叶わないけれど、せめて最後だけは。
<<サヨナラの前に一つだけ>>
僕の未来が、色づいていればいい。
僕も気づけば高校生だ。
学生は基本勉強と戦っているが、僕はもう一つの戦いがある。
僕は生まれた時から、他の人より心臓が弱かった。
小さいころから心臓の病気と闘って、最近ようやく落ち着いてきた。
そんな僕の唯一の楽しみは、漫画でもアニメでもゲームでもなく、絵を描くこと。
僕は人生の半分くらいを病院のベッドの上で過ごしてきたので、絵を描くことは得意であり好きだった。
高校生になり、体の調子もよくなった。そのため、両親は外出の許可をくれた。
だから、僕は品揃えが良いらしい画材店に行った。
病院も自宅も近かったので、近所にそのような画材店があることはとても嬉しかった。
小さいころ、入院してずっと寂しい日々をおくっていた僕に、両親は色鉛筆をくれた。
色鉛筆なら間違えても消しゴムで消すことができるし、ペンが使いにくかった僕には最高の道具だった。
その思い出いっぱいの色鉛筆を、学校帰りに買いに行った。
でも、その画材店の色鉛筆のコーナーは人がいなかった。
まあ最近は、ペンタブというものが流行っているらしいから、仕方のないことなんだろうけど。
「あ、あの…絵、好きなんですか?」
突然かけられた声に思わず後ろを振り返ると、そこには一人の女性がいた。
僕に声をかけた後、女性は少しだけ「しまった」というような顔をしていた。まずい。泣かせてしまうかもしれない。
僕は、女性ににっこりと微笑み、質問に答えた。
「えぇ。あなたもですか?」
「はい。趣味なんで」
「へぇ。まぁ、僕は絵が好きすぎて逆に辛いですが」
「あはは」
女性は笑ってくれた。
女性といっても、外見は僕と同じ高校生っぽくて、制服を着ていた。
大人っぽくて、でもどこか幼さを秘めた雰囲気だ。
桃色の髪と顔は、そこらへんのモデルなんかに負けないぐらいに美しかった。
特に声は、一度聞くとずっと聞いていたい程にキレイな声で、とても印象的だった。
「あなたは、よくここに来たりするんですか?」
「暇なときにここにきますよ」
「放課後とか、休日とかですか?」
「そうですね」
今の彼女が制服を着ていることから、もしかしたらこの時間は会えるかもとか思ってしまう自分がいた。
「じゃあ、僕はこれで」
彼女に手を振り、僕はその場から立ち去った。
明日もここに来てみようか。もしかしたら、また会えるかもしれないから。
次の日、同じ時間帯に画材店へ寄る。
あの場所で少し待っていると、彼女が来た。
「あ、昨日の」
「こんにちは、また会いましたね」
僕は「偶然」を装い、彼女に微笑んだ。
だって、言えるわけないじゃないか―――君に会いたかったなんて。
そして、また他愛もない会話をする。
その会話で、わかったことがある。
彼女の名前は巡音ルカだということ。
偶然にも僕と同じ高校に通っていて、しかも同級生だということ。
その次の日も、毎日同じ時間帯に、同じ場所で彼女に会い、話し合う。
いつのまにか、それが日常になっていた。
彼女といる時間はとても楽しくて。
彼女と話す10分ほどの短い時間は、気づけば一番幸せな時間になっていた。
彼女に会えることがとても嬉しかった。
彼女と話をしたい、できるならずっと一緒にいたい。本当にそう思えた。
僕の、この感情の名前は……
ある日、高校の図書室で巡音さんに会った。
「調べ物ですか?」
「まあね。巡音さんは?」
巡音さんが「読む本を適当に借りてこようとして来た」とのことなので「ここはおもしろい本がたくさんあるよ」と紹介した。
巡音さんが本を選んでいる間、僕は小さな紙にペンを走らせる。
その動作だけで、少し胸が苦しくなる。
本当は、わかっていたんだ。だから、僕はこれを残す。
そして、ある本にその紙を挟んだ。
いつか、君は気づいてくれるはず。
あとは、ポケットにしまったこの手紙だけど…
これは、あの場所に置いておけば大丈夫だろう。
翌日、あの場所で君に会う。
ごめんね。君との時間は楽しかったのに。
「僕は、もうここに来れないかもしれない」
君は、わけがわからないというような顔をしている。
「どうして?」
「…僕は元々、心臓が悪くてね。辛くなってきたから、もうすぐいい病院の近くの高校に転校する」
本当は、もっと一緒にいたかった。もっと話をしたかった。
だけど、神様はその願いを叶えてくれない。
神様なんていないんだ。
「本当にごめんね。僕には、何も【残せない】」
「神威くん…?」
「本当に、本当にごめんね、巡音さん」
「―――サヨナラ」
それからの残り時間は空っぽだった。
一日の半分も起きていることができなくて、左胸はずっと痛くて。
呼吸はしづらくて、何もできなくて、ずっとずっと辛くて―――そして、君に会えなくて。
もうわかっていた。僕には、もう時間が残されていないんだって。
そして、とうとう時間になった。
もう体を動かすことができない。指一本さえも。
沈んでいく意識の中で最後に思ったのは。
『君は、一人なんかじゃない』
誰かの声が、聞こえた気がした――――
【がくぽ誕生祭】サヨナラの前に一つだけ【がくルカ】
「せめて、最後の時だけは」
少し早いですが、がくぽ誕生祭として書きました。
「サヨナラを告げる前に」(http://piapro.jp/t/F_W8)の別視点です。
そして続きます。
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駒木優
A1
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恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
ほら
「よくわからない何か」が、こうして芽吹いているではないですかw
2013/06/27 03:48:20
ゆるりー
芽吹きましたねw
2013/06/27 18:22:07