タグ「鬼と娘」のついた投稿作品一覧(5)
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歩む音が二つ。
生い茂った山道をその二つの影は進んでいた。
雲ひとつない晴天とまではいかないが、空には薄雲がかかっていて、時折視界を仄暗くする。
「かいとは…」
ポツリと呟く声にかいとは後ろを振り向いた。
頭に手ぬぐいを巻いた黄色の髪が、日差しに解けて反射する。
「かいとは自分が人間だった...鬼の子-終わり-
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しゃくりあげる僕の背中を撫でる手のひらが優しくて、なかなか泣き止むことが出来なかった。
その人はただ僕の思いを聞いてくれた。
そして、僕は無知なことに気付いた。
「僕は聞けなかった…」
普通に話せるようになったのは、もう朝焼けが近いころだった。
青い髪の鬼と黄色の髪の鬼の子。二人で湖のほと...鬼の子-その11-
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聞こえる?
生きている音が。
その人が再び僕のところを訪れたのは、もう星が瞬き始めるころだった。
昼間にも来たのに、夜になって町を出てくるなんて、怪しすぎる。
僕の警戒もよそに、その人はのんきに湖で足を洗っていた。どうやら、今夜はここに居座るつもりらしい。
「昼間は驚かせてしまったみたいだ...鬼の子-その10-
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これは僕が青い世界を見る前日のお話。
長い間、人に囲まれて生活していると、時折錯覚してしまいそうになる。
俺はそちら側ではない。
拒絶されることも、受け入れられることも、あることを知っているけど。
誰だって、傷付けば痛い。
痛いことにすら気付けないのなら、それは哀しい事だと、あの人は寂し...鬼の子-その9-
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優しさが欲しいと思ったのは、寂しさを知ってからだった。
温もりが欲しいと思ったのは、冷たさを知ってからだった。
理由が欲しいと思ったのは、孤独を知ってからだった。
すべては知った後だった。
それがどれだけの意味を持っていたのか。
やっと気付いた。
「確かに、自分の弱さを知るのは良い事だと...鬼の子-その8-