『泣かないで…』


君によく似た高い声を聞くたび、思い出すのは最後の涙。

互いに未練を残したまま、別れることしか出来なかった。

背中に突き刺さる嗚咽を振り切って、縋り付く手も払い落として。

そうして迎えた『今日』は、なんて、色褪せているんだろう。


君さえ居れば僕は良かった。

君が幸せそうに笑っているだけで、僕も幸せだった。

「何をしてるんだ」なんて、自分に聞いても「答えなんか無い」と返るだけ。


手を繋ぐだけで気恥ずかしくて、俯いた朱色の頬を見ているだけで嬉しくて。

楽しかった。でも、もう、戻れない過去。

「遠く離れていても、心が繋がっている」なんて自惚れていたい訳じゃないけれど。

―――せめて、夢の中だけでも良い。


『笑ってよ…』


記憶に刻み込まれた君の涙と嗚咽。立ち止まる僕を、桜吹雪が優しく包み込む。

「どうして」…泣き喚く君の悲痛な叫びが、僕に君の幻覚を見せるんだ。

まるで呪いのように、恨みのように…。


好きだった。大好きだった。

戻れない。もう、戻ってはいけない。

忘れたくはないけれど、僕は進まなければいけないから。


あの日から、僕らの運命は切り離された。

桜の花弁を踏み締めて、僕は歩き出す。少しだけ振り向いた桜の樹に、ヒトコトだけ―――


『さようなら…』

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離別桜樹

好きだったけれど、別れなければならなかった…そんな少年のお話(!?)です。
題名の読み方は『りべつおうじゅ』。

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投稿日:2010/06/15 19:36:17

文字数:567文字

カテゴリ:小説

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