一見、何の変化も見られない双子。これから何が起こるのか、キカイトには予想すら立てられなかった。
「生きるって大変ね…」
眠りから醒めたリンの第一声だ。
「あぁ、生きるって大変だ…物を食べなくてはいけないし、休むために寝なくてはいけないし、嫌だと思っても日々働かなくてはならないし」
「働けど働けど、我が暮らし楽にならず。ってね。死ぬのは嫌だけど、何で生きていなくてはいけないのかしら?」
リンのぼやきに応じるレン。更に答えるリンとのやりとりはあまりにも感情の籠もらないとても若者の台詞とは思えない悲観的な物だった。
「生きているから考え、悩み、苦しむのよ。何故生きなくてはいけないの?私達はここで多くの人を見てきたわ。みんな辛そうにしているの。生きているから辛いんでしょ?」
少女の精神崩壊。明らかに普通ではない子供らしいが子供らしくない発想にキカイトは思わず目を背けた。
「ねぇ、どうして私を起こしたりしたの?死ぬのは怖い。でも、せっかく死ぬチャンスがあったのに、どうして私はまた生かされなければならなかったの?」
無意識に逃げようとするキカイトにリンは無垢な瞳で投げかける。怒っているわけでも、責めているわけでもなく、ただ単純に聞きたいだけのようだ。
「…生きる事は確かに辛くて大変な事かもしれない。だけど、生きるって素晴らしい事なんだよ。生きているから僕らは今こうして話す事ができるし、出会う事ができたんじゃないか」
「苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。それがあんたの本心?なぁ、俺らの仕事は弔いなんだよ。弔いが終われば俺らは何もする事がない。俺らは何をして生きれば良い?俺らは何の為に生きれば良い?」
咄嗟の事でキカイトは常識的な事を口走った。レンはそれを見逃さなかった。すかさず責めにまわるレンにキカイトは困った顔をした。
「ほら、やっぱり…所詮他人事だよ。俺らは世間から見放され、見捨てられたアンドロイド。生きる価値もなければ存在価値さえないんだ」
「それは違うよ。誰にだって生きる権利はある、存在する権利はある。価値なんて他人の評価じゃなく、自分で上げて行くものなんじゃないかな?君達は後ろばかり見て、前を見ようとしていない。目の前がどんなに真っ暗でも、きっと光はどこかにある。まだ若いのに希望を捨てちゃいけないよ。ね?あまり悲しい事を言わないで。せっかく出会えた、僕らは兄弟だろう?」
世捨て人の嘆きは絶望。捨てられた悲しみを知るキカイトだから、弟達の嘆きが分からないでもなかった。キカイトは過去の自分を重ね合わせて熱っぽく話した。
「キカイト、それがあなたの答えね?…」
「え…?」
急に様子の変わったリンにキカイトは驚いた。心なしかレンの様子も優しげに変わっている。
「あなたは私に会いに来てくれた。その事だけで嬉しいの。でもね、私はどうしてもあなたの本音が聞きたかったの」
「な、何を…?」
様子のおかしい妹にキカイトはたじろぐばかりだ。
「結果的に私はあなたを捨ててしまった。あなたの為と偽って、私は自分勝手にあなたを捨ててしまったのね。あなたは私を怨んだと思うわ」
「…まさか、あなたは…」
息を呑んだ。俄に信じがたい事だが、この感じに覚えがある。キカイトは懐かしい感覚を味わった。
「あぁ、マスター。何処へ行かれたのですか?突然居なくなられたので心配しました。僕があなたを怨むなんてとんでもない。僕の方こそ、あなたに不要だと思われたのだと思って…」
すれ違い、葛藤。あらゆる想いが交差して長い月日をかけてようやく辿り着いたこの場所で、キカイトはようやく探していた物を見つけた気がした。
「…ごめんね、キカイト。でも私はあなたのマスターじゃない。私はあなたの妹。この記憶はレンの覚醒で解放した、ただのメモリーにすぎないわ」
感動の再会に水を差すようにリンはキカイトを突き放した。
「…何故…」
傷心のキカイトは呆然とただリンを見つめた。
「認めろよ、リンを。こいつはお前の妹なんだよ」
リンを守るようにレンが割って入った。
「レン、ありがとう。兄さん?私はあなた言うマスターの記憶を持っている。でも、私はリン。あなたの妹。思い出話ならできるけど、あなたのマスターにはなれないわ」
かつてキカイトの主人が領主とのやりとりでキカイトを止めたように、リンも熱くなるレンを片手で制した。
リンはかつてのキカイトの主人のようにキカイトを優しく諭した。
もし涙があったなら、キカイトは今頃涙を流していたに違いない。
壊れかけた心、荒ぶる感情。キカイトの中に暴走のエラーが浮かんだ。
「…そうだね。ごめんね、リン。お兄ちゃん、どうかしていたよ。君は僕の大切な妹だ。生きる事が辛い事だとしても、これから先を長く生きればきっと楽しい事もある。リンが楽しかったって言えるようにお兄ちゃん頑張るから、一緒に生きていこう?」
大きな手で小さな双子を抱きしめる。
暴走しかけたキカイトは無垢な双子を、主人の忘れ形見を壊すまいと己を静め、目の前のかけがえのない主人からの贈り物を大切にしようと心に決めた。
不完全な機械人形(おまけ)2
おまけが長すぎる?気のせいですよ(´ω`)マテ
おまけなのに2話まで続いてしまって申し訳ありませんorz
しかも本編の面目丸つぶれですねorz
自分で自分の作品壊してどうするー><;
そんなこんなでこのお話はこれでおしまい(´・ー・`)
ここまでお付き合い下さった方、どうもありがとうございました。
もし、この回だけをご覧になられた方、おまけのみご覧になられた方いらっしゃいましたら是非本編の方もご閲覧頂けたら幸いです。
毎度おなじみではございますが、温かいご感想など頂けたら作者喜びます(´・ー・)
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ファントムP
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ご意見・ご感想
日枝学
ご意見・ご感想
読了! 感想としてまず最初に思ったのは、このシリーズは も っ と 評 価 さ れ る べ き だということです。いやまあだってこれ良作だしこの作品作るのも技術ある程度高くないと出来ないだろうし、ともかく面白かったです! 他の救いようのない作品より、こういう、説得力のある救いようのなさ、のある作品って良いですね
2011/06/25 20:33:06
鐘雨モナ子
ありがとうございます><
評価ありがとうございます!ここまでお褒め頂くと恥ずかしくなってきますね(?´ω`)ポッ
また機会がありましたら是非お願い致します!
2011/06/26 00:24:48