ここは、株式会社リンカーン。会社名の由来は、この会社が近年多彩化を続けるボーカロイド達の生活を支援することを目的とした、いわば「ボーカロイドの、ボーカロイドによる、ボーカロイドの為の会社」だからだ。
そんな会社の社長である僕ことカイトは、今、社員のめーちゃんが持ってきた予算案とにらめっこをしていた。
「……めーちゃん」
「ここではそう呼ぶなって言ってるでしょうが」
「あ、ごめん。この予算案なんだけどさ……」
「何か問題あった?」
問うメイコ君に物申すべく、僕は一息を置いた。
これから言おうとする件について、めーちゃ……メイコ君だけではない、他の社員の理解を得るのも難しい。厳しい戦いになるだろう……しかし、僕がこれを本当に必要だと考えている以上、やはり言わない訳にはいかない。
覚悟を決め、僕はメイコ君をまっすぐに見据えた。何故かメイコ君の顔が少し赤くなる。
「何故、アイス代が含まれていないんd(ry「アホかああああああああ!!」
言い切る前に、メイコ君の拳が僕の顎を打ち抜いた。社長っぽい雰囲気の椅子ごと、僕は後ろに倒れこむ。
……グーは酷いよ、めーちゃん……
「また始まりましたねー、いつものアレ」
「うん、やっぱあの社長についていけるメイコさん凄いよね……」
一瞬騒然とした社内はすぐに普段通りの姿に戻っていた。リリィ君とグミ君がひそひそ話をするのもいつもの事だ……なんだか社員の暴力行為に慣れてしまった会社というのも悲しい。
僕が社長っぽい感じの机の陰から顔を出すと、メイコ君はまだ肩を怒らせていた。
「こんのバカイトがあああ……!珍しく神妙な顔で何を言い出すかと思えば……!!……ちょっとかっこいいと思ってしまった私が馬鹿だった……」
「そんな事はない!アイスが経費で落ちるかどうかは、真剣に議論すべき命題だ!!」
「どこがよ!じゃあ実際にみんなに聞いてみる!?全員落ちないって答えるわよ!!」
拳を振り上げ熱弁する僕に、メイコ君は予測していた通りの返答をした。そう、その台詞を待っていたんだ。
「……言ったな。ならば、こうしないか?」
「?」
「もし社員全員がアイスは経費で落ちないと言ったら僕は諦めよう。だが、もし一人でも僕と同意見だったらアイス代を予算案に組み込んで貰おう!!」
「な、何言ってるのよ!?」
「別にそれでいいじゃないか。だって、君は全員が落ちないと答えると思っているんだろう?」
「……わかったわよ!乗ってやるわ!」
よし、上手くいった……!僕の思惑通りだ……!
メイコ君はイライラした感じの足取りで社員を招集する。少ししてルカ君を除く全員が集まった。
「おや、ルカ君は?」
「区切りつく所まで仕事こなしてから来るそうでーす」
疑問にはグミ君が答えた。
「そうか……で、君たちはどう思う?」
「それはないと思います」
「右に同じでーす。ていうかアイスだけってゆうのがないよねー」
「ねー」
バッサリ言い切るリリィ君にグミ君。まあ、これは予想の範囲内だ。今までならこれにルカ君も賛同し僕の意見は通らなかったろう。だが今は違う……!僕には勝算があるんだ……!
「では、がくぽ君。君はどう思う?」
落ち着いた口調で、僕は新入社員の神威がくぽ君に声をかけた。彼は、先日我が社にマスターを紹介してもらいにきたのだが、僕と一緒に探し回っている間になんだかんだで結局うちで雇う事になった。
自分と同じ男性である彼ならば、アイスの重要性を理解してくれるに違いない……!
