう釘を刺される。
「……申し訳ありません」
「何か、考え事をしているようじゃったが」
焔姫の視線に、男は肩を縮こまらせる。
「それは――」
「話してみよ」
「……」
そう言われて...焔姫 19 ※2次創作
周雷文吾
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