『泣かないで…』
君によく似た高い声を聞くたび、思い出すのは最後の涙。
互いに未練を残したまま、別れることしか出来なかった。
背中に突き刺さる嗚咽を振り切って、縋り付く手も払い落として。
そうして迎えた『今日』は、なんて、色褪せているんだろう。
君さえ居れば僕は良かった。
君が幸せそうに笑っているだけで、僕も幸せだった。
「何をしてるんだ」なんて、自分に聞いても「答えなんか無い」と返るだけ。
手を繋ぐだけで気恥ずかしくて、俯いた朱色の頬を見ているだけで嬉しくて。
楽しかった。でも、もう、戻れない過去。
「遠く離れていても、心が繋がっている」なんて自惚れていたい訳じゃないけれど。
―――せめて、夢の中だけでも良い。
『笑ってよ…』
記憶に刻み込まれた君の涙と嗚咽。立ち止まる僕を、桜吹雪が優しく包み込む。
「どうして」…泣き喚く君の悲痛な叫びが、僕に君の幻覚を見せるんだ。
まるで呪いのように、恨みのように…。
好きだった。大好きだった。
戻れない。もう、戻ってはいけない。
忘れたくはないけれど、僕は進まなければいけないから。
あの日から、僕らの運命は切り離された。
桜の花弁を踏み締めて、僕は歩き出す。少しだけ振り向いた桜の樹に、ヒトコトだけ―――
『さようなら…』
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