だが、がくぽ君は僕の予想の斜め上を行く返答をしてきた。
「うーん、拙者、洋菓子の類は好まんので良くわからんでごるなー……」
「な、何を言ってるんだがくぽ君!?君はアイスを食べた事がないと言うのか!?」
僕は焦った。このままではアイス代を予算案に組み込む事ができなくなってしまう事以上に、がくぽ君がアイスを口にした事がないという事実に驚愕していた。
「が、がくぽ君、君は人生を半分以上損している!ほら、今すぐこれを食べるんだ!!」
慌てて僕は社の冷蔵庫(僕の私物)からハーゲン○ッツ抹茶味を取り出し彼に食べるよう促した。
「ん……おお、これは美味でござるな!」
「だろう?それを毎日、社内におやつとして配ったらいいと思わないか?」
「糖分は脳の働きに良いと聞くでござるからな、確かにいいかもしれないでござるな」
「ちょっと!カイトあんたそれって反則じゃないの!?」
「メイコ君、ここでは僕の事は社長と呼びたまえ」
焦るメイコ君に対し、僕は余裕の表情で答えた。一時はどうなることかと思ったが、やはり彼を雇い入れたのは正解だったようだ。
「っ……しゃ、社長、もしかして最初からこれを狙って……」
「狙う?アイスが経費で落ちるのは当然の事じゃないか」
歯噛みするメイコ君を見下ろし、僕は自分の作戦が上手くいった事を確信した。
すると、そこにルカ君が姿を現す。
「すみません、遅くなりました。何についての話し合いをされてるのですか?」
「おお、ルカ君。実は殆ど解決してしまったんだが、一応君にも聞いておこうか。アイスは経費で落ちるとおもうかい?」
「?いいえ……」
「や、やっぱり拙者もアイスは経費で落ちないと思うでござる!」
「ええっ!?」
ルカ君の発言を聞いた後、突如としてがくぽ君が意見を切り替えた。な、なぜだ……
「ねえ、社長。私の言ったとおりになったわね?」
困惑する僕の肩を叩き、メイコ君が笑顔で言った。
◆◆◆
「ありがとーカイトさん、助かりましたー」
「うん、これからも頑張ってね。……はぁ」
依頼人のリュウト君を笑顔で見送ると、僕の口から溜め息が零れ落ちた。
「なぜ、誰もアイスの重要性を理解してくれないんだ……」
アイスを食しながら仕事を行えたならば、能率も良くなるだろうし、来客用に出すお菓子をアイスに変えたならば、それだけで社の評価も間違いなく上がる。
そもそも、人が生きていく上でアイスは必要不可欠な物じゃないか……!!
「うーん、どうにかしてみんなにアイスの大切さを教える方法はないものかな……とは言っても今まで通りのアプローチはもう出来ないし……ん?」
「るぅぅか、るかるか、るぅぅぅ」
夕飯の材料を買うべく僕がスーパーに入ると、たこ焼きの試食コーナーが目に留まった。担当らしきたこルカが、こちらにつまようじの刺さったたこ焼きを差し出して来る。
「あ、ありがとう」
受け取り口に放り込む。うん、美味しい。今日はこれにしようか。
「……!」
(そうか……これだ!)
その時、僕の全身を稲妻が駆け巡った。
湧き上がるインスピレーション。早く実行に移さねば……!
「たこルカ、これ三箱!」
「るかか~」
僕は購入したたこ焼きを抱え、急ぎその場を後にした。背後では、たこルカが手(?)を振っていた。
◆◆◆
「……ねえ、これはどういう事かしら」
翌日、自分の席の机の上に置かれた物を眺め、メイコ君は僕に問う。
そこには、小型の機械の中にアイスクリームの容器が置かれた光景があった。
「ん、中身が溶けてた?だったら交換するよ?機械で冷やしてるから大丈夫だと思うけど……あ、安物の60円シャーベットで悪いんだけど、勘弁してね。全員分揃えるとなるとそれは我慢して貰わないと……」
「……いや、じゃなくて。あんたは昨日夕飯食べた後そうそうに家を飛び出して、帰りもせずにこんなことをやってたって事?」
「まあね。あ、ちゃんと全部自費で揃えたから約束は破ってないよ?」
「……はぁ……ならもういいわ、勝手にして……みんな喜んでるみたいだし……」
溜め息と共にメイコ君は席に戻った。どうやら納得してくれたようだ。その周りではみんながアイスを食べながら談笑している。
(どうやら、上手くいったみたいだな)
そう、僕は気づいたのだ。みんなにアイスの良さを理解して貰う為には、実際に食べてもらうのが一番だと。機械の設置で今月の給料はほぼなくなってしまったし、全員分のアイスを買う以上、ハーゲン○ッツもしばらくは我慢しなくてはならないだろう。
だが、これでみんながアイスの素晴らしさに気づいてくれるというなら、安い出費だ。これからも、そのための努力を続けなくては……!
「……あれ?なんだか目的が変わってるような……」
……まいっか。
短編8~カイト兄さんと愉快な社員達~
短編、カイト視点です。これで漸く一区切りつきました。
今回はひたすらカイトのキャラを崩しにかかりました。かっこいいだけのカイトになんか、僕は堪えられないんだああああああ!←
これからの短編ですが、今後は視点はランダムに切り替わってゆくことになると思います。これで終了ではなくしつこく続けますので、どうか見捨てず見守っていて下さい←
さりげ、キャラ登場数最多←
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ご意見・ご感想
絢那@受験ですのであんまいない
ご意見・ご感想
がっくん可愛いですね!ルカのストーカーにならないよう祈ります(笑)
アイスの重要性なら私が理解しているぞよ、KAITO! 冬でもアイス食べますよ←
自費でハーゲン○ッツ!?すげえwww
次回楽しみにしてます
2011/05/31 16:48:22
瓶底眼鏡
もしかしたらカイトとレンではじけられなかった分をがくぽで発散する事になるかも……もしそうなったら確実に変質者に←
カイトはそれを聞いたら泣いて喜ぶと思います←
あまりに焦っていたのでがくぽについ渡してしまったのです、それだけ衝撃的な事だったんでしょう←
はい、頑張ります!……まあ今書いてるのは陰謀ですが←
2011/05/31 16:58:19