5-5.
「好きです」
たった四文字のその言葉を伝えることがこんなにつらいだなんで、私は全然しらなかった。
だって、毒リンゴを食べて眠ったままの白雪姫に、王子様はなんの気後れもなくキスしてたし、ガラスの靴を履いたシンデレラには王子様がみんなの前で堂々とプロポーズしてた。ロミオとジュリエットだって、読んでるこっちが恥ずかしくなるくらいのセリフがたくさんある。
それに比べたら、私が言おうとしてる言葉はものすごく短くて、そっけないくらいにも感じる。
このたった四文字の言葉を伝えられなくて、私はすごくつらかった。でも、伝えられないのは確かにつらいけれど、その言葉を伝えるのだって結構つらい。
どっちもつらいから、余計悩んでしまって苦しくなる。それくらいわかってるつもりだけど……わかってても、つらいんだもの。
でも、今日は言わなきゃ。私の気持ちをちゃんと伝えて、海斗さんの気持ちを確かめなきゃ。
私が図書館にやってきたときには、海斗さんはもう来てた。図書館の奥の方の席で、静かに本を読んでいる。海斗さんが読んでいるのは、私が読むような小説じゃなくて、物理だとか科学だとかの専門書みたいだった。海斗さんに気付かれないように後ろからのぞきこむと、海斗さんのめくるページは、私にはさっぱり分からない数式でうめつくされている。
「難しい本、読んでるんですね」
「うぉっ! ……未来ちゃんか、びっくりした」
図書館内に響く少し大きな声を上げてから、こっちを振り返る海斗さん。ちょっと驚かせ過ぎてしまったみたい。
「あ……ごめんなさい」
ちょこんと舌を出して謝ると、海斗さんは苦笑して首を横に振った。
「んーん……未来ちゃんもお茶目なところがあるんだね」
「……嫌でしたか?」
「俺、嫌な顔してるように見える?」
「いいえ、ちっとも」
ふふ、と笑って私は海斗さんの隣りに座る。
――すると、海斗さんがじっとこっちを見つめてきた。
「え? あの……海斗さん?」
気恥ずかしくなって名前を呼ぶけど、海斗さんは相変わらずじっと見つめてくる。
「あれ……なんか、変わった?」
「え? なにがですか?」
早速、愛に教えてもらった成果があったんだけど、恥ずかしくて、ついとぼけてしまった。
「いや……三日間会わなかったからかなぁ。なんだか、未来ちゃんが大人っぽくなった感じがする」
「そ、そうですか?」
嬉しいんだけど、面と向かってそんなこと言われるのは、なんだか恥ずかしい。両手をほほに当てると、思ったとおりすごく熱くなってた。
「ちょっと待ってて。本、返してくるから」
「あ、はい。それじゃあ待ってます」
海斗さんは立ち上がって手を振ると、本棚の奥へと歩いて行く。
――今日は、ちゃんと言わなきゃ。
今のこの幸せだけで満足してちゃダメだ。こうやって海斗さんと話してるだけでも十分幸せだからって、臆病になっちゃダメだ。
――わがままだって言わなきゃ。
そういえば、学園祭の前日に愛にそう言われたときも、私が座ってたのはこの席だったな。
やせ我慢するの、未来の悪いクセ……か。
イヤな想像をしてしまって、それを必死に頭からふり払う。
海斗さんにフラれて、なんでもないように愛想笑いを浮かべてる――そんな自分の姿。
――イヤだ。そんなの、絶対イヤ。
そんな風になんてなりたくない。
うつむいて、私は自分で自分を抱き締める。
弱気になってちゃダメだ。そんなことわかってる。わかってるけど……わかってても、だからって、そんなに簡単になんとかできるわけがないじゃない。
その漠然とした恐怖に、自分を抱き締める両手の力が自然と増す。
と同時に、肩をポンとたたかれた。
「未来ちゃん大丈夫? 顔、真っ青だよ」
ハッとしてうつむいていた顔を上げると、いつ戻って来ていたのか、すぐそこに、心配そうな顔をしたあの人がいた。
耐えられなかった。
このままの関係は、確かに幸せだけど……でも、耐えられない。海斗さんがいついなくなってしまうのかとビクビクし続けるなんて、つらすぎる。だから。
「――海斗さん」
「……?」
「私……海斗さんに、伝えなきゃいけないことがあるんです」
ロミオとシンデレラ 25 ※2次創作
第二十五話。
書く前は、告白するところは一話でさくっといこうかなと思っていましたが、未来嬢の気持ちを考えれば考えるほど、長くなっていってしまいました。
自分でも、書きすぎなのかなと思います。
もっとライトに書けるようになりたいな、と思ってやみません。
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