ギギギギギィィィィ……
厳かな音を立ててて扉が手前に開く。日が沈み暗くなっていた廊下に光が漏れる。白衣の男と看護師が室内に駆け込む。その後に馬車を扱っていた使用人が続く。俺は扉を閉めようとしていた使用人の脇をすり抜け室内に滑り込んだ。
「患者は?」
先に入っていた医者が問う。
「この娘です。」
豪華な服を着た老紳士が、これまた豪華な天蓋付ベットに横たわっているであろう少女を指差した。はっきりと言えないのは、ベットにかけられた羽毛の布団のせいでその少女自身はこちらから全く見えないからである。医者と看護師は青ざめた顔をして、ベットの周りに駆け寄り慌ただしく診察をはじめた。
「ふぁぁ~ぁ。」
俺は盛大に欠伸をした。もちろん姿が見えないなら声も聞こえない。医者とおそらく伯爵だろうと思われる男の会話の最中に俺はすばやく周りの人間の寿命を確認した。しかし最近死ぬ予定のある奴なんていなかった。この部屋の中に俺の存在を認知できる奴は存在しなかったのだ。まあ、俺から姿が確認できないベットの中の少女がそれならば別だが…わざわざ俺が医者の仕事を俺が奪ってやる必要もないだろう。
とにかく退屈だ。自慢ではないが俺は仕事柄医者の仕事なんて何度も見物済みだ。糸で触診をする医者、ベットの周りを駆け回る看護師、おろおろする伯爵夫妻、そばで控える使用人達…
とことんくだらない。何かものめずらしいものでも見れるかと思ったが、こんな退屈な病室に長居はごめんと思った。このままここを立ち去ろうか?もしもベットの少女がターゲットだったなら、明日の明朝にでも戻ってくればいいだろう。俺がそう思い足を扉に向けかけたとき、
「まことに残念ではございますが…お嬢様はもう手遅れかと…」
医者がそう告げ、俺は足を止めた。
「も、もうどうにもならんのかね?」
「はい。残念ですがもう手の施しようが…」
伯爵の問いに医者が答える。伯爵夫妻がは絶句した。別に珍しい光景ではない…俺にとっては……俺は再び足を動かしだした。
「そう、私はもう助からないの。」
その時俺の耳に誰よりも冷静な声が響いた。俺は足を止め振り返った。声はベットから響き、ベットの主は身体を起こしていた。
「リン!!」
「お嬢様!!」
伯爵と医者が同時に叫ぶ。そして俺はそのリンと呼ばれた少女を見た。間違いない。彼女がターゲットだ。
「わたしは、もう死ぬの。ねぇ、お父様。いっそ今殺して。」
これには俺も驚いた。実の父に向かって殺せという少女はそうはいない。
「なにを言うんだリン!!」
当の伯爵本人も驚きを隠せていない。その顔には驚愕と恐怖が刻まれていた。
「そう…お医者様。貴方なら出来るんじゃない?殺して。」
医者は短い悲鳴を上げてベットから飛び退いた。と同時に伯爵に寄り添っていた伯爵夫人が無言で崩れるように倒れた。おそらく娘が助からないと分かったのと、その娘からの衝撃的な発言にショックを受けたのだろう。
「つ、妻をベットへ!!」
伯爵が叫び、使用人と医者達が一斉に動く。医者と看護師、使用人達は伯爵夫人を担ぎ部屋から出て行った。あとに残ったのは、ベットの上のリン=オレンジゴールドとその父である伯爵、そして俺だけだった。
「お父様、少し一人にしてくれないかしら?」
娘は顔を伏せてそう言う。伯爵は一瞬迷うそぶりを見せたが、おやすみとつぶやき照明を暗くして部屋から出て行った。今日は月が明るい。扉が閉まっても、少女は起き上がったままなのがよくわかる。
「それで、貴方は誰なの?」
少女が確実にこちらを向いて言う。俺は月明かりの中に出て、フードを取り傅いた。
「死神です。」
これでも俺は長く生きている。貴人に対してどういう接し方をすればいいのかは心得ているつもりだ。
「貴方…そう死神なのね…」
「そうです。」
意外にもすんなりと理解されたことに驚きながらも、最低限の言葉で応じる。
「だったら、今すぐ私を殺しなさい。」
「…………。」
若干予想の出来たことであったが、前にも言った通り俺には直接人を殺める力はない。
「まさか出来ないの?」
少女が呆れと失望の入り混じった声で問う。俺は適当にそうだと答えた。
「死神様って融通が利かないのね。」
現世での死神のイメージのせいか、俺達死神はよく誤解をされる。それにしてもなぜこの少女はここまで死を望むのだろう?死神の俺にはイマイチ理解できない感情だった。
「しょうがない死神ね。ねぇあなた他にできることはないの?」
少女は俺に聞いてくる。どうやら彼女は死神の自分をまだ開放してはくれなさそうだ。面倒臭いと思う、しかし同時に…なぜか…マントを一振りすれば、ここから逃れられるのにそれをしたくないと思っている自分がいた。所詮行き当たりばったりの俺だ。しばらくこの少女に振り回されてみるのも悪くないと思い、命の期限を見ることやマントによる移動などのことを話した。すると、少女が悪戯っぽく微笑む。
「私、前から街に行ってみたいと思っていたのよ。ねぇ、そのマントで連れて行って。」
話を聞くと彼女は幼い頃から病弱で、屋敷の外に出たことはないらしい。今日は何かがおかしい。熱に犯されたのだろうか?俺はこの頼みを了承してしまった。なぜなのかは自分でもわからない。でも、
「今日はもう遅いので明日の朝にいたしましょう。」
「そういって、明日になれば貴方はもういないのではないか?」
「そんなことは、ありません。死神は約束を守ります。」
「本当だな。」
「ええ。」
安心したように眠る彼女の寝顔は、儚く、とても可愛かった。
オレンジゴールドのナイト―鎌を持てない死神の話②―
白黒Pさんの鎌を持てない死神の話(http://www.nicovideo.jp/watch/nm6630292)を勝手に小説にさせて頂きましたシリーズ第二弾。
っ難い!!人じゃない設定だといろいろ難しいです。
なんか今回ぜんぜんきりつかなくてくそ長くなっちゃたし…
ライトは困っております。でも続けるつもり♪
続きはこちら(http://piapro.jp/t/4S0l)
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那薇
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