ふと、空を見上げる。
まだ月は大地をうっすらと照らしていた。
「…」
何も言わず、ただ月を見て、レンは息を求めてしまったかのように動かなくなった。青い瞳に、暗い空の色と青白い月の色が美しいコントラストでうつり、まるで月光を受けて輝く宝石のようだった。
月光の元なら、日光の元にいるよりも断然落ち着く。
決して鮮やかではない闇夜、ぽつんと窓辺に立つ少年の姿は、外の道から見ればおかしな子供のようにしか見えなかったかもしれない。
太陽が昇ってくるまでにはまだ時間がある。既にリンは眠ってしまった。
特にやっておかなければいけないことはないし、別にやっておきたいこともなく、レンは非常に暇だった。昼間、あんなに寝てしまったこともあり、今から早めに寝ようという気にはなれない。
しばらく考えて、レンは机の上に無造作におかれたスケッチブックに目をやった。中には何もかかれていないが勝手に使ってもいいのだろうか、と少しだけ心配してしまったが、そこにあるのだから使っていいものと考えていいだろう。
スケッチブックを開いて、鉛筆を走らせた。特に何を書くわけでもない。思いつくままに、ただ何となく。
いつの間にか気がついたときにスケッチブックに描かれていたのは、小さな子猫と満月、それと猫の後ろに広がる海。それはあの夢と心なしにていたが、そんなことは気にせず、着彩に入る。色鉛筆だけだが、それなりの質感が出るほどの技術は持っている。
週に何度も城を抜け出すようなやんちゃ坊主が、こんな絵を描いているというのはどうも考えられないような気もするが、レンのことをある程度知っているものなら、納得のいくレベルの絵である。いつも、こんな絵は描かない。動物たちがじゃれあう絵、ヴァンパイアが飛び交う空、見たこともなかった太陽の下に咲く数輪の花、人間とヴァイパイアが手をつないで微笑む姿…。優しげな絵や明るい絵、幻想的な絵を描くレンとしては、今回の怪しげな雰囲気の絵は、いつもより画力が劣っているようにも見えた。
自分でも何を書きたかったのかよくわからなかったが、猫と月と海が何なのかもよくわからなかったが、何かメッセージのようなものを感じた。
「…」
少し身体を動かし、アカイトは月を見上げた。鈍い黄色に光る月は幻想的だ。まあ、ヴァンパイアの国では日が上ることがないから、常にこのような状態なのだが。
城の横に備え付けられた、闘技場の修行部屋のような場所である。
「アカイト、ちょっと軽食になりそうなものを作ろうと思うんだけど…いる?」
ドアを開いて入ってくるなり、カイトはそういった。切れてしまった息を整えながらアカイトが頷いてみせると、カイトは満足げに微笑んで、調理場へ向かっていった。それを見送って、アカイトもそこを出た。鍵をかけて、それから城の中に戻っていく。これが毎日の日課である。ちなみに、カイトが声をかけてくるのも、カイトの日課となっている。
なんとなしに城門のほうを見ると、何だか騒がしい。そういうものは気になるもので、アカイトは近寄っていく。
「どうした、なんかあったか?」
ひょっこりと顔を出して兵士のひとりに声をかけると、兵士は少し驚きながらもアカイトに説明した。
「そ、それが…」
「?」
大体、こんなことになったのはルキのせいだと思う。
いきなりルキがあんなふうにあんなことを言うから、ドキドキして冷静な判断が出来なくなっていたのだ。全部ルキ所為だ。戻ったら、一番高いハイヒールで踏んでやる。…まあ、戻れるかどうかが問題なのだが…。
「…ちょっと、これはどういうつもりですかっ!?早くこの縄を解きなさい!今のうちに開放すれば、許してやりますわ!」
精一杯の強がりを言いながら、ルカはしばられた腕と足を何度もガタガタと音を立てて動かした。
『ウルフの首領が何者かに連れ去られたということで、同盟を結んでいる我国に援護を頼みたいと』
兵士はそういったが、『ウルフ』というのは、俗に言う『狼男』の仲間みたいなもので、彼らの中では男も女もそれ以外も含めて狼系統の生き物を『ウルフ』と呼ぶ。今回のウルフとは、その中でも高等とされる人型のウルフのことだ。
このルカという女性は、人型ウルフの首領で、非常に気高く美しく、『ドS』であるというのはあまりにも有名な話だった。気が強くて切れ長の目は、確かに気高さと首領らしい正義感を感じさせる、不思議な光を持っている。
「聞いているんですか?この縄を解くように言っているじゃありませんかっ!」
「…五月蝿いなぁ、ちょっと黙ってよ。こっちは晩ご飯…っていうか、寧ろ夜食の最中なんだから。ウルフはやっぱり吠えるね」
無関心そうに少女が言った。緑のショートヘアーの髪は横紙の方が長い。
「な…っ!私たちはその辺の下等な犬とは違いますのよッ!!」
そのとき、ルカのお腹が『ぐぅぅ~…』と大きな音を鳴らした。恥ずかしそうにルカが顔を赤らめてうつむいたのを見て、少女はスプーンを加えたまましばらく黙っていた。
「…食べる?」
「…うぅ…」
また恥ずかしそうにしたが、今度は小さく頷いた。
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